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短編・エッセイらしきもの

わかるまで──

作者: 本谷文途

想いは伝わるか──?

 ぶっちゃけ、恋人を作るのは簡単だ。

 こういうことを言うと、一種の人から反感を買うから、口に出しては言わない。

 そして、以下が俺に当てはまる事項だ。


 一、容姿端麗(だが、髪は茶髪。左耳に銀のピアス有り)

 二、頭脳明晰

 三、スポーツ全般それなり


 以上の事柄が、俺を占める三つ。

 これだけで女子が言い寄って来るのは、ある意味得だ。チャラそうに見えて、頭は良い……ギャップみたいな──?

 これで簡単に釣られる女子は、個人的にビッチだと思っている。いや、言い寄ってきて、ほいほい誰にでも股を開く女子のことを個人的にはそう思っている。

 そんなことはさておき、俺には好きな人がいる。

 もちろん、上のような女子ではない。むしろ、俺みたいな人種をあまり好まない女子である──。


「何考え込んでんの?」


 昼休み。机に伏せていた俺は、友人の城戸(きど)に訊かれて答えた。

 

「うん? んー、彼女にしたいなぁと……」 

宮内(みやうち)?」

「そう──」


 黒髪のセミロングで、真面目そうで、でもくそ真面目って程じゃなくて……、笑顔が可愛い。言葉遣いもぶりっこという感じじゃない。体は……


「良いよなぁ、出るとこ出てて……こう──」

「それだから駄目なんだろ」


 と城戸は引いた目で俺を見る。

 城戸はムッツリなので、俺みたいに口にはしない。まあ、俺はオープンなスケベですけど──。

 ちなみに、城戸には彼女がいる。


「……彼女とやらしいことしまくってるくせに」

「俺は合意の上でだ」

「で、主導権はお前なんだろ? ケッ、リア充爆発しろ」

「お前だってすぐリア充になれるだろ」

「なれたらとっくになってるわ──」


 と俺は城戸を軽く睨みつける。

 すると城戸は、良いこと思いついたと言うように提案した。


仲村(なかむら)さ、本気出してないだけだろ? なら、期限付きなら本気でるんじゃないの?」

「期限付き?」

「そう。それなら落とせるだろ」


 期限付き……、うむ。


「悪くない」

「だろ? じゃあ、来週の月曜から金曜までの、五日間。三日じゃきついだろ?」

「押し倒すとなると、やっぱりな……」

「誰がそこまでやれと言った──落とすまでだ。落とすまで! 押し倒したりなんかしたら、お前……宮内から一生冷たい目で見られるぞ」

「……はは──」


 前に呼び止めるため、軽い冗談のつもりで背中をツーっと撫でたら、凄い剣幕で睨まれた。

 あの時ほど、次どうやって声かけよう……と迷ったことはない。


「ま、俺の彼女宮内の友だちだから、何か知りたいことあったら何でも訊けよ」

「スリーサイズ」

「バカか」


 即答だった。「ズ」と言い終える前にはもう言われた。


「……好きな飲み物」

「よし、わかったらラインする」


 城戸はニッと笑って、スマホをポケットから取り出した──。


         *

 

 そして月曜。遂に俺の挑戦が幕を開けた──。



 昼休み、宮内のクラスに向かう。宮内とはクラスが離れている。同じクラスだったら、ずっと見ていられたんだけど──


「ちわー」

「あ、仲村だー。また会いに来たの?」


 と城戸の彼女──笹野(ささの)が俺を見て言った。

 というのも、五日間の挑戦を始める前から通っているので、笹野はもう俺が来るのを気にしないようになっている。


「もちろん──それと今日は、宮内に言っておくことがあるんだわ」

「私に……?」


 と笹野と向かい合ってサンドイッチを食べていた宮内が、俺の方を向く。

 可愛いなぁ、こいつ……と思いながら、俺は「そう」と普通の女子なら胸キュン間違いなしの笑顔で宮内を見た。


「今日から金曜まで。俺、本気で宮内を落とすから」

「……へ?」

「キャー、宣戦布告? 宮ちゃんファイト!」


 ぽかんとする宮内に、笹野はキャイキャイと騒ぐ。


「私を……?」

「そう。マジで──」


 じっと見つめると、宮内の顔は見る見るうちに赤くなって、ふいっと背けられた。

 うーん……絶対俺のこと好きだと思うんだけど……。


「だから、覚悟しとけよ──?」


 ポンと頭を軽く叩いて、俺は教室を出た。

 出る途中、後ろから「宮ちゃん顔真っ赤〜」「笹野っちうるさい──!」という笹野の声が聞こえたので、手応えありだと思う──。



 教室に戻って城戸に報告すると、城戸は「それだけか?」と言った。


「他に何が?」

「宣戦布告しただけかよ」

「悪いかよ」

「いや? 仲村のタイミングでいんじゃね?」

「そうだろ? これでもっと意識してくれれば、余裕なんだけど……」


 でも、思い通りにならないのが宮内なんだよな──。



 一日目は、それ以降宮内と接することなく終わった。


         *


 火曜。挑戦二日目。昨日と変わらず快晴。

 授業休み。もちろん、宮内に会いに行く。途中女子に声かけられたけどそれを軽くスルーして。だって、十分しかないし──


「宮内ー」


 後ろのドアから声をかける。

 後ろからの方が、宮内に近いのだ。


「何ですか……?」


 そろそろと宮内が側まできて、こそこそと喋る。


「仲村くん、女子から人気なんだから、勘違いされたら嫌でしょう?」

「いや、むしろ良いけど?」


 宮内は「は?」という顔で俺を見る。ちょっとだけ眉間にシワが寄った。


「昨日言ったこと、覚えてないの?」

「昨日……?」


 宮内はアゴに手を当てて考える。それから思い出したのか、ぽぽぽと顔が少し赤く染まった。


「あれ……、本気なんですか?」

「本気って言ったじゃん」

「いつもの冗談ではなく?」

「いつもも冗談じゃないんだけど……」


 取り合ってもらえてないんだなぁ、これが。

 苦笑いする俺に、宮内はいつもの真顔で告げた。


「私、落ちませんよ?」

「え、マジで? 顔真っ赤にしたりしてるのに?」

「それは緊張で……っ、幼少の時からなんで──」


 と宮内は言ったそばから顔を赤く染めた。

 なんと……緊張からの赤面だったのか……。


「……じゃあ、恋の方で緊張してもらえるよう頑張るわ」

「え……?」


 戸惑った顔をした宮内の頬に、そっと手を伸ばす。

 触れた頬は(なめ)らかで、柔らかかった。ずっと触っていたい──。


「何──?!」


 ズササッと宮内は数メートル後ろに下がった。下がり過ぎじゃね……? まあ、仕方ないか……。


「……ドキドキした?」

「っ、バクバクですけど!?」

「それが恋の緊張だから。覚えといて──」


 時計を見るとあと二分しかなかったので、俺は「またね」と笑って戻った。

 微かに、宮内が「これが──?」と言っていたのが聞こえて、少し笑えた。



 その日は、ちらちらと宮内と廊下で会った。

 宮内は俺と目が合うと、ふいっと顔を逸らされた。意識しているなら、成功だ。

   

         *


 水曜。挑戦三日目。曇り。

 放課後になってしまった……。

 今日はまだ宮内と会っていない。毎回の授業休みに行っても、毎回いないのだ。

 笹野に訊くと「トイレに行ってる」、「先生に呼ばれた」、「移動教室でもう行っちゃった」などなど……。これはもしや……いや、もしかしなくても──


「避けられてる……?」

「だろうよ──」


 放課後、帰る準備をしていた城戸に今日の出来事を話すと、迷うことなく言い切られた。


「何か心当たりないのか?」

「え? ありすぎてわかんねーわ──毎回授業休みに会いに行って、昼休みも行って、廊下で見掛けたら少し後つけてみたり」

「ストーカーじゃねえか」

「いやいや、そこまで……。あ、昨日頬触ったわ──」


 城戸を見ると、何も言わなかった。ただ、「うわー、コイツやりやがった……」と言いたげな目で俺を見ている。


「確実にそれだろ……」

「あ、やっぱ?」

「もう終わったな、金曜に届く前に──。お前の挑戦は幕を閉じた」

「勝手に終わらせんなよ。大丈夫だ。水曜の放課後は、図書室に行ってるはずだから」

「…………もう何も言わん。俺は知らない──じゃ、バイトだから」


 城戸はリュックを肩に掛けると、「じゃ」と片手をひらりと振り、教室を出て行った。

 俺も「じゃな」と言って、リュックを背負った。


「さて……図書室行くか──」


 宮内に会うため、俺は図書室に向かって歩き出した。



 歩き出してから数分、図書室に行く手間が(はぶ)けた。ちょうど宮内が本を三冊胸に抱えて、こちらに向かってきているところだった。


「宮内ー」

「……──」


 宮内は俺に気づくと、クルッと百八十度向きを変えて、スタスタと歩き出した。

 え……、ガチで避けられてる──?


「ちょっ……待って」


 とりあえず、会えたのに話さないという事にはしたくないので、後を追う。

 宮内は意外と速く、俺は走り出す。そして宮内も走りだした。速くね──?!


「っ……、宮内──!」


 追いついて、宮内の腕を掴む。

 宮内は困惑した顔で俺を見た。


「ぁ……ごめ、ん……」


 思わず謝って、手を離す。

 宮内はぎゅっと本を胸に抱え、少し下を見ている。

 とりあえず、このままというのも気まずいので、俺は言った。


「あの、今日は何で避けて……? いや、確かに俺しつこいし、うん……わかってんだけどさ──」


 宮内は少し顔を上げてくれた。

 俺はそのまま、話し続ける。


「昨日の、怒った? 触ったの──いや、まあ当然だよな! 女子だし、俺男だし、彼氏でもねえし……。でも、……避けるのは、勘弁してくんね……?」


 正直、辛い──。好きな人から避けられるのは……。

 宮内は、やっと俺を見て口を開いた。


「……ごめんなさい。ちょっと、その……動揺?してまして……昨日のもそうだけど──」


 もごもごと口ごもりながらも、宮内は言う。


「え、と……男子から、そういうのされたことないんで……ちょっと、ビックリして──でも、仲村くんにはそれが普通なんだろうけど……、うん……」


 と宮内はまた下を向いた。

 俺は、やっと宮内からどのくらい勘違いされているのかを知った。

 『女子に触るのが普通』

 ……まあ、茶髪だし? 染めてるし? 片耳ピアス付けてるし? ……でも──


「……俺から女子に触ったことはないよ」

「え……でも──」

「俺、好きな人にしか触らないから」


 自分で言っときながら、少し恥ずかしい。顔が少し熱い……。

 宮内を見ると、宮内も少し顔が赤くなっていた。


「はは……緊張?」

「……、わかんないです……」

「やっぱり……え?」


 てっきり、いつもみたいに「そうです……!」という返事かと思っていたら、わからない発言……。


「宮──」

「あの……! すいません──私、もう行きます……」


 宮内はスッと俺の横を通り、走って行ってしまった。


「…………」


 え、え? なに? 俺がドキドキしてんだけど──?!

 しばらく俺は、そこから動けなかった……。



 三日目、もしかしたら……と期待している自分がいて……。残り二日が勝負どころだ。


         *


 木曜。挑戦四日目。また曇り。明日は雨かもしれないとニュースで聞いた。

 

「何か良い事でもあったのか?」

 

 授業休み、宮内のクラスに行って戻ってきた時、城戸が次の授業の準備をしながら訊いてきた。

 俺は笑顔で頷いて見せる。


「ああ! ありまくりだ!」

「そりゃようござんす」

「まあ聞きなさいよ──」


 どうでも良さそうな城戸に、俺は今までのことを話した。

 昨日のことと、さっき好きな飲み(ミルクティー)を渡したら、嬉しそうに笑った宮内の素晴らしさと、笹野の城戸に対する不満。


「最後のいらないだろ──てか直接俺に言えよ」

「まあまあ──」


 と機嫌を損ねた城戸の機嫌を直しながら、俺は笑う。

 なんだか、いけそうな気がする。

 さっきもちょっと、いつもより感じも良かった気もする。


「……で、上手くいきそうなの?」

「おお! これは絶対いけるね!」

「自信満々だな」

「フフン──」


 俺は腰に手を当てて、鼻で笑った。

 それくらい自信があるのだ。



 そして放課後。俺は下駄箱で宮内を待っていた。


「……ふぁ〜あ──」


 眠い。週末に近づくと、欠伸がよく出る……。


「あれ? 仲村何してんの?」

「お、笹野じゃん。宮内待ってんの」

「今日宮ちゃん図書委員だから、遅いと思うよ」

「マジか──」


 それは知らなかった……。本が好きなのは知ってたけど……。


「うん。じゃ、私これからデートだから! バイバーイ」

「帰れ帰れ」


 キャッキャとはしゃぐ笹野を手で払い、どうしようか考える。


「……待つか──」


 笹野が出て行ったのを目で確認して、呟く。

 とりあえず、壁にもたれてぼんやり待つことにした。


「……座って待つか──遅いらしいし」


 笹野の言葉を思い出し、壁を背に座り込む。

 目を閉じると睡魔がやってきて……、負けた──。



 ふと気づいて目を開けると、少し離れた所から宮内が歩いてきていた。

 俺はパッと立ち上がり、髪を軽く整えたりズボンを叩いて、「今自分も来ましたよ〜」という感じを出す。


「ぁ、どうも……」

「ども──委員会お疲れ」

「……ありがとう?」


 宮内が不思議そうに首を傾げたので、俺は説明する。勝手に待たれてたって知ったら、引かれるかもしれないし──


「さっきたまたま笹野に会って、宮内が委員会だって聞いたから」

「あぁ、なるほど──仲村くんは、誰か待って?」

「え? あ、いや……まぁ、あえて言うなら、宮内?」


 宮内はぽっと赤くなった。

 ……可愛いなぁ、おい──。


「ま、そんなことは置いといて……。途中まで一緒に帰ろうぜ」

「…………」

「宮内……?」

「ちょっと、待っててください──」


 宮内は少し考えるような仕草をしてから、タタタと駆け出した。

 これは……何だ? 待っててくださいと言っときながら帰っちゃうパターンか? いや、宮内に限って……。


「……え、もしかして今の、ついて行った方がよかったパターンか?」


 …………。遅い、気づくのが遅かった──と独り頭を押さえていると、心配そうな声が聞こえてきた。


「あの、大丈夫……?」


 前を見ると、宮内がジュースを持って居た。


「大丈夫大丈夫!」

「そうですか……。はい、これ──」

「あ、ありがとう……?」


 オレンジジュースを受け取りながら、俺は首を傾げる。

 

「その、なんか、待たせてたみたいなんで……」

「あぁ……って、べつに──!」


 と宮内を見ると、どことなく笑っているような気がして、俺は言っていた。


「……一生大切にするわ」

「いや、飲んで──?」


 と宮内から速攻ツッコミが返って来たのが、ちょっと面白かった。


「じゃあ、家帰ったら飲む」

「はい」


 くすりと宮内が笑った。

 二人きりで笑ってくれたのは、初めてなんじゃね──?


「……ま、帰りますか」

「そうですね──」


 と俺は自然に、宮内と並んで歩き出すことに成功した。



 宮内と帰り道を歩いていて、良い雰囲気になってきたと思い、俺は話をふった。


「あのさ……。俺のこと、好きになったりしない? 俺は好きなんだけど」

「…………」


 宮内を見ると、考えていた。眉間に軽くシワを寄せて……。

 そしてそのまま別れ道の所まで来てしまい、宮内の答えを聞けずに別れた──。



 四日目が終わった。ジュースは冷蔵庫にちゃんと入れた。明日が最終日だ──。


         *


 金曜。挑戦五日目──最終日だ。今日は天気予報通り、雨。

 放課後になった今も、やむ気配はない──。


「……はぁ──」

「どうした?」

「何か、ダメな気がする……」

「へえ、珍しい」

「いやぁ……」


 昨日の帰りのあの顔を見たら、まだまだだよな──


「…………無理っぽい」

「いつになく弱気だな」

「だってねぇ、まだ気持ちがこっちに向いてないし……」

「はは、わかってんじゃん」

「わかりたくないけどな──」


 今日も授業休みや昼休みに会いに行った。

 宮内はいつも通りで……敬語だし、顔赤くするし……わからない。

 宮内はあの後、答えが出たのか……?


「仲村、俺帰るわ」

「は?」

「笹野が待ってっから──」

「……はいはい、リア充さんは帰れ──」


 ヒラヒラと手を振り、城戸を教室から送り出す。


「……雨だし──なんか、滅入るなぁ」


 やみそうにない雨を少し眺めてから、俺も教室を後にした。



 下駄箱に行くと、宮内がうろうろしていた。


「……どうした?」

「あ、傘が……なくなりました」

「マジか──」


 確かに、傘立てには俺の傘以外一本もなかった。

 

「借りパクか──」

「かもしれない……」


 しょんぼりする宮内に、俺は提案する。


「じゃあ、俺の貸すよ」

「いいんですか……?」

「もち──」


 傘立てから傘を出し、宮内に手渡す。


「ありがとう」

「いやいや──気をつけてな」

「はい」


 傘をさして歩いていく宮内を見送ってから、どうしようか考える。

 実は、折り畳みを持っているわけでもなく……。


「……相合い傘とか、出来るわけねーし──」


 大体、宮内がしてくれるわけないだろうし──


「あ──やっぱり……」

「え──?」


 玄関の出入口で立っていたら、宮内が戻ってきた。


「折り畳み、無いですよね」

「あー、はは……──」


 少し困ったように笑うと、宮内は小さく溜息を吐いて言った。


「そうならそうと、さっき言ってもらわないと……。これ、返します」

「え──」

「じゃあ……」


 雨の中へ行こうとする宮内の手首を掴み、引きとめる。

 

「あの、さ──」


 手を離すと、宮内はそっと振り向いた。


「今戻って来たのって、心配してくれたってことだよな?」

「……ちょっと気になったんで」

「あー、もう……ほんと──抱きしめていい?」


 ズササッと宮内が数十センチ距離を取ったので、冗談冗談と俺は手を振る。


「とりあえずさ、嫌じゃなきゃ入ってって──宮内を濡らすわけにはいかないし」


 と俺が傘を広げて言うと、宮内は遠慮がちに「じゃあ……」と隣に来た。

 宮内と相合い傘が出来るとは思ってなかったので、かなり嬉しい──。


「じゃあ……、出発」

「……はい──」


 並んで歩き出す。

 普段よりも距離が近く、たまに腕が擦れる。

 あぁ……何という幸せ──、たまには雨も良いなぁとこういう時だけ思う。


「宮内、濡れてない?」

「あ、大丈夫です──仲村くんこそ、濡れてないですか?」

「ああ、大丈夫大丈夫。濡れてないから──」


 そう言ってから、ここで濡れてると言えば、もう少し密着できたんじゃないかとよこしまな考えが頭をよぎった。


「……いや、やっぱりちょっと濡れてる、ような……」

「嘘は駄目ですよ」

「…………はい──」


 どうやら、下心を見抜かれていたようだ。宮内の顔が少しだけ赤い。



 少しの間、黙って歩き続けた。雨の音だけが聞こえて、周りの音は一切入ってこない。

 だから雨の音で聞こえないと思って、俺は口を開いた。


「……好き、いや……大好き。俺と付き合って──」


 ピタ……と宮内が止まった。慌てて俺も止まる。


「ちょ、急に止まったら濡れ……る──」


 宮内に向かい合うように止まると、宮内は顔を赤くして俯いていた。

 あ、もしかして聞こえてた感じ……?


「……すいません」

「え──? あ、いや、大丈夫大丈夫。濡れてない?」

「はい……っ」


 宮内はなぜかぽろぽろと、涙を流した。


「どうし──」

「わからないんです……、まだ──っ、胸が痛いのに、私は……仲村くんを好きなのか……」

「……。宮内は、今まで好きな人出来たことある?」


 宮内はふるふると首を左右に振った。

 ……ないのか。ならしょうがない──


「いいよ、わかんなくて。これから、わかればいんじゃん?」

「っすいません……」


 俺は、申し訳なさそうに謝った宮内を、そっと抱き寄せた。

 自分のアゴに、宮内の頭がくる。もし雨じゃなかったら、両手で抱きしめている。でも、傘放り出したら宮内濡れるし──


「……じゃ、とりあえず敬語やめよっか」


 宮内に拒絶される前に、そっと離れて提案する。

 宮内は涙を拭って、少し赤くなった目で俺を見た。


「言葉遣い……私ちょっと悪いですよ?」

「そんなん気にしない気にしない。同い年なんだから」

「……わかった──」


 と宮内は微笑んだ。

 可愛い。キスしたい──。

 そっと顔を近づけたら、手でおでこを押さえられた。


「……ダメ?」

「駄目──そういうのは、彼女とするものです」

「未来の彼女なんだから、別によくね?」

「は……? 駄目です──」


 と宮内が歩き出したので、俺も歩き出す。


「また、抱きついてもいい?」

「駄目」

「ハグは?」

「駄目」

「抱擁は?」

「駄目──てか全部同じようなものでしょ、それ」


 と宮内が苦い顔をする。

 宮内が敬語じゃないのが嬉しくて、俺は笑った。


「そうだな──」


 それからは他愛のない話をして、別れ道まで歩いた──。



 最終日、……落とせなかった。でもまあ、距離が縮まった気がするから、それはそれでいいかなぁ、と思ったり。

 あと宮内が今まで好きな人が出来たことがないと言っていたので、最初で最後の恋を俺としてもらえるように、俺は今まで通りやっていこうと思う……。宮内がわかるまで──





仲村「俺の挑戦は、まだ始まったばかりだ!」


よければ他のも読んでってください(^^)

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― 新着の感想 ―
[一言] 期限付きと言うのが良いなと思いました!あと珍しく結末が落とせていないというのも個性的でいいと思いました!また他の作品も読ませてもらいます!
2015/05/10 13:58 退会済み
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