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路地裏と女神と騎士

 

「それで、何でお前が此処に居るんだよ」


 クソ女神の手を引いて走り、人気の無い路地裏までやって来た俺は、唯一の出口を自分の体で塞いで、クソ女神が逃げ出せないようにしながら、厳しい口調で問い詰める。

 それに対してクソ女神は少しの間、挙動不審気味に辺りをキョロキョロと見渡しながら、口を開こうとしては閉じてを繰り返していたが、やがて意を決したのか、小声ながらも事情を話し出した。


「えっと、その、実はちょっと重罪を犯しちゃって、憲兵団に捕まりそうになったから、天界から逃げてきたのよ……」

「はぁ? 天界から逃げたって、何やらかしたんだよ」


 俺の質問に、クソ女神は俯いた状態のまま、チラッと申し訳なさそうに俺の方を見る。

 それだけで、何でこのクソ女神が捕まりそうになったのかは、何となく察する事が出来た。


「ああ、うん、何となく分かった」

「その、ご免なさい……」


 クソ女神はそう言って、肩を落としながら頭を下げる。

 まったく、本当は俺を女に転生させた事や、錬金術の説明が足らなかった事を気のすむまで責めるつもりだったのに、こんな態度とられちゃ、怒るに怒れないじゃないか。


「ハァ……まぁ、別に良いけどな」

「許してくれるの?」

「ああ」

「じゃああれは、合意の上だったって事にしてくれる?」

「ああ……ん?」


 俺がつい勢いのまま頷くと、クソ女神は肩を落として俯きながら、小刻みに肩を震わせる。どうかしたのかと思い、声をかけようとした次の瞬間だった。


「いぃやっっほぉぉう!!」


 顔を上げ、満面の笑みで、いつの間にかボイスレコーダーが握られていた右手を突き上げたクソ女神からは、さっきまでの汐らしい態度は消え失せ、その姿はかつて天界で見たときと同じアホっぽい雰囲気へと一瞬で戻ってしまった。


「いやぁ、あんたならそう言ってくれると思ったわよ。やっぱり、持つべきものは親友ね! これであのうるさいハエ共に、あの転生は失敗だったんじゃ無くて、合意の上で女として転生させたって、言ってやる事が出来るわ!」


 俺が事態に付いていけず、戸惑いのまま硬直していると、その間にクソ女神は馴れ馴れしく俺の肩に腕を回して抱き寄せ、おっぱいを俺の顔に押し当てながら、天に向かって中指を突き立てる。

 その辺になってようやく俺の頭が先起動しだす。

 なるほど、つまりこのクソ女神は、自分の失敗を反省してない処か、自分の罪を揉み消そうとしているわけか……うん、決めた。やっぱり、ヤろう。


「おい、クソ女神」

「ん?」

「死ねやゴラァァァ!!」

「ふごっ!?」


 全身の力を右の拳一点に集中させ、渾身のアッパーカットをクソ女神の顎目掛けて繰り出す。

 途中でおっぱいに拳を妨げられた為、威力は大幅に減衰してしまったが、それでもクソ女神を怯ませる事に成功。その隙に距離を取り、再びショルダータックルをぶちかませる体勢を取る。

 生憎と、只の幼女でしか無い俺の力では、殴ったところで与えられるダメージなどたかが知れているため、全身の力を使って攻撃できるこのショルダータックルこそが、最もダメージを与えられる技なのだ。


「いったぁ~。何するのよ!」

「うるせぇ! ちょっと位反省してれば、許してやろうと思ったが、もう我慢ならねぇ。いきなり女に転生させられて、俺が何れだけ苦労したと思ってんだテメェは!」

「別に良いじゃない。あんなクッッッソ地味で如何にもモテなさそうな外見から、モテモテの美少女に転身できたんだから。むしろ、感謝して欲しいくらいだわ」

「誰がするか!」


 そりゃあ、確かにクソ女神の言う通り、転生してからモテモテにはなったが、男にモテても嬉しくもなんともねぇんだよ。


「まったく、ワガママで困っちゃうわね。此だから人間は」

「コ、コイツ……」


 自分の事は棚に置いて、呆れたと言わんばかりに両手を広げて首を横に振るクソ女神を見て、流石に温厚な俺も本気でブチギレそうになる。

 額に青筋が浮かび、口元が怒りでひくつきた今の顔は、幼女がして良いような顔では無い。


「上等だ。地獄に落ちろやクソ女神ぃぃぃぃ!!」


 地面を思いっきり蹴り、右肩を突きだし、クソ女神へ特攻する。


「ふんっ。最初っからそう来るって分かってれば、対処は容易いのよ!」


 しかし、怒りに身を任せて、奇襲でも無く、真っ正面からばか正直に特攻した結果は散々なものだった。

 渾身の一撃はあっさり交わされ、逆にスレ違い様に腕を捕まれて地面に引き倒されてしまう。

 逃げようにも、上から押し倒すようにして押さえ込まれているため、今の俺の力では身動きが取れず、どうすることも出来ない。


「んっふっふー。さぁて、神に歯向かった罰は何が良いかしらねぇ」

「クソッ、離せ!」


 せめてもの抵抗として、ニヤケ顔で俺を見下すクソ女神の下で、名一杯手足の動く部分をバタつかせてみたりするが、びくともしない。

 前世の俺の力なら此れくらい簡単にはね除けられるのに、幼女の体はやっぱり不便だ。

 借金も何とかしなくてはいけないが、やはり先に男に戻る薬を作る方を優先した方が良いかもしれない。そして、男に戻った暁には今度は俺が、お前を押し倒して……押し倒して……いや、うん、流石にそれは駄目だな。相手は仮にも女な訳だし。


「えっ、何この状況で顔真っ赤にしてんの? ちょっと、気持ち悪いんだけど」

「う、うるせぇ、ほっとけ!」


 うん、やっぱり、当初の予定通り男に戻ったら普通に殴ろうか。

 ていうか、今はそんな事よりも、この状況を打破する事を考えなければ。

 誰かが此処に来て、その人に助けを求めるのが一番手っ取り早いのだが、そんな都合の良いことは、まぁ起きないだろう。俺って運がとことん悪いし。


「そこで何をしている」


 って、マジかよ。誰か来てくれたぞ!?


 聞こえてきたのは、落ち着いた感じの男の声だ。

 鎧を着込んでいるのか、重たい鉄が擦れるような重苦しい音が聞こえる。

 兵士だろうか。何はともあれ、助かった。


「た--」


 顔を声がした方へ向け、現れた人物へ助けを求めようとして、言葉を止める。

 そこに居たのは、兵士--いや、騎士と呼んで良いような、穢れの一つも無い純白の鎧に身を包んだ美丈夫だった。

 男にしては長めの、肩に届くくらいまで伸びた金髪の髪を風に揺らしながら、男は一歩一歩此方に近付いて来る。

 その姿を見て、俺の心に焦燥感が募る。俺は、この男の事を嫌というほど知っている。

 というか、この国でこの男の事を知らないとすれば、それは生まれたばかりの赤子か、他所の国から来たばかりの者位だろう。それくらい、この男はこの国において有名な人物だった……良い意味でも、悪い意味でも。


 男の名前は"悪滅の騎士"アルフレッド。

 七聖六忌しちせいろっきと呼ばれている、この国最強にして世界最強の十三人の内、七聖に分類されている一人であり、己が悪と認めた者を決して許さず、地獄の果てまでも追いかけて悪を滅ぼす、正義の体現者だ。


 アルフレッドは、自分が一度悪と認めた者には決して容赦はしない。

 例え、万引犯であろうが、殺人犯だろうが、横領した政治家だろうが、相手の立場や犯した犯罪の重さ、年齢や性別等一切関係無く、平等に慈悲無く殺すような狂人だ。

 俺のような子供でも一人で平気で街を歩き回れるくらい、この街で犯罪が滅多に起こらないのは、年がら年中一秒足りとも休まずに街を巡回しているこの男のお陰なので、それは感謝してるのだが、何もこのタイミングで此処に来なくても良いのに。

 今のこの状況、何処からどうみても、変態痴女が無力な幼女に性的な暴行を加ようとしている様にしか見えない。

 そして、それはアルフレッドの悪の基準からすれば、間違いなく悪と断言するだろう。


 あぁ、くそっ、めんどくせぇ。目の前でスプラッタな光景なんて見たくねぇんだよ。


『おい、セレニア。とっとと、上から退け!』

「ふぇ? 何であんたいきなり日本語で……」

『良いから早く!』

「わ、分かったわよ」


 訳が分からず困惑しているクソ女神を押し退け、アルフレッドに状況を説明すべく、クソ女神とアルフレッドの間に立つ。

 その瞬間、いつの間にか気配すら無く振り下ろされていたアルフレッドの長剣が、俺の眼前でピタリと止まった。


 こ、こえええっ!? 後一秒でも遅かったら目の前でクソ女神の首が落とされる処か、俺まで死ぬ所だったぞ!?


「退け。退かぬなら貴様ごと斬るぞ」


 アルフレッドは、感情を一切見せない機械のように冷たい眼差しで、小鹿のように足を震わせている俺の事を見下しながら、一度剣を引く。

 しかし、俺の事を見ながらも、意識は常にクソ女神の方に向かっており、もし何かクソ女神が行動を起こしでもしたら、今度こそ止める間もなくクソ女神は殺されるだろう。下手したら、悪を庇ったということで、俺まで殺されるかもしれん。頼むから、大人しくしといてくれよ。


「い、いいえ、退きません。アルフレッド様は勘違いをなされています」

「勘違い?」

「はい」


 よし、話は聞いてくれるみたいだ。問答無用で斬られなくて良かった。取り合えず、第一関門は突破だな。

 次は如何にしてこの男を言いくるめるかを、考えなければいけないのだが、余り下手な嘘をつくと直ぐにバレそうで恐い。此処は、慎重に言葉を選びながら答えねばならないのだが、俺の頭では咄嗟にそこまで良い言い訳を思い付ける訳が無いので、そこは女として生きてきた中で鍛えられた演技力で誤魔化していくしかない。


「先程の場面だけを見ると、アルフレッド様が考えた通り、彼女が私に暴行を加えようとしているように見えますが、それは勘違いで、彼女--私の義理の姉であるセレニアお姉さまは、走って転けようとしていた私を助けてくれようとしていたのです。ただ、余りにも勢いよく転けてしまったため、手を掴んでくれたお姉さまも引き倒してしまうこととなり、あのような格好になってしまったのです」


 迷惑をかけて本当に申し訳なかったと装うために、瞳の端にうっすらと涙を浮かべながら、自分の服の裾を掴みつつ、上目遣いをして弁明の言葉を述べる。本当は、こんなあざとい態度を取るなんて、自分が女に近付いた気がして本当に嫌なんだが、今は急を要する事態なので仕方無い。


 アルフレッドは暫くの間、ジッと俺の目を感情が感じられない瞳で見ていたが、数十秒程時間が経った所でスッと目を逸らして俺に背を向け、路地裏の出口の方まで歩いていく。


 た、助かった……生きた心地がしなかったぞ……

 出来れば、もう2度と会いたくねぇ。


 そう思って、ホッと息を吐いた次の瞬間だった。


 アルフレッドが居る方向から、銀色に光る何かが飛んでくるのが見える。

 それは、俺が反応できるギリギリのスピードで、斜め後ろに居るクソ女神の方へと一直線に向かっていた。


「っ!?」


 気が付けば、体が動いていた。

 咄嗟に飛行物の進行方向に左手を差し出し、銀色に光る何かが、掌へと突き刺さる。


「ぐぅっ」

「ちょっ、大丈夫!?」


 あまりの激痛に呻き声しか出せない。

 慌てた様子で駆け寄って来るクソ女神に何も言うことが出来ず、痛みを堪えるために左手を抑えて地面にうずくまる。


 刺さったのはアルフレッドが腰に差していた短剣だ。何か特殊な効果があるのか、痛みは酷いが血は出ていない。出欠多量で死ぬ心配は無さそうなのは良かった。でも、めっちゃ痛い。涙が溢れて止まらないんだけど。


「どうやら、本当に私の勘違いのようだな。詫びだ。その短刀は貴様にくれてやる。売るなり使うなり好きにするといい」


 アルフレッドは、首だけ後ろに向けながらそう言うと、今度こそ本当に去っていった。

 取り合えず、命は拾えたけど……精神的にも肉体的にも本当キツい。出来れば、あの狂人とはもう2度と会わない事を祈ろう。







 

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