第六六話:妹犬との約束(その5)
第六六話:妹犬との約束(その5)
久し振りに妹犬の夢を見た。
リノ:「お兄ちゃん、お久し振り!」
オレ:「リノ、元気にしてたか?」
リノ:「うん、元気にしてたよ?
でも......お兄ちゃん......あれは酷いと思うよ?」
オレ:「......ん? あれ?」
あれって......何だろ......リノに何か酷いことをしただろうか......
リノ:「お兄ちゃんを好きになってくれた人をみんな振っちゃったでしょ?」
オレ:「あぁ......あの事か......
もう4年も前の話だけど、でも、あれで良かったんだって思うぞ?」
リノ:「どうして?」
オレ:「だって、それぞれに恋人もできたみたいだし、
むしろ、あのままの状態を続ける事の方がみんなに酷いって思ったんだよ。」
リノ:「それはそうだけど......」
リノは顔を伏せて少し納得できなさそうに呟いた。
オレ:「あの頃のオレには、まだ誰かを好きになる事ができなかったんだよ。
まぁ......今でも変わらないと言えば変わらないんだけどな......」
リノ:「どうして好きになれないの?
お兄ちゃんは私の事もリルちゃんの事も好きじゃないの?」
オレ:「リノやリルの事はホントに大好きだよ。それは嘘偽りないオレの本心だよ。
でも、それは、リノやリルがオレに純粋な愛情を向けてくれるからなんだ。
オレは......まだ自分から誰かを好きになった事がないんだ......」
リノ:「あの人達は、お兄ちゃんを純粋に好きになってくれてなかったの?」
オレ:「や......彼女等は、確かに純粋にオレを好きになってくれてたって思う。
でも、一気に何人もに告白されるのって、やっぱり何処かおかしくて、
現実味がなくてな......
誰か一人を選ぶ事もできなかったんだよ。」
リノ:「......どうしておお兄ちゃんは自分から誰かを好きになれないの?」
オレ:「どうしてだろうな......多分、自分に自信がないんだと思うよ。」
リノ:「お兄ちゃん......私はお兄ちゃんが大好き。
リルちゃんもお兄ちゃんの事が大好きだよ?
私達が大好きなお兄ちゃんなんだもん、もっと自信を持って欲しいな......」
オレ:「リノ......ありがとうな......
オレも自分に自信が持てるように頑張るよ。」
リノ:「うん!」
リノはオレの膝の上に座り、オレの顔をペロっと1回舐めた。
そして久し振りにひとしきり遊んだ後、リノは立ち止まり、オレにこう言ってきた。
リノ:「お兄ちゃん、お願いがあるの。」
オレ:「ん? 何だい?」
リノ:「リルちゃんに一杯一杯、話しかけてね。
たとえ言葉が理解できなくても、私に話しかけているお兄ちゃんの声で、
リルちゃんは理解してくれるからね。」
オレ:「うん、分かったよ。リノ。」
リノ:「私ともまた一杯お話してね?」
オレ:「勿論だよ。リノもリルも、オレの大切な妹だもの。」
オレがそう答えると、リノは
リノ:「うん! お兄ちゃん大好き!」
と言って、オレの顔を思いっきり舐めてきた。
......という訳でいつもの如く、リルに顔を舐められて起こされた。
リルと朝の散歩中に、リノの言葉を思い出す。
オレ:「リル、リルはお兄ちゃん言葉、良く分かってるもんな。
一杯一杯、色んな話をしような。」
オレはそう言いながらリルの頭を撫でた。
リルはオレのそんな行動と言葉が嬉しかったのか、思いっきりオレの顔を舐めてきた。
ホント、リルは頭がいいって思う。
オレやみんなの言葉も理解するし、周りの人の思いも理解する。
楽しい時は楽しそうだし、嬉しい時は嬉しそうだし、悲しい時は悲しそうだし。
表情豊かで、こうして歩いている時も、人間の妹と歩いているような気分にもなる。
甘えん坊で、寂しがり屋で、人間と何一つ変わらない気がする。
そして......リノが言ってたけど、リノもリルもオレの事を好きでいてくれる。
その思いがオレの自信になれば、いつかは恋する事もできるのかな......
今はまだ分からない。
でも、今までオレを好きになってくれた人に報いる為にも、
オレは自分に自信を持てるようにならないとな.......
そんな事を考えながら、オレはリルと散歩を続けた。