第六三話:妹犬のバカ兄が決断する。
第六三話:妹犬のバカ兄が決断する。
あれから数日過ぎたが、とうとう恐れていた事が起こった。
......だってさぁ......サークルのメンバー以外に知られちゃったんだぞ?
いつかはこうなるとは思ってたのよ。
目の前には掲示板、そして、そこに張られている学内新聞。
見出し:「驚愕の事実!
藤崎信也はサークルの女性陣全員に告白されていた!」
.....だよなぁ......
記事はもう見る気がしない。
何でこんな事になってしまったのやら......
......オレが優柔不断なせいか?
そろそろ......決めないとな......彼女等の為にも......ね......
オレは掲示板から離れてベンチに座り、彼女等一人一人の事を考えた。
......浅生さん......
オレがサークルに入るキッカケとなった人だ。
快活で楽しい人だと思う。そこが彼女の魅力なんだとも思う。
彼女に誘われて、リルに友達もできた。これはオレも正直嬉しい。
でも.......サークルの最初の活動日に告白されるとは思いもしなかった。
友達としてなら、ずっといい関係でいられたんだろうな......
......皆川さん......
何に対しても明るくて、行動的な人だ。あのメンバーの中では普通な人かもしれない。
彼女がオレを好きになった理由は何だったんだろうな......
彼女の事をオレはまだ良く知らないんだな......
......白泉さん......
基本的に丁寧な言葉遣いで、ある意味でカッコイイという部類の人かな......
誰にでも分け隔てない優しさを持っている人だって思う。
素敵な人だけれども、やっぱりオレを好きになるなんて信じられない。
......佳山さん......
物静かだけれども、要点はしっかりと言う人かな......
真っ赤になると結構可愛い。
彼女の両親にも好かれちゃったけど、オレってそんなに魅力があるんだろうか......
......安西さん......
皆川さんと同じで元気な人だ。何気に気を使う優しい所もある。
彼女は、何故オレを好きになったんだろうな......
他にもっといい人は沢山居ると思うんだけどなぁ......
......森中さん......
上がり性でいつもドモってるけれども、しっかりと言いたい事は言おうと頑張ってる。
佳山さんみたく顔を真っ赤にした時は可愛いなって思った。
でも、そんな人がオレを好き......って言われても、正直実感がないんだよな......
......法泉さん......
大学でも人気のある人だ。物凄いお嬢様だよな.......
まぁ、他の人達もお嬢様みたいだけど......
最初に告白してアプローチしてきたのは彼女だったよな......
あれだけモテてるんだから、オレみたいなのよりもっといい人は居ると思うんだけどなぁ......
......分からん......考えれば考える程分からん......
結局、オレは彼女等をちゃんと見れてないんだなって思う。
でも、多分、これからもそれは変わらない気がする。
何故だろうか......
オレは......今まで自分から人を好きになった事がない。
オレは自分をカッコイイって思ったことがないんだ。
高校時代は目つきで怖がられてたのもある。
でも.......そうなんだよな......
オレは女性に対して不信感が強いんだ。
何故そうなったのか......
あれは......中学時代だったかな......
中学時代、オレは一人の女性と付き合っていた。
告白は彼女からだった。そして、振ったのも彼女からだった。
彼女は「私には信也君が良く分からないよ。」と言った。
色んな事を話したと思う。色んな事を一緒に考えたと思う。
それでも、オレが分からないと彼女は言った。
理由を聞くと「信也君の行動についていけない事がある。」と言われた。
そして、オレの行動について「信也君はこういう人だから。」
と勝手に決めつけられて、勝手に結論を付けられてしまった。
......彼女にとって、目の前の、見えている部分がオレで、
見えていない部分はオレではなかったのだ。
その事で彼女に対して幻滅した事はない。
だからと言って、今でも好きなんて事もない。
でも......辛かった。
例え、自分から誰かを好きになる事がなくても、好きになってくれた人
を好きになる思いはオレにはあったのだ。
でも、それでも、オレには自分の思いを押し付ける事はできなかった。
好きだったからこそ、彼女の気持ちを尊重する以外にオレにはなかったんだ。
オレは......付き合うと決めた相手を信用できるんだろうか......
......多分......できないんだろうな......
だから、オレは誰も好きになれないんだ。
そして、サークルの誰かと付き合ったとしても、また同じように言われる可能性
がオレにはある。
オレはあの頃と何ら変わっていない。
彼女等がオレという存在を見てくれている自信もない。
付き合って、よく知ってくればオレの違った面を知って、
きっと彼女等はオレと付き合った事を後悔するだろう。
......決めよう......
彼女等に「ごめん」と言おう。
オレの正直な気持ちを伝えて「ごめん」と言おう。
でも、これもオレの、オレを好きになってくれた彼女等への、最大の「感謝の気持ち」なんだ。
オレは次のサークル活動の前までにそれを伝えて、サークルから離れる事を決意した。