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受け継がれるバトン  作者: 伊達サキ
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さあ、気分を一新させてカルテの虫干し作業を再開した。小一時間ほどして「イ」が終わり、自主的にひと息入れてから「ウ」の箱に取り掛かった。初夏のまぶしい日射しが一部ごとのカルテに元気を吹き込んているようだった。少し進んでふと、何かの違和感に気づき、あるカルテが目に止まった。名前を見ると「上田はる」…一般的にはよくある姓で昭和っていうか昔懐かしさを感じる。そして「はる」という名前。ふとあのキンキン声の担当看護師だったハルを思い出した。今となっては苦笑いで思い出す事もあまりなくなったがやはりハルと病院生活とは切り離せないひとくくりのものだ。出来れば忘れてしまいたい過去だった。この「はる」さんも小山医院とはかなり長い付き合いのようでそのカルテもだいぶ厚くなっていた。さらっと表示に目を滑らせ中身の手入れに入ろうとした時だった。ある場所で目が釘付けになった。職業「看護師」勤務先「Y総合病院」!!まさか、あのハル?!何故?!ナゼ「ハル」がここの病院に…?


まさか、ここに…あのハルが通院していたとは我が目を疑いながら二度見した。やはり間違いではなかった。もちろん他のカルテ同様丁寧に手入れしなくてはいけないのは分かっているが動揺は隠せない。小山医院は規模としては決して大きくはないが、内科、外科、整形外科と多方面に渡り優秀であるのは間違いない。町のかかりつけ医にするにはこれ以上頼りになる所ほ他にないと、ミホが太鼓判を押しまくりである。が、これと言ってハルに結び付くものも見つからない。表示をささっと済ませ一枚目を開く。初診は今から五年前、M病院からの紹介状が添付されていた。総合病院でもないこの小山医院にわざわざ紹介状持参なんて…全くナゾだ。『?』マークがまた一つ増えた。オールマイティに思われる小山医院の得意分野って一体何なのだろうか?改めて考えるとミホにもよくよくわからなくなった。とは言え固く封印された手紙は流石にあけることは、はばかられた。性善説か、それとも天使の心が勝ったと言う事か、兎に角ミホがその時の行動を後に悔やむことになるのだか。


ハルのカルテは他のそれとは一目瞭然に異なりドイツ語らしきものが多くて、その上医師特有のわざと下手くそな字が羅列されていた。お医者さんは患者等に分かりにくいようにする為にワザと乱暴で読みづらい文字を使うと、以前聞いた事がある。さしずめハルのカルテもそういう防波堤で守られているのだろう。そう、今のミホにも全く内容がわからないように。 その上、小山先生の文字はもともとミミズの行列だからもう、「ハイハイ読めませんよー」と少し膨れっ面になった。また、医療従事者特有の隠語や略語では何かのはずみでハル本人の目に入っても内容を悟られる事の無いようにとの配慮かとも勘ぐった。初診からちょうと一ヶ月間隔で受診していた。しかし…。不思議な事に

何かの治療をしているでもなく、ただひたすら再診を繰り返しているようだった。そして、直近の日付が丁度1年前だ。それからは音沙汰無しでここには来ていない。ハルは一体何をしにここ小山医院にきたのか?そして何の目的で空受診を続けていたのか?そしてその後彼女がどうなったのか?


カルテはそこで終わっていたのでそれ以上のハルの足取りを知ることは出来なかった。全く謎だ。そして何だかわからないがミホの心の奥底に小石みたいな物がひっかかった。あまりにも小さ過ぎて今はそれがなんなのか解らないが、ひっかかる…。まさか小山先生に聞く訳にもいかずモヤモヤしたまま次のカルテに移った。後になって思えばその時もっと突っ込んで調べていれば良かったのかとも思う。そうしていればそれぞれの未来が少しは変わっていたのかも知れなかった。たとえそれが定められた運命であったとしても…。

しばらくは、目がチカチカして焦点が合わなかった。無理もない。暗闇から一転して部屋の隅々まで十分すぎる光かとどくくらいの電灯の光源に包み込まれてまるで蜃気楼の中にでも居るようで立っているのがやっとだった。暗い所に目を慣らすというのは良くある話だけど明るい所に目を慣らす方が難しい気がする。極度の緊張の中に居るせいかも知れないが瞳孔が悲鳴をあげていた。出来るだけゆっくりと眩い光に目を置き直して後ろまでぐるりと振り返ったその時の、けたたましい音が耳をつん裂いた。


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