第七五話:妹犬と写真展の写真
第七五話:妹犬と写真展の写真
1週間後、写真を撮ったカメラマンから、写真と写真展のチケットが届いた。
同封された手紙には、「できましたら、初日に妹さんと一緒に来ていただける
と嬉しく思います」と書かれていた。
......オレ、リルを妹って言ったっけ......
まぁいいか......
写真展の初日は休日だったので、オレはその日にリルを連れて行く事にした。
......という訳で当日。
場所は、あのカメラマンの男性と会った公園の一角にある美術館だった。
入り口には「佐橋謙造の写真の世界」と書かれていた。
......そういえば、あの男性の名前は佐橋 謙造だったな......
名刺を貰ってたから知ってはいたんだけれども、そんなに多く関わる人
ではないと思うからあまり名前を気にしてなかったなぁ......
......で、入ろうと思ったんだが、犬を連れているのはオレだけ。
勿論、猫や他のペットを連れている人は全くいない。
......これは......入れるのだろうか......
チケットに同封された手紙を見てみる。
手紙には特に何も書かれていない。
まぁ、入ってみるしかないよなぁ......
オレは入り口でチケットを渡しながら、
オレ「妹が一緒なんですが.......」
と言いながらリルを抱え上げた。
すると、係員の人はチケットを見た後にノートを確認し、
係員「藤崎信也様ですね。お待ちしておりました。」
と言われた。
......珍しい......こういう場所ってペットとか嫌うんだよね......
そして、係員の人はオレの胸とリルの首に「招待」と書かれたリボンを付けた。
......とりあえず、これならオレとリルが正式に招待されているという事が分かるから、
誰も文句は言われないか......
そんじゃ入っていきますか......
オレは係員の人に礼を言って中に入って行った。
あのカメラマンが撮った写真はみんな見応えがあった。
基本的に風景写真が主だったのだが、小さく人物が出ている事により
人物が風景の一部となっていい絵になっていた。
オレ「なるほどね〜......」
オレは関心しながら見ていた。
リルは人が沢山いる事に緊張しているのか、ちょっとばかりオドオドしていた。
オレ「リル、そんなに怖がらなくても大丈夫だぞ?」
そう言いながらオレはリルを抱えて写真を見ながら歩き始めた。
途中、見知らぬ女性から、
女性「あっ、ワンちゃんだ〜! 可愛い〜!」
とか、
女性「あら......あの写真の方と妹さんですか?」
と声をかけられたりした。
......写真って......もしかしてここに飾られているのかな......
そう言われると何気に恥ずかしいものがある。
そうして見ているうちに、オレとリルが一緒に写っている写真を見つける事ができた。
その写真の前に立った時に思った事.......
オレ「......ちょ〜っとデカ過ぎのような気が......」
その写真は、オレとリルが一緒に歩いている写真で、サイズは等身大だったのだ。
写真に写っているオレとリルは、オレはリードをリルに繋がずに一緒に歩いているのだが、
オレはリルを見て笑顔を浮かべ、リルはオレを見て笑顔を浮かべ、そうして歩き去る姿だった。
題名には「兄妹」と書かれていた。
......うん、確かにいい絵です。でも、大きい写真はとても恥ずかしいものがありますよ?
ついでに言うと、他の写真は、基本的に人間とかは中心ではなく風景の一部
として撮られていたのに、この写真だけはオレとリルが主になってるよ?
他の写真と見比べても全然違うものだという事は良く分かる。
この写真を見たその他の人達の反応を見てみると、
女性「あらぁ.......素敵な写真ね〜......」
男性「うん、この男性とワンちゃんが、ホントの兄妹のように見えるよ。」
とか、
A子「とても自然体で、とてもいい顔をしてるね、この人とワンちゃん」
B子「この人もワンちゃんも素敵ね〜......会ってみたいな〜.......」
とかいう反応が出ていた。
概ね悪くはないようだ。
.......が、そこで写真を見ていた女性と目が合う。
勿論、オレは目を逸らして写真を見る。
A子「ねぇねぇ.....」
女性は隣にいる女性を肘で突付きながらオレの方を見る。
B子「何よ......あら?」
A子「もしかして......じゃない?」
B子「もしかしなくてもそうでしょ!
だって、ワンちゃん連れて招待のリボン付けてるじゃん!」
A子「だよねだよね! 声掛けてみようか!?」
B子「うん!」
......という訳で、オレは女性の2人組に話しかけられた。
その頃、その先ではインタビューを受ける写真家が居た。
男性「先生が人物を主にして写真を撮られるのはとても珍しいですね。」
謙造「そうですね、私もあの写真だけは彼等を主にした写真が撮りたかったのです。」
男性「なるほど......先生のファンの方の反応はどんな感じでしたでしょうか?」
謙造「中々に盛況です。あの写真が気に入ってくれる方が沢山いらして嬉しい限りです。」
写真家も満足した様子でインタビューに答えていた。