表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

暖色・中間色・寒色短編集

犬のようで猫のような彼と別れた私は

作者: Surlza(すーざ)

下書きにお蔵入りする前に出しました。対の物語を読み、初めて成立するエンディングです。




 『彼は、どんな人だったんですか?』



 人は私にそう尋ねました。

 恋話が大好きな女の集まる夜には、その夜の酔いに任せて何度も彼について思い出して答えます。


「彼は、人がいなければ生きてはいけない人でしたね」

「へぇ~さびしがり屋だったんだね」


 彼はまるで犬のような人でした。

 さびしがり屋の犬のようで。

 街に出れば、私の手を引き「あっち」と連れまわす。女の私でも疲れてしまうほど彼はウィンドウショッピングが好きで、私は大型犬に振り回される飼い主のようで。


「なんか、忠犬っぽい」

「んーでも、振り回す気まぐれさを見ると……猫みたいじゃない?」


 そう、まるで猫のような人でもありました。

 気が向かなければデートの予定もふいにする、気分屋の猫のようで。集合時間に来ることはほとんどないので、待ち合わせはもっぱら私が時間をつぶせる喫茶店の前。5回に1回は音信不通でドタキャンされるのは当たり前でした。


「まぁ……すごい自由なのね」

「そうですね、自由と言えば響きは良いですが、要するに自己中心的でしたね」


 真夜中、横で丸くなった大きな背中。私は無意識のうちにその背中を抱きしめていました。うなされる夢の中で、少しでも私ができることがあればと、きつくその背中を抱きしめて眠るのです。


 いつも何かを抱え込み、苦しくなれば、まるで自分の死期を悟った猫のように無言で消えてしまう、背中でした。私はそんな猫をなすすべなく待ち続ける飼い主のようで。なんて、自己中心的なんでしょうか、あのひとは。


「ねぇ、やっぱり終わりにしましょ」

「え?」

「この話。終わったことなの」

 

 私は恋バナで盛り上がる会に水を差し、ごめん、とつぶやきました。


「でも、もうね。話したくないの」






 彼は人の言葉の裏まで見透かそうとして、私の予想だにもしない言葉として理解している人でした。大人げない私がついぼやいた言葉すら、彼のネガティブスイッチを押してしまう。なのにふと、機嫌を直して私に寄り添ってくれる。それはまるで猫のような人だと思いました。気まぐれに大人びた猫です。




 私は何を選べば正解ですか、正解でしたか。




 私は、その人の「内側」をまだ、見せてもらうことすらできませんでした。私はその人に、大人ぶった優しい言葉だけを与えていました。


「無理はしないで」



 無理をしているのに、大丈夫と答え。

 ただ疲れたとしか伝えてくれない。何に疲れたのかすら、私には教えてくれませんでした。

 

 私が少しでも酷い言葉を投げかければ、それだけは裏を見透かしてくれないし。あまのじゃく。酷い言葉の中に、隠しきれないほどの愛があったとしても、彼は断固として読み取りませんでした。



 たぶん、私には背負いきれないのかもしれません。

 好きは、好きでも、それが人と一緒にいられる理由にはならないのです。だから少しでも一緒に居られる理由を作りたいと、女は思うものです。駆け引きをしてしまうのです。




 私は「好き」と言いました。でも、私は完璧人間ではありませんから、すべてを受け入れられません。それに、すぐに拗ねますから一般的な女よりも複雑です。だから私は最後のチャンスとばかりに、彼に、言いました。


『別れましょう』







 水を差した女子会にいるのが居た堪れなくなった私は、二次会に行くという女友達と別れて、家路につきました。そういえば女子会の開催理由は、私の失恋慰め会と、メンバーの1人の新しい彼氏の話を聞く目的だったはずです。私は話題提供を途中で拒んだからお呼びではないのです。


「あまのじゃく、は私の方、か」


『彼は、どんな人だったんですか?』



「あまのじゃくのネガティブ男。自分勝手で、人の感情の動きには過敏なくせに、自分に向けられた愛や嫉妬は気づけない鈍感男でした」


 でも私は、そんなあまのじゃくでもネガティブでも、自分勝手でも、繊細すぎるところも、妙に鈍感なところもすべてすべて―――







 繁華街の空、星は鬱陶しいほどの厚い雲に覆われて見えません――まるで、私の心のように。




 私はもう、前が見えません。





 私は――――





 ふいに私のポケットの中の携帯が震えました。

 着信相手は彼でした。




 でも私は、その着信に応じることはできませんでした。






お読みいただきありがとうございました。彼女はなぜ電話に出られなかったのでしょうか。「子兎のようで雌獅子のような彼女と別れた俺は」は1/13投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ