第四十話:妹犬の兄はやはり唐変木
第四十話:妹犬の兄はやはり唐変木
リルと帰宅したオレは、今日の事を思い出しながらベットに寝転んでいた。
なんと言うか......いきなり7人の女性に告白された事になるのだが、
こういうのって、ホントに現実味がない。
横に居る法泉さん然り、その他の女性陣然り、みんな確かに素敵な女性だと思う。
だから、尚の事オレに恋愛感情を抱く事自体が信じられない。
......それに、理由も分からない。
今日会ったばかりで好きになるなんて、オレには理解ができない事だ。
でもなぁ......法泉さんは確かに真剣だったよなぁ......
......そういえば......オレって誰かを好きになった事ってあるのだろうか......
小学校、中学校、高校と過ごして来た自分の過去を振り返る。
確かに......小学校と中学校時代は、何となく好きだった人は居た。
でも、付き合いたいって思った事って一度もなかったんじゃなかろうか......
......オレって本気で人を好きになった事無いじゃん!
今更に気付いた驚愕の事実。
でもなぁ......オレって基本こういうヤツだからなぁ......
そんな事を考えていると、リルがオレの前で遠慮がちに「ウァウ!ウァウ!」
と吠えて、部屋の扉を開けるように催促してきたので、扉を開けてリルを部屋に入れた。
リルがオレのベットに上がるのを見て、オレもベットに寝そべった。
そのまま、再び今日の事を考えていると、リルが心配そうにオレの顔を舐めてきた。
オレ:「リル......お兄ちゃんはどうしたらいいんだろうなぁ......」
オレはリルの頭を撫でながら、リルに聞いてみた。
リルは、さっきと同じように、心配そうにオレの顔を舐めた。
オレ:「考えても分からない事がある時は、とりあえず後回し
にしておくしかないよなぁ......
よし、今日はもう寝ようか。 お休み、リル。」
そう言い、リルにも眠るように促した。
リルはオレの言葉に安心したのか、足元に行って寝転んだ。
今はしょうがないさ。これから考えていくしかないよな。
そう結論付けて、オレもリルも眠りに就いた。
次の日、オレは大学の1時間目の講義を終えた後、芝生の近くのベンチに座り、
次の講義の時間まで何をして暇を潰そうかとのんびりと空を眺めていた。
すると、遠くに法泉さんの姿が見えた。
法泉さんは数人の女性と一緒に歩いていたのだが、そこに、一人の男が向かい、
男:「法泉さんっ! 僕と付き合ってくださいっ!」
と、花束を法泉さんに向けながら、頭を下げていた。
......やっぱり、法泉さんって人気あるんだなぁ.......
......と、あくまでも他人事なオレだった。
理香:「ごめんなさい。私には好きな人がいるの。」
法泉さんの言葉に、周りの女性陣もその男も驚く。
A子:「理香、いつのまにそんな事になってるのよ!」
B子:「初耳よ? 誰よ誰よ〜!」
理香:「その辺りは......今は伏せさせてくださいな。
彼からはまだ良い返事を受けてませんの。」
C子:「その割りに......楽しそうね......」
理香:「えぇ、楽しいですわよ? ライバルも沢山おりますの。」
A子:「何処のモテ男よぉ!」
B子:「そんな人なら人気が出てて知らない人なんかいないんじゃない?」
理香は左上を向きながら、頬に指を当てて考えながらこう答えた。
理香:「さぁ......どうかしら......
基本的に怖がられてるって言ってましたし......」
C子:「......理香って、ワイルド系が好み?」
理香:「いえ、彼は目つきが鋭いだけで、とても優しい方ですのよ?」
B子:「そうなんだぁ......」
そこで、法泉さんは告白してきた男に
理香:「そういう事ですので、諦めてくださいまし。」
と笑顔で答え、友達と歩いて構内に入って行った。
告白してきた男は、花束を持った手をだらしなく下に垂らして放心していた。
......法泉さんはやっぱり人気があるんだなぁ.......
あんな人がオレに告白......オレの何が気に入ったんだろうなぁ......
普通の男なら、飛んで喜ぶ事なんだと思う。
でも......オレには喜ぶ気にはなれない。
だってなぁ......会ったばかりで告白されたら、誰だって戸惑うだろ......
それに......真剣なのは分かるけれども......理由が分からないんだよなぁ......
まぁ、とりあえず「ごめんなさい」とは言ってあるし、気にする事もないかなぁ......
......でもなぁ......
......と、昨日の事を思い出しながら、オレは空を眺めていた。
その日の夜、久し振りに勇次に電話を掛けて、昨日の事を相談してみた。
勇次:『......そりゃ、オレに対する嫌味か?』
少々苛立った勇次の声が聞こえた。
オレ:「や......嫌味って......お前彼女いるじゃん。
水沢さんとうまく行ってないのか?」
勇次:『玲子とはうまくいってるよ!
ん〜......そうじゃなくてだなぁ.......
お前はオレに自分がどれだけモテてるのか自慢したいのか
って聞いてるんだよ!』
オレ:「や......これってモテてるって言うのか?
大体にして、出会ってすぐに、しかも何人もの女性に告白されても
全く現実味ないだろ。
好きになられた理由も考えつかないし.......」
勇次:『お前......
一つ聞くが、お前は自分をどういうヤツだって思ってるんだ?』
オレ:「どうって...... 何処にでもいる普通の男......
もしくは、目つきが鋭くてどちらかと言われると怖がられるヤツ......」
そこで勇次は溜め息を吐き、呆れたような声でオレにこう話した。
勇次:『......お前なぁ......
まぁ、後半は合ってるが、何処にでもいるような普通の男が、
何人もの女性に告白されるか?』
オレ:「だから訳が分からないんだよ。」
勇次:『.......はぁ...... 相変わらずの唐変木なのな、お前は......
まぁ、お前らしいって言えばお前らしいだろうけどな......』
オレ:「どういう意味だよ?」
そこで勇次は少々怒った声で、
勇次:『それっ位、自分で考えろ!』
と言って電話を切ってしまった。
オレ:「自分で考えろって言われてもなぁ.......」
考えても分からないから電話して相談したんだが.......
勇次に呆れられ、更に怒られたオレは、更に悩むしかなかった。