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通学路にて

 高校の制服に腕を通し、鏡の前に立つ。


 ネクタイの結び方はばっちり父さんに教えてもらった。少しかっこつけてネクタイをいじってみると、中学の時の学ランとはまた違って一つ大人になった気分になる。


「おはよう、父さん」


 朝食を作っている父さんに声をかけた。


「おう、おはよう。今日から高校だな。ネクタイは……OKだな。寝ぐせはないだろうな? いいか? 最初が肝心だからな? 人の印象は最初にあった時の10秒で決まるぜ。最初にビシッと決めときゃその後の付き合いも……」

「分かった。分かったって。ったく、何回目だよ、その話……」

「あーあ、その反応、分かってねぇなぁ。最初にやらかすとどん、なことになるか。高校生なのに彼女の一つもできない、みじめな青春を送る羽目になるぜ? 年長者の言うことは素直に聞いてけって」

「お父さん、職場でもそんななの?」


 もう一人、先に食卓についていた妹の加賀美 智花はうんざりしたような声を上げた。


 1つの質問に対して10の答えがペラペラと帰ってくる父さんに、最近は反抗期な妹だ。


 セミロングの黒髪で顔立ちは母さん似の美人さんだ。今年度中学2年に進学した智花は、さぞ学校ではモテることだろう。


 そのことを心の中で考えている俺と、わざわざ口に出して好感度を下げている父さん。父さんも黙っていればナイスガイなんだけどなぁ。


 俺は残念な父さんに苦笑いしながら、今日の朝食に目を向け、日課になっていることをした。


 今日はごはんに味噌汁、焼き魚といった、教科書に出てくるような日本の朝食だ。少なくとも、2人にはそう見えていることだろう。


 もちろん俺にもそう見えている。ただ、2人には見えないものも見えているだけだ。含まれている栄養素、カロリー、食材の詳細といったものだ。


 俺の能力はあの後、オンオフが可能になり、どんどん見えるものが増えていっている。病院を退院するころには人だけではなく、モノについても見れるようになったし、ひと月も経つと少し青白くて足がない人……つまり幽霊なんかも見れるようになった。


 幽霊が見え始めたころはビビったが、今ではすっかり慣れてしまった。見えてしまえばそういうものだと思えるようになったのだ。


 それどころかしゃべり相手になってくれる人が珍しいらしく、なぜか俺の部屋が幽霊相談所になってしまっている。


 なんか、俺が思ってたのと違う。


 俺が思ってたのはピンチになった人を颯爽と助けるって奴だったんだけど。ま、颯爽と助けられるような能力じゃないんだけどな。


 とりあえず今は能力の発達は止まっているが、これからも新しいものが視えるようになったりするんだろうか。


「ん、終わり」

「何が?」

「目の運動」

「……は?」


 能力確認を終え、朝食に手を付ける。


 テレビをつけると、あたりさわりのないニュースが流れている。


 俺の教室が空っぽになった事件はもう誰も話題にはしない。


 発生当初は、連日のようにテレビの取材が学校や俺の家に来たりしていたものだった。それも2か月もすれば終わりだった。


 警察の調査も何事もなく終わり、俺は隣のクラスに編入して残った中学校生活を消化した。もしかするとハブられるかとも思ったがそんなこともなく、みんな普通に接してくれたからなぁ。


 そこでできた新しい友達は、違う高校に進んじゃったけど。


 そうしていると、茶碗に盛られたご飯がなくなった。


 時計を見ると丁度な時間だ。


「それじゃあ、行ってきます」

「……ます」

「今日は用事があっていけないからな! 帰ったら学校の話聞かせろよ!」


 あんた、息子の始業式来ないのかよ。


 父さんの声に背中を押され、俺たちはそろって玄関を出たのだった。


 俺は自転車を車庫から取り出した。


 中学校までは距離の関係で徒歩だったが、高校からは自転車が使えるのだ。これで毎日の登下校が楽になる。


「途中まで乗ってくか?」

「……恥ずかしいからいい」


 俺と目を合わせることなく智花は小走りで走って行ってしまう。


 俺、別に嫌われてないよな。そういう年頃なんだもんな。うん、そう考えることにしよう。


 朝からちょっと悲しい気持ちになってしまった俺は、道を歩く智花を自転車で追い抜いて高校に向かうのだった。





―――――――――――――





 向かっている途中で女の子を見つけた。


 あれは俺がこれから3年間お世話になる高校の女子用の制服だ。


 その制服を身に着けた女の子が、木に登っている。


 なんであんなことしているんだろうか、しかもスカートで。始業式もあるっていうのに。


 その女の子は必死に気にしがみつきながら、手を伸ばしていた。その手の先を見ると、丸まっている猫がいる。


 なるほどね。あの猫を下してあげようとしているのか。


 俺は急いで自転車のスタンドを下し、女の子がしがみついている枝の下に向かう。


「あの! 大丈夫ですか!?」

「え!? あ、はい! 大丈夫です!」

「降りられますか!? っと、その前に、猫に手は届きそうですか!?」

「う~ん……っ! もうちょっとなんですけど……っ!」


 女の子は体をゆすっている。本人は前に進んでいるつもりなんだろうけど、まったく位置は変わっていない。


「あっ、ダ、ダメ!」


 木を揺らしたことが逆効果になってしまった。猫の体が揺さぶられたことによって、足を踏み外してしまったのだ。


 もしここで彼女一人だったなら猫は地面に真っ逆さまだったかもしれないが、俺は猫の真下で待機していたため、しっかり捕まえることができた。


 でもよく考えると、猫ってこの程度の高さだったらうまく着地できるんじゃ……?


 腕の中でにゃーとなく子猫に癒されつつ、キャッチできたことを報告しようと顔を上げる。


 今度は人が降ってきた。


 ああ、もちろん気にしがみついていたあの女の子だ。


 俺はとっさに自分の体をクッションにして受け止めた。


 落ちてくる人よりも早く動くなんて俺の反応速度もばかにできないな、なんて考えられるのは、走馬燈のように極限状態で体感時間が極限まで引き伸ばされているからだろう。


「がっ!」


 かたい地面と人体にサンドされたことに取り、肺の空気が吐き出され、目の前に星が浮かんだ。


 女の子の体も、ここではただの質量兵器になってしまったみたいだ。特に頭が胸の中心を直撃したのがほんとに効いた。


「え、あ……? あ! ごめんなさい! すぐどきます!」


 俺の上にいた女の子はすぐに状況を理解したのか、俺の上からどいてくれる。


「あの、大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」


 手を差し出してくれる女の子に、握ってしまっていいのか悩みながらも、役得だとしっかりと握って立ち上がる。向こうが差し出してくれたんだし、このくらい良いはずさ。


「怪我とかありませんか?」

「えー……だいじょぶみたいです。そっちは……ん、そっちもだいじょぶそうですね」

「はい! 私はぴんぴんしてます! 丈夫なのが取り柄なので!」


 じゃあ俺のクッションは、要りませんでしたか?


 なんて冗談は置いておいて、確かに、『視た』限りではお互い怪我はないみたいだな。怪我の具合なんかも確認できるから便利だよ。


 ちなみに、彼女の情報の一部はこんな感じだ。




名前:相田 萌

性別:女

年齢:15

身長:152センチメートル

体重:■■

ギフト:――

経歴:■■




 女の子改め相田さん。性別が女なのは当然だとして、年齢が15ってことは俺と同じ新入生か。


 ぱっちりとした二重には強い意志が宿っているのが見て取れ、ぷっくりとした唇にバランスのいい鼻がきれいにまとまっている。俗に言う整った顔立ちってやつだ。髪型は智花くらいの長さの栗色の髪を左側で再度テールにしている。


 誰にでも話しかけてくれそうなその雰囲気と養子のおかげで、なんだか遠い世界から来たような、自分とは違う、ずいぶん高等な人のように思える。


 俺が視た内容に関して少し説明すると、■■になっているところは俺にはまだ知ることができないところだ。これは半年かけて検証した結果だけど、どうやらこれは、俺に対する信頼度的なものによって、視える情報に差ができるらしい。


 信頼度が高ければより多くの情報が得られ、低ければ■■が多くなる。俺に対して公開してもいい情報ということだ。女の子らしく体重に■■が入っているな。きっとどんなに仲良くなったとしてもこの■■は消えないんだろう。


 次に『――』があるが、これは存在しない、という意味だと思う。というのも、俺以外の人(この能力を手に入れてから会った人)のギフト欄はすべて『――』になっているのだ。


 大多数の人が持っていないということは『――』は存在しない、という意味でいいのだろう。


 この制約も、モノに対しては働かないんだけどな。


 なんにせよ、入学式から可愛い女の子と知り合いになれるなんて、本当にツイてる。父さん、最初が肝心って、こういうことだったんだな!


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