第五三話:妹犬と兄バカが大学でも評判になる(その2)
第五三話:妹犬と兄バカが大学でも評判になる(その2)
オレの腕に抱きついて微笑む白泉さん、それを見てムッとした表情をして文句を言う浅生さん、
笑っているのに何故か怖い法泉さん、そしてそれを面白そうに見ている達郎さん......
......達郎さん、助けてください!
そう目で達郎さんに向かって言うも、達郎さんは、
達郎:「う〜ん......カメラがあれば決定的瞬間だったんだがなぁ......」
と場違いな感想を言った。
......誰もオレを助けてはくれないのだろうか......
そう思っていると、後ろから女性の声が聞こえた。
女性:「すいませ〜ん」
オレが声の方を見ると、女性は達郎さんに話しかけていた。
達郎:「はい、なんですか?」
女性:「あのポスターに写ってるワンちゃんの写真って譲ってもらえますか?」
達郎:「えぇ、勿論ですよ。但し、部の運営費への足しにする為に幾らかのお金は頂きますけどね。」
......オレの断りもなくお金取るんだ......
まぁ、リルが人気なのはいいんだが......
そんなオレの視線に女性が気付いたのか、オレと白泉さんを見る。
女性:「あっ、あのポスターのカップルさんですか?」
オレ:「や、カップルではな......」
奈菜:「はい、そうですよ。」
弥生:「カップルじゃないから!」
理香:「既成事実を作るおつもりなのかしら〜?」
白泉さんは、その言葉を聞きながらも微笑んで、
奈菜:「でも、一緒に写っているという意味合いではカップルと言っても過言ではないと思います。」
と答えた。
オレ:「やっ、でも、誤解を受ける表現は......」
オレが少し戸惑いながらそう答えると、白泉さんは少し不安そうな顔をして、
奈菜:「嫌でしたでしょうか?」
とオレを見て聞いてきた。
オレ:「やっ、嫌とかそういうのではなくてですね.......」
奈菜:「嫌でしたでしょうか?」
更に聞いてくる。
オレ:「だから......」
奈菜:「嫌......でしたでしょうか?」
更に目を潤ませて聞いてくる。
......オレにどう答えろと?
オレ:「......嫌ではないです。」
結局折れるしかなかった。
その答えを聞いて、白泉さんは満足そうに微笑み、そんなやり取りを見た浅生さんは不満そう
な表情を浮かべ、法泉さんは笑顔なのに思いっきり不満そうなオーラを出していた。
一通り話が終わった所で、再び女性から声が掛かる。
女性:「あの〜? あのワンちゃんはあなたのペットですか?」
オレ:「はい。でも、ペットではなくオレの妹ですよ。それだけは気をつけてくださいね。」
女性:「あっ、ごめんなさいです。でも、あんなに可愛いんだもん、
妹って言いたくなるのもわかります。」
オレ:「ありがとうございます。リルは、オレにとって大切な大切な、愛する妹ですよ。」
女性:「あっ、リルちゃんって言うんですね! あの子の雰囲気にピッタリの名前だと思います!」
オレ:「あっ、ありがとうございます。名付け親はオレなんですよ。」
女性:「そうだったんですか......」
そう女性は答えると、オレの腕に抱きつく白泉さんを見ながら、
女性:「ふふっ...... なんだか、リルちゃんラブなんですね。
彼女さんは妬けちゃうんじゃないかしら?」
と聞いてきた。
オレ:「やっ、だからかの......」
奈菜:「そうなんです。彼はホントに妹ラブで、リルちゃんもお兄ちゃんラブなので、
私はリルちゃんに威嚇されることもあります。」
白泉さんは、オレの言葉を遮りながら意味深にそんな発言をした。
それを聞いて黙っていられなかったのか、浅生さんはオレの空いている腕に抱きつき、
弥生:「そうなんですよ〜。リルちゃんは彼が大好きみたいで、
一緒に居るときに抱きつこうものなら「ヴゥ〜」って威嚇してくるから、
彼とリルちゃんが一緒の時は、私は甘えられないんですよぉ〜」
と答え、更に、法泉さんは、オレの前からオレの身体に半身になって抱きつき、女性の方を見て、
理香:「彼もリルちゃんが大好きですから、リルちゃんは彼が一緒の時が一番可愛いんですの〜
そして、リルちゃんと一緒の彼がやっぱり一番素敵な笑顔なので、
そんな笑顔を私も向けられたいって思いますわ〜」
と答えた。
女性は、白泉さんと浅生さんと法泉さんを見て戸惑いながら、
女性:「そっ......そうですかぁ......」
と答えた。
オレは完全にもう身動きが取れない。
オレは一体どうしたらいいのだろうか.......
オレが焦っていると、女性は微笑み、
女性:「あの、握手してもらえますか?」
と聞いてきた。
オレが
オレ:「あっ......はい......」
と答えながら手を差し伸べると、女性はオレの手を握りながら、
女性:「でも......確かに、あなたの笑顔、リルちゃんと一緒だと素敵ですね!」
と答え、白泉さん、浅生さん、法泉さんを見てからオレを見て、
女性:「応援してますから! 頑張ってくださいね! それじゃっ!」
と言って女性は去って行った。
......応援してます.......って何を?
と疑問に思いながら、白泉さん、浅生さん、法泉さんに抱きつかれたまま固まっていたオレだった。
その後、その女性は自分の友人達に
女性:「どうやら、法泉さんの好きな人は、あの写真部のポスターの彼のようですよ〜!
そしてそしてっ! 何とっ! 浅生さんと白泉さんも彼が好きなようですよ〜!」
と言いふらし、それがまた他の人へと知れ渡り、オレは更に渦中の人となる事
になってしまったのだった。




