プロローグ
夏休み直前のその日、教室が光に包まれた。
偶然にも授業中トイレに行きたくなってしまった俺――加賀美 大輝は、教室から足を出したところで、その光に背中が照らされることになった。
いきなりのことに驚き、振り返ると、さっきまでそこに座っていたはずの級友たちが先生も含め、忽然と姿を消してしまっていた。
机にはノートが広げられ、その上にはみんなが握っていたシャープペンシルや消しゴムが転がっている。
黒板の下では、先生が握っていたであろうチョークが粉々に砕け散っていた。
人間だけがいなくなってしまった教室は、かけているのが人だけだからか、ひどく恐ろしいものに見える。
何が何だかわからなかったが、その直後に強烈な眩暈に襲われる。
まっすぐ立っているのかもわからなくなってしまい、瞼を開けていられなくなる。
俺は意識を失ってしまった。
その日を境に俺の生活が変化し始めた。
別に手のひらから火の弾や雷が出せるようになったわけじゃないし、スーパーマンのような身体能力が手に入ったわけもない。
視える、ようになったのだ。いろいろなものが。
最初は病院で目を覚ました時。すぐそばに座っていた父さんを見た時だった。
見慣れた顔を真っ青にして腕を組んでいるその姿を見て安心したと思ったとき、意味の分からないものが顔の横に表示されたのだ。
父さんの名前、年齢、性別、家族構成などなどの個人情報だ。
そのあとに、教室の生徒がいなくなったことについて聞きたいことがあると病室に入ってきた刑事の顔の横にも、同じものが視えた。と言っても、全く同じという訳ではない。父さんに比べるとわかる情報は少なかった。
看護師さんにもお医者さんにも、会う人会う人みんなにそれは視えた。
幻覚ではなかった。試しに、初めて会うお医者さんや看護師さんに名前や年齢を聞いてみると、俺が視えているものとぴったりと一致したからだ。
幻覚ではなく、本当に俺に特殊な力が身についたのだ。
戦隊ヒーローや仮〇ライダーはだいぶ前に卒業した俺だったが、そこはやっぱり男の子。自分に特殊な能力が身についてワクワクしないわけがない。
あわよくば、もっとド派手な奴がよかった気もするが、それはそれ。我慢する。
一度はなくなったはずの、男の子なら誰しも子供のころに持っていたであろうものが蘇ってきた。
弱気を助け強きを挫く、ヒーロー願望だ。
この力を使って、何とか世の中のためになることができないかを考えるようになった。
こうして自分の力の使い方について考えているうちに、俺は高校に進学することになった。