第六二話:妹犬の嫉妬
第六二話:妹犬の嫉妬
その日の夜、オレは久し振りに妹犬のリノの夢を見た。
最初のうちは広場で一緒に遊んでいたのだが、途中で座り込み、
チョットばかり不機嫌な様子になる。
オレ:「リノ? どうした?」
リノ:「ねぇ......お兄ちゃん......
お兄ちゃんは私のこと好き?」
オレ:「うん? 勿論、大好きだぞ?」
リノ:「......ホント?」
オレ:「勿論だよ。リノはリルと同じで、オレにとっては大切な大切な妹だもの。」
オレがそう言うと、リノは嬉しそうな表情になるが、再び黙り込んだ。
......ん〜......どうしたのかなぁ......
オレ:「リノ......どうしたんだ?」
リノ:「だって......お兄ちゃんは色んな人に好きって言われてるでしょ?
私だってお兄ちゃんの事大好きなのに、お兄ちゃんはあの人達
とばっかり一緒なんだもん......」
そっか......リノはこうして時々しか一緒に遊べないから寂しいのかな......
オレ:「リノ、ごめんな。オレはリノの事大好きだけど、
一緒にこうして遊べるのはこういう時しかないもんな.......
もっと一緒に遊べたらいいんだけどな......」
オレがそう言うと、リノは更にムッとしたらしく、
リノ:「......そういう意味で言ってるんじゃないのに......」
と、ソッポを向いて呟いた。
......う〜ん難しい年頃というのはこういうのを言うのだろうか......
子供がいる訳でもないのに、何気にそんな事を考えてしまうオレだった。
オレ:「なぁ、リノ。お兄ちゃんは、確かに色んな人に告白されてるけど、
今はまだ、誰かと付き合うことはないよ。
今のモテ方は自分としても異常だって思う。
こんな状況で、誰かを選ぶなんて事もできないんだ。」
オレがそう言うと、リノはオレの顔を見てこう話した。
リノ:「お兄ちゃん......それはそれで酷いと思うよ?」
オレ:「ん〜......まぁ、それは分かるんだけどさ.......
みんな素敵な人達だって事も分かってる。
でも、そんな人達が何でオレを好きになったのかも分からないんだ。」
リノ:「お兄ちゃんは自分に自信が無いの?」
オレ:「ん〜......どうなんだろうね......
もしかしたらそうなのかも知れないね。」
リノ:「そっか〜......」
オレがそう答えると、リノはオレの言葉で納得したらしく、
リノ:「お兄ちゃん、私はお兄ちゃんのいい所を沢山知ってるよ?
お兄ちゃんが誰かと付き合うことになっても、私はやっぱりお兄ちゃん
が大好きって事は変わらないもの。
お兄ちゃんを好きになってくれた人達は、お兄ちゃんのいい所
に気付いてくれた人達なんだよ?
もっと、真剣に考えてあげてね。」
とオレに答えた。
......リノはみんなに嫉妬しながらも、同じくオレを好きでいるという思い
を感じてくれているんだな......
オレ:「ありがとうな、リノ。みんなの事を心配してくれるなんて、リノはいい子だな。」
オレはリノの頭を撫でながら、笑顔でそう答えた。
リノは少し恥ずかしそうにしながら、オレに笑顔を向け、
リノ:「でも、私もお兄ちゃんのこと大好きなんだからね?
その事は忘れないでね?」
と答え、耳を後ろに畳んで目を細めて、オレの顔を思いっきり舐めた。
......という訳で、オレはリルに顔を舐められて目を覚ました。
リノとリルの顔はとてもよく似ている。
そして......ふと、何時だったか忘れてしまったが、こんなコがいたような気がする。
......あれは何時の事だったのかなぁ......
昔、確かにリルみたいなコ、リノみたいなコに会ってる気がするんだが.......
そうして悩んでいると、リルが再びオレの顔を舐め、散歩に行く事を催促した。
散歩中、リルを見ながらリノの事を考えたり、リルに向かって「リノ?」
と呼んでみたりした。
が、やっぱりリルはリノと呼ばれても反応しない。
......リルとリノははやっぱり別の存在なんだよな......
そして......何処かでオレはリノと会ってるんだな......
オレは空を向きながら、
オレ:「リノ、オレはリルの事も大好きだけど、リノの事も大好きだぞ?
ずっとずっと、大切な家族で、大切な妹だからな。
それは、何があっても変わらない事だよ。」
と呟き、リルを抱きしめて、
オレ:「リル、オレはリルの事が大好きだぞ?
ずっとずっと、大切な家族で、大切な妹だからな。
それは、何があっても変わらない事だから、安心していいからな。」
とリルに話した。
すると、リルはオレの言葉を理解したのか、オレの顔を思いっきり舐めてきた。
その時の姿が、夢の中のリノの姿と重なって、オレは2人(犬だけど2匹って言いたくない)
の妹に愛されている事を感じ、幸せな気分になった。
「でも......」と、オレは再び夢の中でリノと話をした事を思い出す。
いつかは、オレも誰か女の人を愛して、その人と一緒に居たいって思う時がくるのかな......
今はまだ分からないよ。
オレの事を好きって言ってくれた人達はみんな素敵な人達で、
だからこそ、オレには勿体無い。
オレみたいなヤツよりも、もっといい人は居る筈なんだから。
......結局、オレは誰も選ぶ事はできないのかもしれないな......
真剣に考えるからこそ、誰も選べない。そんな気がするよ。
オレ:「どうしたらいいんだろうな、リル......リノ......」
そう言いながら、オレはリルの頭を撫でた。