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受け継がれるバトン  作者: 伊達サキ
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2ヶ月ぶりになる川崎先生の診察では特に病気は悪くはなっていない様で体もCoCoLoも少しく軽くなった気がした。しかし決して無理はしないようにと釘をさされた。いくら優秀な医師でもやはり、ニンゲン同士相性と言うものがあると聞いたことがある。そう言う意味では川崎医師はミホにとってベストパートナーと言えるだろう。何もかもお見通しらしく口がさけても仕事をしているなどとはいえなかったが、さっきの釘はミホのツボをしっかりとついていた。参ったなぁ…。帰り際になってもう一つの気がかりになっていた例の部屋について先生に尋ねてみた。正確にはあの部屋から取り乱して出てきたハルについてではあるが彼女にもプライバシーがあるしもちろん守秘義務もだ。きっと答えてくれないだろう。

それならせめてあの部屋の秘密だけはスッキリさせたかった。何故そんなことを聞くのかと返されたが入院中の気晴らしに散歩していたら偶然通りがかりプレートが掲げられていなくて何だか気になりその後も数回行ってはみたものの人の気配はなく誰に聞いても知らないと言うから…と適当に取り繕ってはみたものの情けないくらい自分でもちぐはぐな返答をしてしまった。また、見透かされたかな?「そうなんだ…。ミホさんもここにはだいぶん長く居たからねぇ。いろいろな大変だったけどよく頑張ったよね。。。もう病院の隅々まで知っているんしゃあないの?」やはり空振りだ。話をはぐらかそうとしている。逆に先生の魂胆も手にとるように分かる。かえって何とかしてヒントだけでも聞き出してやろうという思いが強くなった。しかし、「結局ミホさんには全然関係の無い所だよ。」と三振バッターアウト!かすりもしなかった!こうなると是が非でも知りたいと言う人間的欲求が強くなってきた。そうだ!院内放送局に行こう!あそこは情報の早さと豊富さにかけてはピカいちだからね。「すみませーん。コーヒー牛乳くださーい。」最近では大病院にもコンビニが算入している所が多いため昔ながらの売店というものが次々とその姿を消している。そんな中でこの病院には珍しくまだ売店と名物おばちゃんが存在しているのた。そしてそこのおばちゃんはかれこれ30年近くもこの病院と共に生き、年表を重ねている。俗に言う『ラスボス』なのだ。

良きにつけ悪しきにつけそのウワサにかけてはニュース速報よりも早いのは周知である。コーヒー牛乳を片手にとりとめもない会話を続けちょうと売店がヒマになる事を待った。おばちゃんにしてみても顔見知りのちょうどいいお茶飲み友達の訪問にふと気がゆるんでもおかしくはなかった。ミホが入院してからのかれこれ三年間を振り返りながら一時間程話しただろうか…。その頃にはもはや何の警戒心や防衛本能もなくなっていた。さすがのミホも少々疲れてきたのでいよいよ核心となる「例の部屋」の事を尋ねることにした。今となっては遠廻しな聞き方など必要ない。とは言え川崎先生までもが語りたがらない内部情報なのだからすこしはオブラートに包んだ方が良さそうだ。「あぁ、おばちゃん、私さっき売店を探してたら補修工事でさぁ迷子になっちゃったんだ。そしてね、ウロウロしていたら何だか変な所にでちゃって…ほら一階北側の何のプレートもかかっていなくて薄暗い診察室みたいな所あるでしょ。あまりにも奥まった所だったんで今まで知らなかったんだけどあそこって何をする部屋なの?おばちゃんなら知っているんでしょ?」自分でもなんてわざとらしい言い方だな…とおもったのだけどおばちゃんは何のためらいもなく『あぁ、あそこね。宣告室の事だろ…』と言いかけて咄嗟に目をそらした。

無意識の防御反応のように。「えぇっ?!宣告室?それってどういう事なの?」と聞き返すミホに『ええ〜っと宣…せん…そうせんたく室だったかな…』とあからさまにボケたふりをした。そして、まだレジきも来ていないお客さんに『何か探し物ですか?』と言いながら居心地悪そうにミホの前から離れて行ってしまった。あの情報屋のおばちゃんでさえここまでか…と思いながらとうの昔に空っぽになっていたコーヒー牛乳の瓶を返し、そっと売店を後にした。『セ、ン、コ、ク、シ、ツ』って一体何の事だろう…。好奇心は増す一方だった。誰もが申し合わせたように口を閉ざす迷宮。こうなったら実力行使だ。この目で確かめる他はない!火のついたタバコは水をかけるまで消えずにくすぶり続ける。それが

自分で浸けてしまった火だとしても…。

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