『陰謀』
更新が遅れてしまって申し訳ございません。
新年度ということもあってばたばたしていたためうまく執筆時間が取れませんでした。
また、アルバイトのシフトが変わったため来週から土曜0時の更新にしようと思います。
本当にすみませんでした
『陰謀』
家に入ると、ネロは食事にすることを告げ調理場に向かった。
「手伝います」
使用人としての使命感からか、トラが手伝いを申し出たがネロはやんわりと断るとマクスウェルのそばにいるよう助言をする。
「いや、それより王子についておいてくれ。どうにも心配だ」
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
トラは家に入るなり椅子とテーブルを出して座っている、やさしく声をかけた。
「マクスウェル様、お怪我などはございませんか?」
「うん、大丈夫。トラは?」
疲れた様子ではあるがまだ余裕のありそうなマクスウェルをみて、トラは微笑みながら答える。
「私はせいぜい軽鎧が土で汚れたくらいです」
自分より強いと分かっていても大勢の盗賊に囲まれていたトラのことが心配だったのか、無事なことが確認できたマクスウェルは安心したようだ。
「それと先ほどの盗賊たちですが、ならず者らしからぬ戦い方をしておりました」
トラは戦っていた時に気付いたことを思い出したのか、世間話をするかのようにマクスウェルに報告する。
「どんな感じだったの?」
「私には長年鍛えられた兵士のように、お手本のような連携をとっていたように思います」
マクスウェルにはトラの感想がよくわからないのか、首を傾げた。
「盗賊でも連携くらい取ると思うけど、何が違ったの?」
トラは主の質問に適切な答えを見つけようと思案顔で考える。少し経って考えがまとまったのか、ゆっくりと口を開いた。
「先きほどの粗暴者たちは私と戦っていた大男が不利になるとすぐに数人が駆けつけてきました。何度か実戦経験を積むため行われている盗賊討伐に参加していますが、一度もそのような連携をとった盗賊団は見たことがありません」
トラの答えを聞きマクスウェルは何かに気が付いたように声を上げた。
「そういえば僕を連れ去ろうとしたあの人、狙いすましたように僕たちが油断しているところに出てきたけど」
マクスウェルの言葉に、トラは恭しくうなずく。
「はい、おそらく盗賊たちは何者かが差し向けた囮であの男こそ本命だったのではないかと」
「それで間違いないだろうよ」
夕飯を作りながら会話を聞いていたのか、ネロが器を並べながら補足するように話を続けた。
「俺も逃げながら相手の攻撃を読んで同士討ちを狙ったりしたんだが、かすらせもしなかった。あれは明らかに訓練を積んだ戦闘集団だ」
説明を続けながらそれぞれにパンを配り、ネロも席に座った。
マクスウェルは話を聞きながら渡されたパンを嬉々としてスープに浸す。躊躇なく王族らしからぬ食べ方をするマクスウェルを見て、トラは口を開きかけたがこらえるように押し黙った。
「たぶんだが、あいつらはどっかの貴族が召し抱えてる騎士団だろうな。んでもって、その後に出てきた野郎は聖ホリング教国の実動部隊ってとこだな」
ネロはそう言ってしめくくると食事を始めた。トラはネロの推測に疑問があるのか、攻め立てるように質問する。
「盗賊らしき者たちが騎士団だろうというのは分かりますが、なぜあの者が聖ホリング教国の者なのでしょう? それにそうだったとしてその目的は何なのですか?」
「あんたも見ただろ、あいつはまず間違いなく光の魔法を使えるしその技量も高い。太陽も出ていないのに俺や王子様の剣を魔法で止めやがった」
ネロはいったん言葉を区切り、ふやけ始めたパンを乱暴にかじった。
「そんなことができるのは教国で鍛えられた聖騎士でも最上位の奴らだけだろうよ。んでもって聖ホリング教国が精鋭まで使って動いてんだ、目的っつったらこの国の王家が受け継いできた勇者の宝剣ぐらいしか俺には思い浮かばねえな」
ネロの答えを聞いていたトラは確認をするようにネロに問いかける。
「つまり、この国の誰かが聖ホリング教国と結託して王家を脅かしているということでしょうか?」
「そうゆうことだろうよ。もっと言えば王様じゃなくて王子様を狙ったってことはかなり王家に近いやつだと思うけどな。マクスウェル様が王座を継がなければそれだけで得する奴ってのは、どれくらいいるんだ? まだ成人していないが、そろそろお姫様に許嫁ができてもおかしくない頃だろう?」
ネロの言葉で何か気づいたのか、トラは驚いたように目を見開いた。
食べながら会話を聞き続けていたマクスウェルがパンを食べ終わり、真剣な面持ちで話し合う2人に口を挟んだ。
「妹の婚約者になったところで、宝剣は手に入りませんよ」
自らの考察へ水を差すように告げられた言葉にネロは不機嫌そうに眉を寄せた。
「確か、宝剣は戴冠とともに受け継がれるんじゃなかったか?」
「はい、ネロさんの言う通りです。でも、もう一つ条件があるんです」
一般には知られていない規則があるのか、ネロはおろかトラでさえ心あたりがないようだ。
「『宝剣の継承者はオルデニアの国王であること』これが多くの国民が知っているものですが、これとは別にもう一つ『光魔法の使い手であること』という規則があります」
ネロの知る限り、この国の国王となった人物は確かに全員が光魔法を扱っていた。だが、そうなるとネロの考えていた敵の思惑が外れてしまうこととなる。
ネロはマクスウェルを見つめながら普段の軽薄さをどこかにおいてきたような声音で質問を飛ばした。
「どれくらいの貴族がそれを知っている?」
ネロの質問に、マクスウェルはわずかに考えると明確ではないが、線引きのようなものを答えた。
「そうですね、確実に知っているといえるのは建国当初から仕えてくれている家のものなら大体の方が知っているかと」
「そうか。それじゃ逆に知らなそうな奴は?」
「ネロ様お待ちください。いったいどのような意図があってそのような質問を?」
あまり王家の内情に踏み込んでほしくないのか、トラは王子から情報を聞き出すネロを静止するかのように横槍を入れた。
「もちろん理由もなく聞いてるわけじゃない。ただ、おそらく今回の首謀者は二つ目の条件を知らない奴ってことになる」
ネロはトラをなだめるべくいったんマクスウェルから視線を外すと、説明が不足していた部分を補うように話し始めた。
「そもそもこの王国に光魔法を使える貴族はおらず、唯一使えるのは王族の一部のみ。この状況で宝剣を手に入れるにはもう反乱するしかない」
ネロは真剣なまなざしで射抜くように見つめてくるトラに真っ向から対しながら説明を続ける。
「だが二つ目の条件を知らなければ、国王になれば手に入ると思うだろう。その結果、王女様と結婚して王位を継いでも宝剣が自分のものになると考えるやつが現れるってわけだ」
ネロの説明に、トラは数度うなずく。
「つまりネロ様は、王女様との婚約ができる地位にいて、二つ目の条件を知らない貴族が今回の首謀者である可能性が高いというわけですね」
「そういうことだ。で、知らなそうな貴族に心当たりはあるか?」
敵の目的に宝剣が含まれていた場合の話ではあるが、ネロの考察は2人にとって納得のゆくものだったようだ。
マクスウェルはネロの考察に当てはまる人物に心当たりがあったのか、小さく声を上げた。
「何か思いついたのか?」
「当てはまりそうな人を思いつきましだが、たぶん違うと思います」
「誰だ?」
「いえ、そのう。そんなことはないと思うので」
いったい何を思いついたのか、マクスウェルは思いついたことをなかなか言おうとしない。
「いいから、言ってみろ」
マクスウェルは意味ありげにトラを数度見た後、ネロの目力に負けておずおずと口を開いた。
「言いづらいのですが、ルミウス侯爵なら父上からの覚えもいいですし、ちょうど適齢期で近衛騎士の息子もいます。それに最近貴族になったばかりでネロさんの考えに当てはまるかと思います」
主から自分の家の名前が出てきたトラはひどく悲しそうに顔をうつむけた。
マクスウェルは言ったことを後悔しているのか気まずそうにトラとは反対の方向を向いている。
「確かに条件はあっているが貴族としての伝手が足りなさすぎる。王女様の婚約者になるには力不足だろうぜ」
ネロはトラに追い打ちをかけるようにルミナス家の実力不足を指摘した。いくら国王からの覚えがいいとはいえ、なったばかりの弱小貴族には変わりない。ネロ言う通り王女と婚約できるような力は持っていないだろう。
「お二方とも、私を苛めて楽しんでおられるのでしょうか」
長年仕えてきた主にただ条件が合うからというだけで反逆を疑われ、どこの馬の骨ともわからない怪しい魔術師に家をけなされたトラは不気味な笑顔を浮かべている。
「その、ごめんなさい」
今にも剣を抜き放ちそうな迫力に、マクスウェルは横に座る使用人に向かって頭を下げた。
「俺は事実を言ったまでだ」
ネロは謝りもせず背もたれに体重を預け、どこまでも不遜な態度で再び考え事を始めてしまった。
主に頭を下げられて怒りが納まったのか、トラはネロを一瞥するといまだに頭を下げ続けているマクスウェルをみてくすりと笑う。
「マクスウェル様、顔を上げてください。もともとそんなに怒っていたわけではないのです」
マクスウェルは恐る恐る顔を上げると微笑みかけるトラをみて大丈夫そうだと思ったのかきちんと姿勢を正した。
「駄目だな、考えてもどうしようもない」
それほど考えていたわけでもないのに、ネロが結論が出ないと判断するには十分な時間だったのか突然立ち上がった。
「ネロさん、どうかしましたか?」
「いや、考えたところで現状は変わらないからな。もう遅いし明日に備えてそろそろ寝るぞ」
先ほどまで忘れ去られていた軽薄さが戻ってきたのか、ネロはひらひらと手を振りながらベッドへと向かう。
主従2人は顔を見合わせると互いに微笑み合うと離れたところで身に着けていた防具を外し、別々のベッドで横になった。
「そんじゃ、明かり消すぞ」
ネロは周りを見回して2人がきちんとベッドに横になっているのを確認すると指を鳴らす。すると部屋の明かりが消え、窓もない部屋の中は真っ暗になった。
戦闘の疲れもあるのか、3人からはすぐにねいきが聞こえ始めた。