第十一話:妹犬と夕食
第十一話:妹犬と夕食
オレとリルが帰宅した頃、丁度夕食の時間となっていたようで、
居間には既に夕食が用意されていた。
お袋:「リーちゃん、リーちゃんのご飯はこれね。」
お袋がそう言いながらドックフードをリルに見せる。
.......が、リルは見向きもしない。
オレ:「リル、リルのご飯はこっちだぞ。」
そうオレが言っても見向きもしない。
お袋は、リルの様子に折れたようで、オレ達の食べている肉の味付けしていないもの
をリルにあげた。
すると、リルは美味しそうにそれを.......食べなかった。
大きいまま渡すと、口には咥えるものの、食べないのだ。
そこで、少しずつ小さくしてリルに与えてやると、やっと食べ始めた。
......何ていうか.......甘えん坊な.......
小さくしてやらないと食べないなんてなぁ.......
リルは自分の分を食べ終わると、オレの右に来てお座わりし、右手でオレの腕をチョンチョンと突いた。
オレがリルの方を見ると、「ハッハッ!」としながら物欲しそうにオレの顔を見る。
.......可愛い......が、あげたらオレの食い物がなくなる......
オレ:「リル、ダメだぞ? もう食べただろ?」
オレがそう言うと、姿勢を整えてお座りし、「ワン!」と吠える。
オレ:「だ〜め、お兄ちゃんはあげないよ〜」
それでもリルは諦めず、今度は小首を傾げて上目遣いでこちらを見る。
やっ......リル......それは反則だろう.......
オレがじっとリルを見ていると、リルは「クゥーン......」と泣いた。
あぁ、もう可愛いなっ!
オレはできる限り薄味になるように、オレが噛み砕いたものを自分の手に出し、
リルに食べさせる。
リルはそれを美味しそうに食べた。
......が、リルは段々と「もっともっと!」と言わんばかりに催促してきて、
最終的にはオレから口移しで食べた。
オレ:「はいっ!ごちそうさまっ!もうないぞっ!」
ご飯を食べ終えた後、リルの頭を撫でてやると、嬉しそうにオレの顔を舐め、
そしてオレの横に寝そべった。
夜、オレが宿題をしていると、オレの部屋の外から「ワン」と言う声が聞こえた。
オレ:「......ん?」
オレが戸を開けると、リルがオレの部屋に入ってきて、オレのベットの下側
に寝そべってオレの方を見た。
オレ:「リル、なんだ?そろそろ眠いのか?」
オレがリルの頭を撫でると、リルは目を細めて耳を後ろに畳み、嬉しそうな顔をした。
オレ:「お兄ちゃんはまた宿題があるからな、先に寝てな。」
オレがそう言うと、リルは顔を自分の腕で支えるようにして眠りに就いた。
その頃......香織の家......
香織は浮島を呼び、膝に猫を置いて撫でながら、今日の放課後の話を聞いた。
香織:「......で? 藤崎信也の家の前で何があったのですか?」
浮島:「あの......何と申しましょうか......
お嬢様に電話していた時に信也様が出ていらつしゃって......
その時の笑顔が.......何とも......あの......素敵で......」
浮島は手を胸の辺りでもじもじさせながらそんな事を話した。
香織は浮島のそんな行動を見て、「この方はこんな方だったかしら......」
と疑問に思いながらも、彼の今日の朝の顔を思い出した。
......確かに、彼の初めて見る笑顔は......素敵......だったかも......
そんなお嬢様の姿を見た浮島は、怒られる覚悟をしていたのに、
何故かぽわ〜んとした雰囲気に......
浮島:「......あの......お嬢様?」
香織は、浮島の声で我に返る。
香織は一つ咳払いをした後、少し焦りながらこう答えた。
香織:「なっ......何でも......ありませんわ......
それより、浮島さん? その笑顔を見せた原因らしきものは分かりますか?」
浮島:「はい......そう言えば、初めて見ましたが、彼は犬を飼い始めたようです。」
香織:「犬......ですか...... なるほど、そういう事でしたのね......」
どうやら、保健所から犬を連れてきたと.......それを妹だと......
香織は今日の朝の事を思い出し、「フフっ」と嬉しそうに笑った。
浮島:「......お嬢様?」
香織:「はっ......なっ、何でもありませんわっ!
今日はもう下がってよろしいですわよ!」
少し焦りながら、香織は浮島を部屋から退出させた。
その後、今朝の藤崎信也の姿を思い出しながら、香織は
香織:「ふふっ......あんな彼でも人の子なのですね......
これなら彼を更正させられる筈ですわね......」
と、嬉しそうに、部屋から出た浮島は、
浮島:「あぁ......信也様......あの笑顔をもう一度見たいです......」
......と夢見心地に放課後の彼の笑顔を思い出していた。