第九二話:妹犬の老い
第九二話:妹犬の老い
最近、更にリルの元気がなくなってきた。
いつも通り甘えたりはするのだが、ただじっと傍に居るだけな感じだ。
......姿はあまり変わっている感じもないけれども、やっぱり確実に老いているんだな......
悲しいけれども、これが現実だ。
どんなに妹と思っていても、人間とは寿命が全く違う。
一応、病院にも連れて行ったが、特に体調に関しては至って健康。
但し、やはり心臓が弱いらしく、それがあまり遊び回らなくなった原因だろう......
という事だった。
歳相応にリルは弱っている......という事なんだろう。
でも、やっぱりこうしてリルの老化を感じるのは寂しい。
たまにはリルと2人だけで外出しようと、車に乗せて公園に向かう。
いつもの場所ではなく、芝生のある広い公園なら、少しは元気になるんじゃないか.....
と思っての事だ。
が、やはりリルはのんびり歩くだけだった。
......まぁ、それもいいか......
そう思いながら、リルと一緒に歩いた。
......そう言えば、佐橋さんと会ったのはこうしてリルと2人だけで居た時だったな......
リルと出会って、オレの世界は広がったと思う。
リルと出会う前のオレは、学校では不良ではないが不良よりも怖がられていた。
仲間は勇次と水沢さんと狭山さんだけ。
それが、まずリルの人気に火がついて学校中でリルの写真を持ってない女子が少ない位になって、
更に何故かオレの写真まで人気が出て......
......相沢さんや浮島さんは今もまだ外国だろうか......
リルに出会って、オレがとんでもない不良だと思ってた人達が普通の人だと認識してくれた。
これはホント、リルのお陰だと思う。
......今更ながらに思うが、オレってそんなに人相悪いのだろうか......
今度聞いてみるか......
ふと、リルが立ち止まってオレを見た。
オレ「リル、どうした?」
リルは舌を出して「ハッハッ」としながら嬉しそうな顔をしている。
オレ「ん〜......喉が渇いたか?」
オレはあらかじめ買っておいたペットボトルの水をリルに飲ませた。
リルは、オレが手に溜めたペットボトルの水を飲み、飲み終わると再び顔を上げてオレの方を見た。
オレ「もういいか?」
オレがそう聞くと、リルは座り込んだ。
その場所は丁度木陰の場所で、のんびり過ごすには丁度いい感じの場所だった。
オレ「少しのんびり休むか〜......」
そう言って、オレはリルの横に座る。
すると、リルは一度立ち上がり、オレに寄りそうにように座ってオレにいつものように
「撫でて〜」と前足を片方上げて催促してきた。
オレ「ん〜......相変わらずリルは甘えん坊だなぁ......」
そう言いながら、オレはリルを撫でてリルの頭にキスをした。
リルは、嬉しそうにオレを見て、オレの顔を舐めた。
......歳を取っても基本的にこういう甘えん坊な部分は変わらないよな......
ずっとずっと、リルはオレの大切な妹だ。
オレ「リル〜......リルはお兄ちゃんの大切な大切な妹だぞ〜......
ず〜っと一緒だからな〜.......」
そう言いながら頭を撫でてオレは寝転び、少し昼寝をする事にした。
それから他の知らない人が連れてきた犬やらと少しじゃれたりしていたが、
やはりリルはあまり走り回らなかった。
とりあえず、オレがその犬に触れようとすると、相変わらず「ヴゥ〜......」
と威嚇するのは変わらない。
......やっぱり甘えん坊だな、リルは......
オレ「リル、お兄ちゃんが大好きなのはリルだけだから安心していいんだぞ〜?」
そういう所が可愛くて、リルを抱きしめて撫でてやる。
あとどれ位リルは生きていてくれるんだろうか......
もっともっと傍に居て欲しい。
オレ「リル、もっともっと長生きしてくれよ?
リルはお兄ちゃんの大切な大切な妹なんだからな?」
オレはそう言ってリルの頭を撫でた。
リルは耳を後ろに畳んで目を細め、オレの顔を舐めた。