三話
魔道壁の発生装置が、広陵前哨基地に配備されている。
少年兵団の結成は小国アルタイルにとって苦肉の策である。
10歳に満たない子供で構成される。
子供の身長ならば、デネブ帝国に気づかれずに魔道壁を潜れる。
国境から前哨基地までおよそ10km。
爆薬を湿地帯で濡らさないことと、起爆方法を訓練されていた。
少年兵団は湿地帯を進む。
蔦やぬかるみに足が取られ、思うように前進できない。
ウィパーは9歳。
短く切った赤髪に眼鏡をかけた女の子だ。
やんちゃな子である、プアハウス時代、先生が見ていないところで昆虫を追いかけるのが好きだった。
背丈より大きい、軍のバックパックを担いでいる。
バックパックにはオガクズが詰まっている。
湿地帯で足を取られるたび、オガクズがこぼれ落ちそうになる。
「歩きにくい!なんなのこのぬかるみは!靴の中がぐしょぐしょ!!」
フランシスコは8歳。
隊の最年少だが、リーダーを務める。勇敢で賢い少年だ。
手旗信号の解読が得意である。成人すればアルタイルを率いるのかもしれない。
バックパックに爆薬の被膜と工作道具を持つ。
ウィパーの声を聞きながら、目前に迫った魔道壁を眺める。
「落ち着いてよ、ウィパー。隊長と定時交信の時間だ。」
行軍が止まる。隊のみんなが肩を下ろし、膝に手を載せる。
ウィパーがきょとんとしながら、座れる場所を探す。定時交信?何だっけそれ。
レキマーは9歳。
好奇心が旺盛なかっぷくのよい少年である。隊の中では一番体格がいい。
何を考えているかわからないこともあるが、言われたことは守る。真面目な奴で呑み込みが早い。
ウィパーと同じくオガクズを背負う。
双眼鏡で、出発地の丘の上を確認する。
手早く、手元の紙に短い線を書き連ねていく。
レキマーの紙をフランシスコが覗き込む。
ミミズが這うようなメモを、レキマーが声にする。
「ヒガクレル、カベマエ、ヤエイ、ケントウイノル」
座る場所を見つけられなかった、ウィパーが不機嫌そうに言う。
「湿地帯でテントなんてできないわ。ペグを打ち込んでもすぐ抜けちゃうじゃない。」