決戦
1
風子と古賀から新たに課せられた訓練をこなす日々を、政彦が続けているうちに、二週間弱ていどの期間は、瞬く間に過ぎていった。
妹・紗奈が、明日の朝、東京へ出発する。政彦は、仇討を控えた武士のような気分で、放課後の校庭に立っていた。
時刻は午後三時四十五分。帰宅戦開始まで、あと十五分だ。
「気合、入ってるわね」
いつものように、競技用薙刀を担いでいる悠が、茶化すような声を掛けてきた。
「当然。今日、俺は帰宅戦最高の勝者になる男だからな」
政彦は、気合と自信に滾った声で返した。
格好も、気分が出ている。右手に短い竹刀。左手に長い竹刀を持ち、普段は七三の髪はオールバックにして、鉢巻を巻いていた。
顔には、シューティング・グラスのようなゴーグルを着けている。スポーツ選手用の、割れにくいメガネで、水泳のゴーグルのように、ゴム紐が付いているタイプだ。帰宅寮内のメガネ屋で作った、特注品だった。
これで、胴着や袴姿なら、もっと格好がいいのだが、政彦は、学校指定の制服を着なければならない身分が不満だった。
今日こそ、服装の自由を取り戻して見せよう。
「その意気その意気。皆もあんたを応援してるわよ。主に男子で、女子は少ないけどね。おーいお前ら、気合、入ってるー?」
悠が、周囲の帰宅部員たちを煽るように、腕を振った。
アメリカのバラエティー番組で、大げさな仕草をして、観客の盛り上げる司会者のようだった。
「応! やってやんぜ」
「最上―! 今日は任せとけ」
「お前は必ず、妹ちゃんのところに帰してやるからな」
「気は乗らないけど、助けてあげる。しょうがなくだからね」
「女性のために戦うは、騎士の誉よ」
「いいイベントだ。腕が鳴る」
周囲の帰宅部員が、常ならぬ親しみを込めて、政彦に声を掛けてきた。中には、今回から更に賞金が高騰した風子や悠ほどではないが、高額な賞金を懸けられている面々まで、帰宅への協力を表明してきていた。
顔ぶれを見わたし、政彦は息を呑んだ。
卓球部でありながら、白檀製のラケットを握り込み、蟷螂拳の動きで戦う男、前田雄一、通称「前陣速攻のカマキリ」賞金二十万円。
剣道界では異端な、足への斬撃や胴への蹴り、投げのある古式は剣術の使い手、中杉幹也。練習で投げや下段回し蹴りを打ち、多くの剣道部員に怪我をさせたため、顧問により帰宅部へ厄介払いされた「ミスター部位破壊」賞金二十五万円。
漫才部でツッコミを担当していたが、身長百九十七センチの長身から繰り出されるツッコミは、手首のスナップと限界まで曲げた肘を解放する力が反動が強すぎた。結果、先輩のボケ役を三人、胸骨を折って追放処分となり、帰宅部へ強制入部させられた。以来、自分を追放した漫才部員に復讐するため、ツッコミの威力を強化し続け、左右のスイッチから高速でツッコミ――というより、フリッカー・ジャブ――を繰り出すようになった「ツッコミのデトロイト・モーター・コブラ」の異名を持つが、アメリカではなくアフリカのケニアからきた留学生、マシュー・オグトュー賞金三十万円。
などなど、恐るべき賞金首たちだ。
他にも、百五十万円の風子、百二十万円の悠に次ぐ高額賞金首「想像妊娠ブラザース・プラスワン」を筆頭に
「ナイトオブ・ライジングサン」
「オカルト三銃士」
「女相撲界の超重戦車」
「三好町の笛吹」
などなど、並の有志同盟員なら、高額の賞金首にも拘わらず、道を譲るであろう、錚々たるメンバーだ。ほとんどは二年か三年生で、大抵は、強すぎるために帰宅戦数週停止か、やりすぎて停学を食らっている面々だ。偶然か、今回は全て揃っていた。
なぜか、今回から政彦にも百万円の賞金が付いた。前回まで十万円だったので、急にどうしたのかと訝しく思ったが、どうせ間違いだろう。もっとも、訂正されていないので、政彦はかつてく狙われやすい状況だ。
高額賞金首たちの目線も痛いとあって、政彦は居心地が悪かった。
「ぬふう。我らも三好四天王の末席である最上に、最大限の協力をする所存」
「左様。決して、八百長野郎などとは思っておらぬゆえ、安心して頼るがいい」
「ふふふ、全て我らに委ねていいのよ。最上君」
つい最近まで、八百長に手を染めた政彦を裏切り者扱いしていた、自称《三好三天狗》あるいは《三好四天王》すらも、仲間顔してくる始末だった。
悠の工作の結果なので、本来なら、感謝すべきだろうし、喜びもするべきだろう。しかし、政彦は感謝も喜びも、素直に表明できなかった。
「なに、あいつのために、最後まで付き合わされるわけ? ないわー」
「いいじゃん。適当にリタイアすれば」
「でも、今回の計画、二年の赤羽が関わってるらしいよ。でっかい絵を描いてるみたい」
「えー、じゃあ、断れないじゃん」
「なんで、あんなシスコンのために」
「絵を描くってなんです? 赤羽先輩美術部だったんですか?」
「計画を建てるって意味で使うの。裏社会の業界用語よ」
「なんでそんな言葉を?」
「帰宅部員を三年生にもなってやっていると、色々あるのよ」
政彦に対する女子帰宅部員の反応は、極めて悪いものだった。
無理もない。政彦は、相当な妹好きと、思われている。悠は政彦を、妹思いなお兄ちゃんという設定で、帰宅部員の協力を得ようとしていた。同情を引き、八百長に手を染めたために受けている反感と軽侮を、軽減しようとした。
ところが、伝言ゲームの要領で、話をしている間に話が歪んでいた。
悠が政彦と妹の紗奈の話をしてから三日で、男子生徒の間で、紗奈は、不治の病に侵された薄幸の少女となり、政彦は、穢れを知らぬ純情可憐な乙女であるところの妹を守らんとする、騎士さながらに語られるようになっていた。
日本で古代から続く、妹信仰を持つ連中から、政彦はちょっとした英雄扱いとなっていた。
女子生徒の間では、妹は可哀そうだが、シスコンは気持ち悪いという評価だった。一応は計画を建てた悠の人望もあって、協力はしてくれるようだ。ただ、政彦への視線は、厳しいものになっていた。
「俺に対する女子の風当たり、ちょとした台風クラスなんだけど。これは、どうよ? 俺の社会的生命が、空の彼方に飛ばされそうだ」
「ごめんごめん。でも、結果オーライでしょ。男子どもは、変なやる気を出してきてるしさ。女子は元々、あたしと三島部長以外には、何人かしか戦力にならないわけだし。それに、女子も普段よりは、やる気はあるのよ。なんだかんだ言って、自分のためじゃない動機があるって、励みになるものよ」
「ま、逆境に立ち向かう俺カッコいい、の精神で行くから、別にいいけどな」
「あんた、メンタルが強いのか弱いのか、まるでわからないわね。ちょっと前まで、拗ねて、いじけてたのに。夜、寝る前に窓を開けていたら、部屋に入って来たカナブン並に、鬱陶しかったわね」
「帰宅道連盟のサイトで確認した情報によると、今日の帰宅戦は、体育会系の人数が少なくて、文化系が多いらしいんだ。だから、気が楽なんだ。それに、人は変わるんだ。男子に三日会わざれば、刮目して見よって、いうだろう? 赤羽とは、昨日も一昨日も会ったけどな」
「自分で自分にツッコミ入れるのね。それと、赤羽じゃなくて、悠でいいわよ。一応は戦友になるんだし」
悠は突然、名前を呼ぶ権利を、政彦に寄越してきた。
これで、照れながらでも言ってくれれば、可愛いと思えただろう。悠の表情は、感情豊かでなく、声色も、日常の挨拶と変わりないものだった。
なんだか、政彦のほうが不意打ちを食らったようで、照れ臭く、反射的に冗談で応じていた。
「何? デレ期? ついに来たか……感慨深いものがあるな」
「バーカ。前と違って、一緒に戦っても、楽しそうだからよ」
悠は、嫌味のない素直な笑みを浮かべている。自然な笑みに釣られ、政彦も笑った。照れは、完全に忘れていた。
「そいつは、どうもありがとう。認めてもらえて、嬉しいね」
政彦と悠が、笑いながら馬鹿話をしていると、突如、甲高いハウリング音が響いた。
周囲はざわつき、発言者の顔が見えもしないのに、スピーカーに注目が集まった。
「マイク・テス、マイク・テス。本日は晴天なり。本日は晴天なり。こんにちは、皆様に愛される新聞部長の、栗原美墨です。帰宅戦を前に、変更に関する、連絡事項がありますよって、お静かに~」
スピーカーから、古い漫画にしか出てこない台詞による、マイク・テストが行われた。校内で、発音のおかしな似非関西弁を話す唯一の人物、栗原美墨による放送だった。
「愛してねーぞ。首から下以外は」
「お前、貧乳趣味かよ。俺は首から下も要らねー」
「栗原―! お前の関西弁、発音おかしいぞ」
「しゃしゃるなー。控えめにしろー胸と同じくらいにー」
「ひっこめ、下っ端ー。生徒会長を出せー」
根性の悪い二年と三年の帰宅部員から、ヤジが飛ばされる。新聞部発行の帰宅新報で、帰宅部員の扱いは、一部の人気がある部員を除いて、あまりよくなかった。ために、古参の帰宅部員から、新聞部と美墨は、芸能人に対するパパラッチのように嫌われていた。
「黙れ。殺すぞ」
スピーカーから、美墨のお茶らけ関西弁ではなく、かなり真剣なトーンで、脅迫の言葉が流れた。
生徒たちは、虚を突かれた形となった。
一瞬で、校庭が静まり返る。その間に、美墨は一人、話し続けた。
「はい、小学生でも一人でできる帰宅もできない皆さんが静かになるまで、三十秒も掛かりましたな。貴重な時間を、浪費したわけやね。反省してくれなはれ」
美墨が、得意気な似非関西弁で校長っぽい説教をかます。次の瞬間、怒号が木霊した。
「殺すだあ? やれるもんなら、やってみろ」
「お前を、新聞のトップに載せてやろうか? 新聞部長さんよー」
「京都でうっかり喋って、京風に罵倒されちまえ。似非関西弁女が」
ただし、虚を突かれた恥ずかしさを誤魔化すためか、帰宅部員たちの張り上げる声の迫力は、やや乏しかった。
今度は、威圧感に欠けたヤジを気に止めず、美墨は用を済ませに懸かった。
「さて、変更の連絡事項ですけど、今回の帰宅戦は、生徒会長兼帰宅阻止有志同盟議長兼薙刀部長である、二年の北畑雪菜さんが参加されます。ちなみに、現在、商店街を抜けた先にある、遠過橋のそのまた先、三好駅南口駅前広場のロータリーに陣取っとります」
「おお!」と、どよめきが起きる。
雪菜は、薙刀部長の座を実力で手にした、段持ちの武道家だ。しかし、立場もあってか、帰宅戦には参加していなかった。
帰宅戦の実質的指導者である雪菜は、帰宅部員からすると、敵対組織の首領そのものだ。最大の敵が登板するとあって、帰宅部員の多くは、探し続けていた標的を前にしたヒットマンのような気分になっていた。
勢い、場は色めき立った。
事態の重みを知る、二年と三年を中心として、物騒な声が怒る。
「いい度胸だ。可愛がってやる」などと、好意的なものと「お嬢ちゃんは、家に帰って、歯も磨かずにクソして寝ろ」式の罵倒に割れていた。
「ちなみに、特別ルールとして、生徒会長を戦闘不能、或は捕縛した場合、帰宅部員は、全員帰宅を果たしたと見なされます。たとえ、捕縛されていたとしても、です」
「マジかよ!」
政彦は、破格のルール提示に、思わずガッツポーズをして叫んだ。周囲の帰宅部員も、同じような態度だった。
「腕が鳴るってのは、今の状態をいうんだな」
「今日を、生徒会長の保健室登校記念日にしてやるぜー」
「俺、偶然を装って、胸とか触っちゃおうかなー」
「あ、それ、普通に性犯罪だから。理事長が、県警と検察と弁護士で、どこかのキング・オブ・ポップ以上のドリーム・チーム作るな。お前と家族を追い込むために」
「シリアスに怖いじゃねえか。じゃあ、帰宅戦のルールと法、道徳、倫理の許す範囲にしとこう」
「それ、論理的に不可能だろ」
「俺は、不可能を可能にできると主張する男だ」
「主張だけかよ」
帰宅部員は皆、襲撃を前にしたバイキングのように得物を掲げたり、ハイタッチをしたりしている。騒ぐ仲間の姿を見て、政彦は腕を組んで笑った。
「新聞部長のお陰で、士気が高まりましたね。敵に塩を送ったわけだ」
「うむ。しかし、変更に関する連絡事項とやらが、これで終わりとは思えないな」
政彦ほど気楽にはなれないようで、風子は僅かに、額の皺を深くした。
「え~、それとですなあ。校舎を出た時点から、有志同盟員の球技系部活動による攻撃が開始されとったんですが、今回は校内からも攻撃が行われます。ああ、それと、帰宅戦開始は、午後四時ジャストの予定だったんやけど、人数が増えたんで、変更します。現在、午後三時五十五分ですが、今からに決しました」
風子の懸念は、美墨によって、即座に実現した。
美墨の発言内容を理解できなかった帰宅部員は、戸惑いながら互いに顔を見合わせた。
「えー、わしの発言内容がわからんようなんで、親切にも、もう一度、言わせてもらいます。もうすでに、帰宅戦は始まってます。校舎を見てください」
言われるままに、帰宅部員は皆、一斉に後方の校舎を見た。
一階の窓や扉から、次々と生徒たちが、帰宅阻止有志同盟に加盟する部活動の構成員たちが、現れた。
屋上には、早くも球技系部活動所属の有志同盟員が、各々ボールを持って、スタンバイしていた。
「どや、鈍い頭でも、理解できたやろ。もう、始まっとるんやで。ちなみに、ワシもこれから参戦や。後ろから失礼させてもらうで」
美墨の嘲笑がスタートとなり、三好高校の生徒たちは、敵味方に分かれ、一斉に走り出した。
2
「後方集団は相互に援護しながら、校庭の敵を迎撃。先頭集団は校門へ急げ。我々本隊が後に続く。臨機応変で行くぞ」
完全な奇襲を受けた形となったが、帰宅部員たちは風子の指示に従って、やや慌てつつ行動を開始する。一部は校庭に残り、残りは校門とへと急いだ。
「畜生、帰宅戦開始は、午後四時、本格的な戦いは校門を出てからじゃないのかよ。いっつもそうだったのに」
思わずボヤく政彦に、同じような声色で、悠が説明してくれた。
「確か、帰宅戦の開始時刻に、明確なルールはないわよ。開始時間のルールは、放課後に開始する、ってくらいね。金曜の授業は三時半に終わるでしょ、だから四時だったわけ、先週までは」
「いい加減だなあ」
ボヤキに怒りを乗せる政彦に、冷静な風子の声が続いた。
「別に構わん。どうせ、乱戦になったら、危険な攻撃を仕掛ける連中も少なくないからな。それに、武術家なら、いつ何時、戦いを挑まれても、即座に対応できて当然だ」
「俺は、部長みたいにストイックじゃないんですよ。武術家は無理そうなんで、健康的なだけのスポーツマンを目指します」
政彦たちが会話を楽しんでいる間に、先頭集団は校門を抜け、下り坂に入った。ほぼ同時に、校舎屋上などから、球技系部活動による、帰宅阻止攻撃が始まっていた。
アスファルトに叩きつけられるサッカー、バスケット、ラグビーなどに使われるボールが、多様な音を奏でている。高い音、鈍い音、切り裂くような音に、所々、苦痛に喘ぐ人の声が、挟まれていた。
帰宅戦における戦場音楽の、第一楽章だ。
「体育会系部活動にでも、入り直すといい。最上が入るなら、個人競技がいいだろう」
風子はアドバイスのついでに、後頭部に迫る軟式のボールを、ロクに見もせずトンファーで打ち返した。
「あ、ホームラン。部長は、俺に団体競技は不向きだと?」
「向いていると思っているの? 言っとくけど、あんたは、あんた自身が考えているよりも、更にウザい性格してるわよ」
政彦の不満気な口調に、悠が冷たい声でツッコミを入れる。冗談の要素は、安っぽい果実系清涼飲料水に含まれる、果汁のパーセンテージ並に少なかった。
「今のは、普通に傷ついたよ」
「どの部に入り直すにしろ、最上が帰宅部を、無事に退部できれば、の話だ。さて、そろそろだ。纏まってくるぞ」
他愛ない話で盛り下がる政彦に、風子が注意を促した。
周囲が急激に暗くなっていく。いつものように、政彦は頭を上げ、空を見た。
帰宅戦名物、帰宅阻止攻撃、通称ウエルカム・ボールだ。
統制された、各種ボールの群れが、政彦たちの頭上で鎌首を擡げていた。
良く調整されたボールの群れは、二秒もすれば、重量に引かれて、一斉に落ちてくる。
帰宅戦が始まったと、実感し、本気を出せるようになる瞬間だ。
政彦は、息を大きく吸い込み、全力で行う無酸素運動に備えた。
3
数を減らしながら、帰宅部員たちは坂を駆け下りていった。
政彦の耳元で、風を切ってサッカーボールが落ちる。破裂に近い音を立てて、地面を跳ね、先頭集団の後尾を占める帰宅部員の尻に当たった。
たまらず帰宅部員は、腹を突き出し、万歳をした姿勢で前に跳ぶ。顔面を強かに打ち、鼻血を出しながら前転、勢いのまま立ち上がる。数歩走ったところで、頭を左右に振りながら、脇道に倒れ込んだ。
同じような光景が、いくつも見受けられたが、助け起こす余裕はない。一刻も早くウエルカム・ボールの射程から逃れるべく、政彦たちは懸命に足を動かした。
先頭集団は、微弱な妨害をあっさり排除して、すでに商店街に突入していた。
「部長、予定が少し狂ったわけですけど、ルート変更はありますか?」
悠が、引き締まった長い足を忙しく動かし、風子の横に並んだ。
「ない。わたしが直卒する本隊一班は、先頭集団と合流後、商店街ルートを北上する。本隊二班は公園ルート、本隊三班は、東へ大回りして、工場地帯ルートに向かえ。後方集団は、商店街ルートの後詰だ。本計画の目的は、北畑雪菜を倒しての、帰宅戦完全勝利とする。本隊二班三班には、囮になってもらう。できるな」
普段、帰宅戦における戦いは、個人戦に近い。ただし、帰宅部は、有志同盟に比べて数に劣るため、俊足の先頭集団、戦闘力に優れる者の多い本隊、予備兵力や囮を担当する後方集団と、三隊に分け、大ざっぱな組織化はしていた。
今回の帰宅戦参加者は、先頭集団五十名、本隊百八十名、後方集団九十名からなっていた。
ただ、今日の本隊は、更に三つの班にわけられている。帰宅部の参加人数が増えたため、風子と悠だけでは管理しきれないからだ。
「任せておきな。公園みたいな起伏の激し場所は、俺のフィールドだ」
「オッケー、オール・オッケーよ。廃工場地帯に立てこもって、敵を引きつけておいてあげる。でも、おっとり構えてると、生徒会長を倒しちゃうかもよ。手柄を取られたくなければ、あんたたちも頑張んなさい」
風子の言葉を聞いて、二班と三班の長を任された二人の高額賞金首が、それぞれ同意を示した。
二班の班長は、三年生の元北派少林拳部長だ。練習中、実戦形式の試合を挑んできた副部長に重傷を負わせてしまい、退部させられた。
厳しい鍛錬により、中国の古武術特有の、悪い足場でも俊敏に動ける、強靭な体幹と優れたバランス感覚を養っている。自然を相手にしたパルクールのようなもので、高低差があり、遊具の多い公園ルートを進むには、打ってつけの人材だ。集団戦指揮の経験もあり、風子に譲るまでは、一時期だが帰宅部長を務めていた。
三班の班長は、帰宅部員には珍しく、二年生の女生徒だ。軍隊や警察の近接格闘術クローズ・クウォーター・コンバット、通称CQC習得を目指す、CQC部の元副部長。
生徒会長に取り入ろうとする部長の裏切により、部員は全て薙刀部に編入、廃部に追い込まれた。薙刀部への入部を断り、帰宅部へ。対人関係の脇は甘いものの、下につけられた班員の面倒見はよい。姉御肌のさっぱりとした女性だった。
どちらの班長も、気弱だがキレやすくなっているオタクか。腐ったチンピラまがいの多い帰宅部員の中では、人望があった。政彦は走りながら、風子の人事に関心しつつ、疑問を呈した。
「部長。丘ルートは、いいんですか? 今回は人数も多いですし、本隊から抽出して、もう一班くらいは、作れるんじゃ」
丘ルートは、起伏や林で休憩でき、球技系部活動の参加人数に余裕がある際、帰宅阻止攻撃の拠点となる場所だった。
ルート名の元になった丘は、山に近い高さで、公園ルートと工場ルートが見渡せる位置にある。戦闘の拠点としても、情報収集の場としても有用で、できれば、押さえておきたい場所のはずだ。
「あんたみたいな阿呆は、余計な考えを持たないの。全部計算ずくだから、安心しなさい」
政彦の疑問には、風子に代わって、悠が答える。そういえば、悠が計画を立てたんだったっけ。なら、詳しく聞いても無駄だろう。どうせ、答えてくれないだろう。
「別に、意地悪してるんじゃないわよ。とっておきの計画だから、事前に種明かしはしたくないだけ。任せろって言ってたでしょう?」
そういえば、仲間として認めてくれたんだっけか。じゃあ、こっちも信じて、とっておきの計画とやらを、楽しみにさせてもらおう。
政彦は早々に追及を止め、とりあえず悠について行く。もはや見慣れた、商店街入口の「この門を潜る者、全ての希望を捨てよ」と書かれたゲートが、政彦の目に入った。
帰宅戦の度に目にしてきたが、今日は、なんだか感慨深いものがあった。
政彦がノスタルジックな気分で、フザケタ文句の書かれたゲートを眺めていると、ゲートの左右から、多数の有志同盟員が現れた。
敵は、相当数を伏せていたようだ。
先頭集団をあっさり通したわけは、本隊と分断させるためだろう。敵が隊列を作り始めると同時に、風子の凛とした声が響いた。
「よし、ここらでいいだろう。我ら一班百名は、このまま商店街ルートに突入する。二班、三班は、本隊から分離、それぞれの担当ルートに向かえ。各班死力を尽くせ、今日がお前たちの帰宅部活動、最後の日だ!」
風子の檄に、多数の野太い声と、少数の高い声が響く。いつの間に、校舎からの帰宅阻止砲撃は、ほぼやんでいた。
いよいよ、肉弾戦だ。
先頭を駆ける風子に置いて行かれないよう、政彦は二本の竹刀を肩に担いで追う。気分が高揚し、自然と古代の戦士がするようなウォー・クライを上げていた。
「ラララララーイ」
帰宅戦の醍醐味を味わいつくそう。接敵するや否や、政彦は、風子のトンファーと同時に、竹刀を繰り出した。
手応えあり。この感触は、今度こそ間違いない。
3
「おりゃあ!」
鼻の下に薄い髭を生やした釣り目の男が、気合と共に政彦に襲いかかってきた。
カーボン製の棒が、政彦の左側頭部に振り下ろされる。本来は木製の、西洋武術部員が操るクウォーター・スタッフだ。
政彦は咄嗟に斜め後ろへ下がり、左手の長い竹刀でクウォーター・スタッフを右へ弾いた。ほぼ同時に、右手の短い竹刀で手首を打つ。続けて、蹲った西洋武術部員の顎端を蹴り揚げ、昏倒させた。
「お前らなんか、部長に比べりゃ、案山子みたいなもんだ」
政彦は「案山子は言い過ぎかな? 避けれたけど、割とギリギリだったし」と、やや反省しつつ強さをアピールする。得意気に見えるであろう政彦の様子に、誰が最も動揺を示しているか、観察する。目を高速で泳がせていたり、涙目になっていたりする敵へ優先的に向かっていった。
政彦は、棒立ちになった敵に竹刀を振るって、打倒していった。
そこかしこで、同じような激しい格闘戦が行われている。倒されているのは、有志同盟員ばかりで、帰宅部員の損害は少なかった。
精鋭が多いから、という理由もある。加えて、体力に自信のない男子や、女子の帰宅部員も、三人一組で動き、棒を敵の足に絡ませるなどして、戦いに貢献していた。
また、敵は文化系部活動所属の者が多く、西洋武術部員の足を引っ張っていた。
政彦たちは、十分もせずに敵の大半を蹴散らし、商店街ゲート前は、帰宅部員によって占領された。
「あらかた片付いたな。集結しろ。先頭集団の後を追うぞ」
風子が号令を掛ける。相手が弱く、時間も短かったため、汗一つ掻いていない。政彦などは、既に額と脇を汗で湿らせている。戦闘要員が持つ、身につけても邪魔になりにくい、二百ミリ・リットルの小型ペットボトルを取り出し、数十ミリ・リットルだけ水分補給をしていた。
訓練の甲斐あって、まだ体力に余裕はある。一戦した後も平素と変わらない様子の風子に、政彦を改めて舌を巻いた。
「おい皆、誰かくるぞ。一人だ」
商店街入口で、警戒に当たっていた帰宅部員が、声を張り上げた。
どうしたのかと、皆の注目が集まる。先頭集団所属の帰宅部員だった。
全身が汗と埃に塗れ、口の端と鼻から、涎と洟水を垂らしている。良く見れば、額から薄く血が流れ、目の下にはクマのような痣が浮かんでいた。
「しっかりしろ、どうしたんだ?」
必死の形相に軽く引き気味になりながら、警戒に当たっていた帰宅部員が、ミネラルウォーターのペットボトルを渡す。戦闘要員の持つ小型のものではなく、戦闘力の低いために、物資輸送を任された帰宅部員のリュックサックから取り出した、五百ミリ・リットルのタイプだ。
先頭集団から戻ってきた、頬のこけた帰宅部員は、一気に五百ミリ・リットルの水を飲み干した。腹一杯に飲むと、後で響くのにと、心配する政彦を他所に、頬のこけた帰宅部員は、荒い息遣いのまま、話し始めた。
「今日の商店街ルート、ヤバいぞ。先頭集団は、もう半分やられた」
「先頭集団がこんな短期間に、半分? 今日は、賞金首たちも多数、参加しているし、敵は体育会系の参加数が、普段より少ないはずなのに……いったい何があったの?」
悠が、頬のこけた帰宅部員に詰め寄った。余裕のある悠には珍しい、感情的すぎる行動だが、政彦も、悠が詰め寄らなければ、襟を掴んで問い質しているところだ。
真っ先に戦いに突入する戦闘集団は、少数精鋭だ。頬のこけた帰宅部員も、元は伝統派空手部出身で、細身だが筋肉質、技も並の相手なら、苦もなくKOできる実力があった。
「それが、よくわからないんだ。集団長の指示が、いくつも同時に出されたり、急に、死角から攻撃を受けたりして、集団長の指示も変だったし」
「先頭集団長は、確か、前田だったはずよね。虫みたいな目をした、身も心も気持ち悪い男だけど、戦闘に関しては、格闘も指揮も一級のはずよ」
「色んな場所から、集団長の声がするんだ。進めとか下がれとか、道を開けろとか塞げとか、矛盾した指示がさ。それで混乱したところに、攻撃を受けたんだ。守りに入ると、見えない敵の攻撃も加わって、いつの間にか半減してた。味方は散々だ。今は、商店街南部の中間で、足止めを食らってる。助けてくれ」
「無論だ。後方集団が来る前に、突破しておきたいからな。休憩する時間がないと、本陣での戦いで、息切れする羽目になる。総員、わたしに続け、行くぞ」
「ちょ、待ってくださいよ。心の準備があるんですから」
皆が不安そうに首を傾げる中、風子だけが、躊躇なく商店街に入って行く。政彦は、古い映画の生娘のような言葉で引き止めつつ、後を追った。
4
「これは、酷いな」
現場に着くと、リタイアして街路樹やベンチに寄り掛かる、多数の帰宅部員が見えた。道中央のベンチや、植え込みにある桜の木周辺には、ボロ切れのようになった先頭集団の帰宅部員たちが寄り添い合っていた。
先頭集団のいる先には、第いくつかは知らないが、歴史研究部所属の有志同盟員たちの隊列が待ち構えている。丸く大きな盾を並べ、槍の代わりに竹刀の鍔をとって長くしたような棒を装備した、重装歩兵によるファランクスだ。
「部長、こっちっすよ」。
ボロ切れの一人が、耳障りな声で、風子に助けを求めている。良く見れば、両手にラケットを持った通称《前陣速攻のカマキリ》と呼ばれる賞金首、前田雄一だ。
前田は、目と首を忙しく動かしながら、しきりにラケットを上下させて、風子に早くくるよう、催促をしている。呼ばれるまでもなく、風子は前田の元へ急行した。
政彦と悠も、すぐに風子の後を追った。
前田の前に着くと同時に、風子が早口で質問――というより、被告を尋問する刑事のような態度で――した。
「なにがあった。詳しく話せ」
「なんもわかんないです。そこら中から、俺の声が聞こえてきて、皆に勝手な指示を出すんす」
「俺の声って? 前田先輩の声が?」
「そうそう。まるで、俺っちが何人もいるみたいなんよ」
顔に、運動のためだけではない汗を掻きながら、前田は恐怖心を吐露した。
尋常でない様子に、政彦が息をのんだ瞬間、四方八方から、風子の声が響いた。
「このままでは埒が明かん。隊列を組んで強行突破だ」
「後方集団と合流するまで、待機だ」
「ここの突破は無理そうだ。迂回して、公園ルートに出よう」
「他のルートに向かった者たちを集める。伝令を出せ」
矛盾する指示が四つ、同時に出された。
先頭集団の生き残りと、本隊の帰宅部員は、指示をどう解釈したものかわからず、右往左往している。政彦も、目を僅かに見開く風子の顔と、他の帰宅部員の行動を、左右に動く首で交互に確認していた。
「いったい何が起こってるんです? どうすれば……」
政彦は、混乱する頭を落ち着けようと、風子の見解を聞こうとした。
「落ち着け、最上。何が起きているのかは、わたしに聞かれても知らんとしか言いようがない。だが、どうすればと聞かれれば、決まっている。強行突破だ」
「どうやって、こんな至近距離でないと、部長の指示は上書きされるんですよ。統制がとれないんじゃ、数で圧倒されるだけですよ」
政彦は、至近距離と口にしてから、風子の大きな胸が上下する様子と、汗の匂いに気を逸らされた。
こんな時にと思うが、そこは健全な男子なので、仕方がない。政彦は、二つの球体がする上下運動と匂いを堪能しつつ、事態の打開を考えた。
とはいえ、簡単に思いつくものでもない。だから、風子との距離は保ったままだ。
「三島部長、ちょっと早いですけど、これ、使います。強行突破するにしても、敵の仕込んだネタを見破る前に、新手を繰り出してこられると、ヤバいんで」
政彦が、触らずに風子を堪能していると、悠が花火の筒を眼前に差し出してきた。悠の冷たい声と目、わざわざ、政彦と風子の間に筒を差し出したところから考えて、色々と察しているようだ。
「生徒会長の本陣と接触するまで、とっておきたかったが……苦戦を知られれば、宝の持ち腐れになりかねん。止むをえんか」
珍しく不本意そうに、悠は眉を寄せた。
「悠は、花火で何しようっていうんだ? 火系統の武器使用は、退学もありうるぞ」
「うるさいわね。分かってるわよ。これも計画のうちなの。余計な質問は要らないから、あんたは、三島部長の胸を観察する作業にでも戻れば?」
「ば、馬鹿、おおお前。見てないし。全然だし。匂いは嗅いだけど」
誤魔化そうと、思いついた言葉をそのまま口に出した。
政彦は「わたしがやりましたと」告白した、重要参考人のような気分になった。
胸を押さえて、顔を赤くする風子の様子は眼福だった。しかし、怒りの視線が、至近距離から浴びせられると、後々大変そうだと、目を逸らすしかなかった。
しかし、気付くのが遅い。政彦は、武術に関しては、鉄壁の防御を誇る風子の、性的な無防備さが心配になった。
不動心こそ武術家の精神、今までお世話になった分、協力せねば。政彦は都合のよい決意をした、
俺って奴は、つくづく、自分は正直な男なんだなと、政彦は妙な高揚を覚えていた。
「制裁は後回しにするとして。いい、こいつは、殺伐とした戦場に味方を召喚する魔法の道具よ。ま、黙って、胸以外も見てなさい」
悠は、最後に余計な一言を加えて、花火を地面に設置すると、導火線に火をつけた。
数秒後、筒から連続八回に亘って花火が上がり、夕暮れ寸前の空に、小さな火花と白い煙を舞わせた。
なにかの合図のようだが、しばらく待っても、なにも起きない。その間にも、ファランクスが距離を詰めてきていて、阻止しようとする先頭集団の帰宅部員を、圧倒的な防御力で弾き返していた。
政彦は、狭い部屋の中で迫ってくる壁を見る、古い映画の主人公のような気分になった。
「どうするんです。奴ら、もうすぐ来ますよ」
「我々の帰る家は、前にしかない。強行突破あるのみだ」
窮地にあっても、風子に迷いは一切なかった。
「でも、部長の命令、周りから同じ声がして、打ち消されるじゃないですか」
「まずは私が、一人でファランクスに突っ込む。その姿で、一目瞭然だろう?」
「無茶ですよ。あそこまでガッチリ固めた隊列を、一人で突破するなんて」
「他に方法は、ない。なら、するだけだ。自信はあるしな」
思い切りのいい風子の言葉を「無茶だ」と「もっともだ」二つ感想を持ちながら、政彦はどうしたものかと考える。
なにか手がかりはないかと辺りを見渡せば、いつもと変わりない、商店街があるだけだった。
右往左往する帰宅部員と、なんとか纏めようとする悠や前田の他には、見物人のいるオープン・カフェ、戦況を伝えるモニター、被害を恐れて、シャッターの閉まった店、まだ明りのともっていない街灯、各種照明、不審なところは、一つもない。だが、どこか違和感があった。
街灯は消えているし、夏前とあって、夕方でもまだまだ明るい。それに、商店街入口付近の店には、割れると危ないので、照明はあまりなかったはずだ。
照明? そうか!
政彦は、クイズ番組で答えを見つけた際に、脳内で起こる体験をしていた。同時に叫ぶ・
「照明だ。照明を割れ!」
シャッターと壁が、僅かに波打った。間違いないと確信し、路地に倒れている帰宅部員のものだろう、傍らに落ちているブラック・ジャックを拾い、手近な照明に投げつけた。
ガラスが砕ける音がした。政彦の予想が間違っていたら、店から数万円は罰金を取られそうだ。
政彦は祈るような気持ちで、状況の推移を見守った。
「なんだ、あれ?」「変態か?」
同時に、帰宅部員たちから、驚きの声が上がる。なにもないと思われていたシャッター前や、なんの変哲もない壁に、灰色と乳白色の全身タイツを着た男たちが、浮かび上がった。
「そうか、こいつら、トリックアート部だわ。照明で、商店街の風景に溶け込んでたのよ」
悠が「なぜ気が付かなかったのか」と、悔しさを滲ませて叫び、競技用薙刀を振った。
「しまった、見破られた」
「脳ミソ筋肉の体育会系出身者の癖に!」
驚くほど多くの全身タイツたちが、罵り声を上げながら路地に消えていった。
帰宅戦範囲外の西はともかくとして、東に行かれると、公園ルートの敵と合流されてしまう。政彦は風子の顔を伺った。
「雑魚にかまうな。自分のフィールドから離れた奴らに、戦闘力はない。これで突破に専念できるな」
「でも、部長、声は?」
「それなら、もうわかったぜ。俺のクラスメートで、物真似部の奴が、全身タイツの中にいた。クソ、じぇんじぇん、気付かんかった。取り逃がすし、散々だ」
政彦の問いに、風子ではなく、前田が歯軋りをしながら答えてくれた。
「よし、これで、邪魔は入らないな。総員集結、強行突破だ」
風子の、大きくはなくとも、良く通る声が響く。動揺するファランクスに、前田を中心とする帰宅部員が、襲い掛かっていった。
僅かに崩れた歩調と隊列の隙を突き、前田はファランクス内部に突入していく。卓球で鍛えた振りと蟷螂拳の技でラケットを振るい、ファランクスの中を、水死体に潜り込んだウツボのように食い込んでいった。
政彦ら他の帰宅部員も後に続き、ものの数分で、大勢は決した。
「ネタが分かれば、楽勝だな」
「いつでもこいや、いかさま野郎ども。歓迎してやるぜ」
「女子部員か美少年なら、より特別にな」
気勢を上げる帰宅部員の中、悠は一人、モニターを凝視して、焦燥を露わにしていた。
「おかしいわね。何で動きがないのよ」
政彦は、悠の焦りに気が付いていたが、さほど気に留めなかった。なにせ、勝っているのだ。
商店街前半の突破は確実となっていた。
中立地帯を超えてからは、もう半分を走破して、住宅街を抜ければ、駅前には生徒会長がいる。打ち取れば万事解決だ。
それにしても、悠はなぜ、あんなに焦っているのだろう?




