第八六話:妹犬の兄と狭山さんの買い物(その1)
第八六話:妹犬の兄と狭山さんの買い物(その1)
......という訳で、その週の週末、オレは狭山さんと待ち合わせをして
結婚祝いの品を見て回る事にした。
オレ「......早く来過ぎた......」
......や、別に楽しみにしていた訳ではなく、待ち合わせ場所には早めに到着するよう
にしているだけだ。
待ち時間に遅れるのは自分的に落ち着かないのだよ。
でも......早過ぎた......
オレ「まさか、こんなに早く待ち合わせ場所に到着してしまうとは......」
時計は10:00を指していた。待ち合わせは11:00。早過ぎる。
オレ「ま、いいか......そこいらを見て回るとするか......」
......と、待ち合わせ場所を立ち去ろうとした時、後ろから声が掛かる。
女性「信也く〜ん!」
振り向くと、狭山さんがこちらに向かって走ってきていた。
美紀「信也くん、早いのね! もしかして楽しみにしてくれていた?!」
狭山さんは、オレの前に立つと、嬉しそうな顔をしてオレに質問してきた。
オレ「やっ......ただ単に遅れると嫌だから早めに来るようにしたんだけど、
妙に早く着き過ぎてしまっただけだよ。」
オレがそう答えると、狭山さんは少しムッとした顔をして、
美紀「んもぅ! そういう時は嘘でも『楽しみにしてたよ』って言わないとっ!」
オレ「......そういう甲斐性はないよ......」
美紀「む〜っ...... でもまぁいっか! それが信也くんだもんねっ!」
そう言いながら、オレの左腕に自分の腕を回した。
オレ「......狭山さん? これは何でしょう?」
美紀「そういう甲斐性はなくても、こういう甲斐性はあって然るべきだと思うな〜......」
そう言いながら、狭山さんはそっぽを向いた。
オレ「.......ま、いいか......」
オレの返答で狭山さんは笑顔になり、オレの方を見た。
......全く焦らず、全く緊張しない自分もどうかとは思うが......
美紀「じゃぁ、歩きながらどうするか話しましょう?」
オレ「だね。」
そうして、オレと狭山さんは一緒に歩き始めた。
オレ「で......狭山さんは何か考えているものはある?」
美紀「ん〜......先に信也くんから教えてくれる?」
そう言いながら、狭山さんはオレの方を見た。
オレ「ん〜......とりあえず、考えていたものはあるんだけれども、
あの後、佐橋さんからも電話があってね、佐橋さんにその案をあげちゃったんだよね。」
美紀「ふ〜ん.....それはどんな案?」
オレ「妥当な所で食器。
佐橋さんなら、佐橋さんの友人に陶芸家とかがいるかなって思ってね。」
美紀「そうなんだ......」
オレ「うん。で、佐橋さんも友人の陶芸家さんに作ってもらうって言ってたから、
多分その方がオレ達が選ぶものよりもいいものになりそうだよ。」
美紀「そっかぁ......私も食器がいいかなぁ......って思ってたんだよね......」
オレ「そうか......まぁ、時間はあるし、色々見て回ろうよ。」
美紀「うん!」
狭山さんはそう言って笑顔をオレに見せた。
百貨店は10:00から開いている場所もあるが、10:30から開いている場所もある為、
とりあえず10:00から開いている場所に入った。
オレ「結婚祝い......何処に行けばいいかな......」
入り口で各階の案内図を見る。
美紀「あっ、ここが良さそうだよ?」
狭山さんが指した場所は、外国雑貨のお店だった。
オレ「それじゃぁ、まずはここに行きますか〜......」
美紀「そうね。」
そして、オレと狭山さんは腕を組んだままその場所に向かった。
店内には、外国の食器やら鍋やら、色々なものが並んでいた。
美紀「ねぇねぇ、これなんかどうかな?」
狭山さんは鍋を指差した。
その周辺のタグには『結婚祝いに』と書かれているので、結婚祝いでも良さそうだ。
オレ「ん〜......でも、これは良く使うものかというとどうなんだろ......」
美紀「そっかぁ......」
オレ「水沢さんの得意料理ってどんなの?」
美紀「ん〜......基本的に何でもできるみたいだよ?
勇次くんと結婚する事を考えてたみたいだから、
ずっと家事は勉強してたみたいだし。」
オレ「なるほどね〜......んじゃぁ、勇次の好みか......」
勇次の好物って何だろ......食い物関係は疎いんだよな......オレ......
オレ「......」
オレが悩んでいる顔を見ながら、狭山さんは
美紀「もしかして......知らない?」
と聞いてきた。
オレ「うん、知らない。」
美紀「だめじゃん......」
オレ「面目ない......」
......という訳で、とりあえず妥当な線の鍋を結婚祝いに購入する事になった。