『私』が『私』になった日
不定期更新になる事間違い無しですが、よろしくお願いします。
12月21日、一部改稿しました。
私には2つ上の兄がいる。
兄は文武両道、才色兼備、質実剛健と三拍子揃った気持ち悪いくらい完璧な男である。
まぁ俗に言う『チート』と云うやつだ。
こんな兄を持つと、どうなるか。想像に難くないだろう。
私は幼い頃から兄と比べられまくった。
嫌という程比べられた。
最初の頃は兄みたいになるんだと頑張っていた。
どんなに努力しても届かない兄の背中、年々重くなる家族や周りの視線や言葉によるストレス、兄と比べられる事は苦痛でした無かった。
それでも褒めて貰いたくて、叱られたくなくて、必死で兄の背中を目指したのだ。
だが、私は気が付いてしまったのだ。
『こいつらは私に成長して欲しいんじゃなくて、兄の複製品が欲しいんだ。』と。
その事実に気が付いたのは、1月11日_私の15歳の誕生日だった。
とんだ誕生日プレゼントもあるものだ。
そして気付いたその瞬間、私の中で『何か』がきれた。
『あなたの為なのよ』
_うるさい黙れ。何があなたの為にだ。お前の為だろ。
『何でお兄ちゃんみたいに出来ないの⁉︎』
_私と兄は別人だ馬鹿野郎。
お前が兄と同じ事をやってみろや。
大人しくて真面目で兄の背中を懸命に追いかける健気な少女は、なんて愚かだったのだろう。
どんなに努力したって、『兄』に限りなく似た『複製品』にしか成れないのに。
その日から私の目標は『兄と見紛うほどの複製品に成る事』から、『兄を超えて、私に兄の様に成れと言い続けた奴らを見返す事』に変わった。
歪んでる?破綻してる?
結構だ。私を歪めて破綻させたのは、他でもないお前らなのだから。
兄の真似をする事を辞めた私は、決意した。
『こんな家、出てってやる』と。
私を劣悪な模造品としか考えていない親からすれば、願ったり叶ったりであろう。
決意した私は入念な準備をしたのち、絶縁状を残して家出した。
2月の中頃の話だ。
中学校にはちゃんと通った。
親は世間体を気にしてか、私が家出した事を誰にも言わなかった。
もともと友達と呼べるような存在は居なかった私にとって、家出とは学校から帰る場所が家ではなくなったというだけだ。
そして、私は『天才鈴原涼の妹』から『鈴原美月』に成った。
「…懐かしい。」
呟いた言葉は、しかし誰もいない寮の1人部屋に溶けて消えた。
『私』が『私』に成ったあの頃の夢。
まるで昨日の事のように鮮明に覚えている。
今の私は『私立東雲学園高等部1年鈴原美月』だ。
日本最高峰の高校である、名門私立東雲学園に入学した理由はただ1つ。
兄_涼が居るからだ。
この学園には試験の点数の順位である『成績順位』と魔法や精霊を用いた対人戦闘の勝敗による順位『対人順位』、2つの合計である『総合順位』の3つの順位がある。
これらは学年関係なく純粋な実力で番付される。
私は兄が卒業するまでの1年間で、兄をすべての順位に置いて越える。
その為にこの学園に来たのだ。
「首洗って待ってろよ?兄さん」
自然と口角がつり上がる。
多分、とんでもない悪人顏に成っている事だろう。
悪人上等だ。
兄が王道のチートならば、私はそれを邪道で越えよう。
自分の教室_1のAに行くと、声をかけられた。
「美月、おはよう。」
「おはよう、華音。」
柔らかな朝日に、限りなく銀に近い金髪が照らされる。
白磁の肌に紫水晶の瞳。
可憐な美少女である彼女は、八田華音。私にはもったいないくらいの友人である。
父がイタリア人、母がフランスと日本のハーフという、世界を股にかけた血筋を引く彼女は生粋のお嬢様である。
最初の頃は自分とは違う世界の住人だと思っていたが、ある一件をきっかけに今では親友と言っても過言では無いような仲だ。
「今日の試験は自信あるの?」
「う〜ん、まあまあかな?」
そう、今日_5月23日から29日までの1週間、試験なのだ。
東雲学園高等部1学期中間試験。
私達1年生にとっては初めての試験である。
「私、緊張してしまって…。美月は凄いね」
「ただ、図太いだけだよ。」
私は兄を超えるのだ。
今回は4回ある内の1回目のチャンス。
「…緊張している余裕なんてないんだよ。」
朝礼が終わり、机に着く。
試験開始のチャイムが鳴る。
・家出した美月がどうやって生活していたのか
・高校入学のためのお金はどうしたのか
等の説明は後々書く予定です。
ご容赦ください。