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錬金術と商業ギルドと老紳士

 この世界に生まれてから、あっという間に10年が経ってしまった。


 あのクソ女神のせいで、女として生まれてしまった俺は、この10年の間に多大なる苦労を味わう事となった。

 まず一つ、俺は二十年以上男として生活してきた訳で、女同士の友達付き合い方なんてものはさっぱり分からないということだ。

 唯一の知識は、日常もののアニメでの知識だけ。仕方ないので、そのアニメを参考に、ちょっとしたことで抱き付いたり、体を触れあわせたりしてみたら、ものの見事に近所の女の子グループ からハブられた。

 今現在、俺は仲の良い友人すら居ないボッチ状態である。


 そして二つ目、俺が最も心に来る問題。それは、容姿が凄まじく整っているせいか、同年代のガキや歳上の変態共にやたらと告白されることだ。

 肩を少し越えたところまで届く銀色の髪に、ルビーのように真っ赤な瞳を持ち、一点の汚れも存在しない真っ白な肌を兼ね備えた俺は、自分でも見とれてしまう程に美しかった。

 もっとも、その美しさのせいで、この間も、四十歳くらいのロリコン変態野郎に告白されたばかりなのだが。無論、告白は断った。何が悲しくて男と付き合わなくちゃいけないんだ。こちとら、体のチンコは失っても心のチンコはまだ失ってないんだぞ。

 その他にも、体の違い等の問題はあったが、ここは割愛しよう。今はそんな細かい事を思い返すよりも、最優先でやらなくてはいけない事があるのだから。




「よし、書けた」


 家の庭で、土の地面を石で彫って書いた魔方陣を見て、額の汗を拭いながら、満足気に頷く。

 今日は、俺の十歳の誕生日であり、あのクソ女神から貰った転生特典である錬金術の解禁日だ。

 その錬金術を早速使うために、俺は三十分近い時間をかけて、まだ日も昇らない早朝からこの魔方陣を彫っていた。

 あの日、俺が生まれた時からずっと頭の中にある、錬金術の発動の仕方を参考に書き上げた魔方陣。その上に、材料となるものを並べて、クリエーションと唱えれば錬金術は発動する。

 最も、どんな材料で、どんなものが出来るのかは分からないので、狙った物を作るのには、色々と試行錯誤を重ねる必要はあるが。


 今日は取り合えず、きちんと使える事が確かめられれば良いので、オーソドックスに薬草と水の入った小瓶でポーションを作ってみようと思う。


「クリエーション」


 材料を魔方陣の上に並べ、錬金術を発動させる為の言葉を紡ぐ。

 すると、魔方陣が目が眩む程の光を発し、次の瞬間には魔方陣の上に、小瓶に入った緑色の液体が置かれていた。

 試しに、手の甲に石で軽い傷を付けて、作ったポーションを飲んでみる。


「まずっ!?」


 一口飲んでみて、あまりの不味さに口に含んだ物を全て吐き出した。

 なんと言えば良いんだろうか。まるで、そこら辺に生えてた雑草を煮込んだ汁を飲んでるみたいな味だ。

 傷は治っているから、効果はあるのだろうが、とても飲めたものじゃない。よくこの世界の住人はこんなクソ不味い物を飲めるものだ。


 しかしまあ、今はそんなことは重要では無い。

 今はきちんと錬金術が使えるという事の方が重要なのだ。

 何せ、この錬金術は、今の俺にとって希望の光と言っても良い存在なのだから。


 錬金術--それは、材料さえあれば、ありとあらゆるアイテムを作ることが出来る神秘の術。

 あらゆる傷を治す薬も作れるし、透明になるマントだって作れる。

 そして、女を男にする薬すらも作れるかもしれないのだ。

 俺は、男に戻る事を諦めて居ない。最近、気を抜いている時にイケメンを目にすると、少し目で追ってしまうようになってきてしまったが、まだ大丈夫だ。まだ、普通に女で興奮できる。

 だか、この感じからして、精神が肉体に完全に引っ張られるのは時間の問題だろう。その前に、何としても男に戻らなくては。


「俺は、男に戻って、絶対に童貞を卒業するぞぉ!」


 自分に気合いを入れる為に、俺は天高く昇った朝日に向かって高らかにそう宣言するのだった。





 さて、錬金術を使うには、兎も角材料が必要だ。

 しかし、子供である俺個人では手に入る材料というのもたかが知れている。

 TS薬なんて物を作ろうとしたら、生半可な材料では駄目だろう。

 恐らくこの、世界最大の街にして、世界最小の国である此処--迷宮王国ユグドラシルの中央に聳え立つ世界樹の地下にある、大迷宮の中から取れるアイテムや、迷宮の中に生息する危険な魔物の部位等が必要になってくる筈だ。

 しかし、残念な事に、俺は錬金術というと特別な力があるだけで、戦闘力は普通の子供とか変わらない。魔物と戦ったりダンジョンに潜ったり何て出来るわけが無かった。

 ならば、大人を頼るしか無いのだが、お袋は頼れない。お袋は、俺が男になろうとしているのを知ったら猛烈に反対するだろう。

 何せ、俺が生まれる少し前に、顔も知らない親父に捨てられた上、日々の稼ぎも少なく、お金にあまり余裕が無い癖に、俺が喜ぶだろうと思って、頼んでもないプレゼント(がらくた)をしょっちゅう買って来るくらい、娘である俺の事を溺愛しているからだ。


 では、お袋が頼れないのに、どうやってそれらの材料を手に入れるか。

 それについては既に考えてある。

 この世界には魔物が居る。そして、魔物が居るのならそれを狩る冒険者と呼ばれる職業の人たちも存在し、冒険者が居るのなら彼等を束ねる冒険者ギルドというものも存在する。

 そこに依頼を出し、冒険者の人達に必要な材料を取ってきて貰うのが、俺の考えだ。

 だが、依頼を出すのにも、冒険者の人達への報酬としてもお金が必要で、生憎と俺はお金を持っていない。

 つまり、先ずはお金を稼がなくてはいけなかった。


 その為に、俺は新しく作り直したポーションを、昔拾ったバッグに入れて、アイテムの売買や、商売に関係する事柄を一手に受けている商業ギルドへと足を運んでいる。

 此処から一番近い商業ギルドでも、俺の住んでいる家とは少し距離が離れており、子供の足では結構キツイものもあるが、これもお金の為だ。頑張ろう。





 街の中を歩くこと、一時間。俺は、くたくたになりながらもようやく商業ギルドの前にたどり着く事ができた。

 商業ギルドは初めて見るが、まるで日本の国会議事堂みたいな形をしており、中々広そうだ。


 扉を開き、中へ入ると外観から察せた通り、かなり広く人も多い。

 入ってすぐの所にあった案内板で、目的の場所であるアイテムの売買を担当している窓口を探し、そこへ向かうと、ちょうど良いタイミングだったらしく、窓口の前には誰も並んで居なかった。


「おや、これは可愛らしいお嬢さんですね」


 窓口に居るモノクルを付けた紳士(胸の名札を見る限り、名前はクロードさんというらしい)が、俺に気付いて驚きに目を丸くする。

 無理も無い。何せ、此処に来るのは殆どが冒険者か商人なのだ。そんな場所に年端もいかない幼女が現れたら誰だって驚く。


「すいません。買い取って欲しい物があるんですけど」

「ふむ、拝見致しましょう」


 俺がそう言って、バッグからポーションを取りだし、精一杯背伸びして窓口に置くと、クロードさんは表情を変え、正に仕事人といったような真剣な表情になって、瓶を手に取り鑑定を始める。

 その様が中々にダンディーで、こう、胸の奥がキュンとするような--


「目をっ、覚ませっ、俺っ!」


 精神のバランスが崩れるのを感じた俺は、急いで近くの壁に何度か頭を打ち付ける。


「お嬢さん!?」

「いえ、心配しないで下さい。何時もの発作ですので」

「は、はぁ」


 急に壁に額を打ち付けだした俺を心配したクロードさんに、大丈夫だと告げる。

 クロードさんは、まだ半信半疑のようだったが、俺が普通に何事も無かったかのようにしていると、再び鑑定の作業に戻っていった。


 ふぅ、危ない危ない。油断すると直ぐこれだ。気を付けていないと、肉体に精神が引っ張られてしまう。

 頭に強い衝撃を与えるか、女に対して性的興奮を覚えれば、一時的には戻るのだが、完全に男の精神に戻るというのは無いんだよなぁ。これでは、何時まで俺の心が持つか分からんぞ。

 なんとか俺が、完全に雌になってしまう前にTS薬を完成させなくては。




「これは、素晴らしい。私もこの職に就いて30年以上経ちますが、このような味のついたポーションは見たことが無い。それに、まさか私の孫と同年代の少女がこのようなアイテムを持ってくるとは。いやはや、二重の意味で驚きましたぞ」


 鑑定が始まってから一分が経った頃、鑑定が終わったのかクロードさんの口から感嘆の言葉が出る。

 まぁ、当然だ。何せ、新しく作り直したこのポーションは、中にリンゴを加えたことにより、あの雑草のような味をリンゴの味に変えて、飲みやすくすることに成功した改良型ポーションだからな。

 効果は普通のポーションと変わらないとはいえ、味が美味しい分、此方の方が優れているだろう。


「それで、幾らで買い取ってくれますか?」

「むぅ。そうですな……」


 またさっきみたくなるのは勘弁だったので、なるべく目を合わせないように、顎髭の辺りを見ながら尋ねる。

 前例の無いポーションに価格をつけるのは難しいのか、クロードさんは暫く顎髭を触りながら唸って居たが、ようやく決まったのか、渋味のある声でポーションの値段を告げる。


「銀貨一枚でどうでしょうか」


 銀貨一枚か。通常のポーションの買い取り値が分からないから何とも言えないが、銀貨一枚といえば、お袋が一ヶ月に稼ぐ額の5分の一程度の金額であり、俺からすればかなりの大金だ。

 正直、ポーション一つでこんなに貰ってしまって良いのかという思いはあるが、此方もお金に困っているので、ここは有り難く受け取る事にした。

 家に銅貨8枚入れるとして、残り銅貨2枚あれば、最初の資金源としては十分に遣り繰りできる。


「では、それで」


 俺が了承するのを聞いて、クロードさんは一旦奥に下がり、手に銀貨一枚を持って再び現れた。


「ありがとうございます」


 俺は礼を言って、テーブルの上に置かれた銀貨を受け取り、クロードさんに背中を向ける。

 てっきり、こんな身分の怪しい幼女が、アイテムの売買を専門とするクロードさんが見たことも無いアイテムを持ってきたのだから、何処で手に入れたのか詳しく聞かれるのかと思ったが、クロードさんは特に何も言わなかった。

 まあ、聞かれても、実際に作るところを見せなくちゃ信じてもらえないだろうし、俺としては、この世界に存在しない錬金術なんて力がバレたら、面倒事になりそうだから、ありがたいっちゃありがたいんだが、何か腑に落ちない。背中に、突き刺さるような視線も感じるし。


 だが、自分から特に何かを言う気は無かったので、俺は背中に視線を受けたまま、商業ギルドから出るのだった。






 

小銅貨一枚=100円

銅貨一枚=1000円

銀貨一枚=10000円

金貨一枚=100000円

白金貨一枚=1000000円


お金の価値は大体これくらいです。

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