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『盗賊団』

『盗賊団』


 夕暮れに染まる草原で遭遇した盗賊に囲まれ退路を断たれたネロたちに、(おさ)へ続けと言わんばかりに子分たちも襲い掛かる。

 大柄な長が自ら先陣を切りトラに切りかかったが、体格差をものともせずにトラは長剣(ロングソード)で受け止めた。力には自信があるのか、長は刃を合わせたま強引に押し倒そうとさらに一歩踏み込んだ。

トラは押し込んできた長を長剣(ロングソード)を支柱のように使い受け流す。渾身の力を込めていた長は勢い余って体制を崩した。それを好機と言わんばかりにトラからの斬撃が迫る。だが、草陰から子分躍り出てトラの攻撃を防いだ。よほど勢いがついているのか、子分ではまともに受けることもできず曲剣(サーベル)ごと切り飛ばされてしまう。わずかな時間であったが長にとっては十分だったようで、しっかりと地面を踏みしめ正眼の構えをとっていた。

 先ほどのように力任せに襲い掛かってくると思っていたトラは、油断なく待ち構えている長に身を引き締めるように長剣(ロングソード)を両手で持った。

 一騎打ちのような様相(ようそう)だったが、トラが長に気を取られている隙をつくように3人の子分が背後から襲い掛かる。すでに察知していたのか、トラは驚いたそぶりも見せず淡々と子分たちのつたない攻撃をさばき、返す刃で手早く処理した。子分たちに対処するため背を向けたトラに猛獣のように長が近づき、背後から胸を貫くように片手半剣(バスタードソード)を突き出した。死角からの鋭い刺突はとっさに身を(かわ)したトラの軽鎧(ライトアーマー)に少しかすり火花を散らす。突如、火花が膨れ上がり、爆ぜた。

 爆発を全身で受けた長は吹き飛ばされ地面に転がる。長が倒れたことを確認したトラはいまだに囲まれているネロたちを助けるべく主のもとに駆け出そうとしたが、何かを察知したように誰もいないはずの背後を長剣(ロングソード)()いだ。いつの間に起き上がっていたのか、トラの(はな)った斬撃を長が弾いた。

 爆発のせいで着ていた皮鎧(レザーアーマー)の一部がちぎれ飛び、その下からは土が見えている。

 どうやら体中に土をまとって鎧代わりにしでいるようだ

「それほどの腕があれば騎士にでもなれるでしょう、どうしてこんなことをしていらしゃるのですか?」 土を鎧としてまとうことはトラから見ても高度な技術であるのか、戦闘中であるのに勧誘とも思える言葉を口にした。

「なんでだろうなぁ?」

 長はぶっきらぼうに答えると、種が割れてしまったからだろうか、身にまとった土から拳くらいの大きさの塊を切り離して打ち出した。トラは即座に体制を低くし、横へ転がるように回避するとネロと戦った時のように腕をこすり合わせ、業火を背負う。長から次々と打ち出される岩弾(ロックブラスト)火球(ファイアーボール)で撃ち落としていく。完全に日が落ち、暗闇となった草原に目のくらむような閃光とともに強烈な炸裂音が響いた。



 盗賊たちもトラがそこまで強いと思っていなかったのか、戦闘が開始された直後はネロとマクスウェルを多くの子分が取り囲み、器用に足手まといとともに回避し続けるネロを追い回していたのだが、トラに長が押され始めたことでネロたちを追い回す盗賊が減って、今ではわずか3人ほどになっている。 

 相手の数が減ったおかげでようやく反撃に移れるだけの余裕ができたのか、ネロは逃げていた足を止め、子分たちに対峙した。

 子分たちからすれば戦う(すべ)を持たない逃げるだけの者たちが意を決して立ち向かってきたように見えたのだろう、ネロの手に握られた短剣(ナイフ)をみて馬鹿にしたようにあざ笑う。

 笑い合う盗賊を尻目に、ネロは短剣(ナイフ)をゆるりと振りかぶる。ネロが攻撃するようなそぶりを見せたのにもかかわらず、盗賊たちは振りかぶったことさえ笑いのタネにしていたが、ネロがナイフを振り下ろすとともに仲間の1人が謎の斬撃によって深手を負ったことで笑い声が止まった。子分たちは突然倒れた仲間に気を取られ、風になびく草草(くさぐさ)にまぎれるように迫るネロに気付けなかった。

 草原の中を音もなく駆けたネロは一番近くにいた盗賊に短剣(ナイフ)を突き刺し、抉るように引き抜く。

 短い悲鳴を上げて倒れた仲間を見て、瞬く間に2人も(ほふ)ったネロが恐ろしくなったのか1人残された盗賊は恐怖に取りつかれたように気が狂ったような雄叫(おたけ)びをあげながらがむしゃらにところどころ刃こぼれした曲剣(サーベル)を振り回しながらネロに向かって突進した。

 ネロは奇声(きせい)を上げながら向かってくる盗賊を突くように短剣(ナイフ)を伸ばして串刺しにすると、警戒するようにあたりを見回した。

 敵が近くに潜んでいないことを確認したネロがトラのほうに視線を向けると、少し離れたところにところどころ火傷を負い仰向けに倒れている長を踏みつけながら静かに拳を上げているトラが見えた。

 殺した訳ではないのか、長は苦しそうに(うめ)いている。

「何やってんだ、あの使用人(メイド)

 なぜか1人で勝ち誇るトラに、ネロはあきれたようにつぶやいた。

「何するんですかっ!」

 盗賊を倒しきったと思ていたネロとトラにマクスウェルの悲鳴が聞こえた。

 トラは弾かれたように走り出し、ネロも即座に振り返る。

 いつの間に現れたのか、夜闇(よやみ)(まぎ)れそうな深緑の外套(コート)にみを包んだ何者かとマクスウェルは剣を交えていた。

 先ほどまでネロの後ろでおびえていたはずなのだが、その戦いぶりは決してお粗末なものではない。

 基本に忠実なのだろう、マクスウェルの剣筋は直線的ななものが多く容易く防御されているが、マクスウェルも相手の斬撃を的確にさばいている。

 マクスウェルが何者かに襲われてから数秒、近くにいたネロが敵の隙を突くように短剣を滑り込ませた。だが、ネロの短剣(ナイフ)はわずかな光の瞬きとともに弾かれる。マクスウェルはネロが来たことで余裕ができたのか、数の有利も利用して苛烈に攻め立てたが、敵は防戦に徹することにしたようで、2人からの攻撃を紙一重のところで防いでいる。その動きはまるで未来が見えているかのようだ。

 ネロは何かに気が付いたのか、素早く袋に短剣(ナイフ)をしまい別の短剣(ナイフ)を取り出した。新しく取り出した短剣(ナイフ)は先ほどまで使っていたものと比べ刀身が一回り大きく、重いように見える。

 マクスウェルは敵との戦闘に必死でネロが得物(えもの)を変えたことに気が付いていないようだ。

 ネロはマクスウェルに合わせるようにして何度目かの刺突を放つ。先ほどまでであれば大剣(クレイモア)で器用に防がれていたのだが、今度はネロの攻撃だけ体制をわずかに崩しながら無理やり避けた。

「お前は、もしかして」

 ネロは自分の推論に確信が持てたのか確かめるように敵に語り掛ける。しかし、答える気がないのか返答は斬撃で返された。

 無理な体勢から力任せに振るわれた大剣(クレイモア)をいくら大振りとはいえ短剣(ナイフ)受けるわけにもいかず、ネロは後ろに下がって避ける。無理やり振ったためか、敵は大きくバランスを崩した。そこにマクスウェルの片手剣(ショートソード)が迫るが、わずかな輝きとともに弾かれた。

「今のは僕と同じ……!」

 マクスウェルも何かに気が付いたのか、驚いたように距離をとった。

 2人が敵と離れたからか、小さな城であれば一飲みにできてしまえそうな大業火を掲げたトラがマクスウェルに呼びかけた。

「マクスウェル様! 防御(ガード)をお願いいたします!」

「任せてください!」

 マクスウェルはトラの掛け声に我に返ると、即座に返答をした。

「ネロさん、僕の後ろに」

 ネロはトラの頭上に浮かぶ空を覆いつくさんばかりの炎の山に唖然としていたが、マクスウェルに言われるがままに背後に隠れた。

 マクスウェルは敵との間に壁を作るかのように片手剣(ショートソード)を地面に突き刺し、全身から力を振り絞る。すると、ネロとマクスウェルを覆うように光り輝く壁が出現した。光の壁が展開された直後、トラが少女とは思えないような雄叫びとともに大業火を打ち出しす。

 広大な草原が瞬く間に炎で覆いつくされ辺り一面が火の海となった。



 しばらくして炎が納まると広大な草原が広大な焼け野原になっていた。さすがに草原全域を燃やし尽くすことはできなかったようだが、見渡す限り草木が残っている場所はネロたちがいた場所を含め3か所しかない。1つ目はトラのいた場所、2つ目はマクスウェルが張った光の壁の中、そして3つ目は敵が最後にいたであろう所。トラの周りは波打ったように焼け跡が残っているが、マクスウェルのいたところはまさしく壁に遮られたようにきれいな円形をしている。敵のいた場所はマクスウェルのいた場所と同じようにきれいな正方形だった。

「ネロさん、今のはやはり」

 マクスウェルも確信が持てたのか、確認をとるようにネロへ話しかけた。

「ああ、おそらくそうだろうな」

 ネロは敵の姿を探しているのか、あたりを見回す。だが、わずかに残り火があるものの暗闇に紛れた敵を見つけ出すのは難しい。

「マクスウェル様、ネロ様、何かお気づきにになられたのでしょうか?」

「ああ、とりあえず家に入ってから話そう」

 トラも薄々感づいているようで、焼け残った雑草をじっくりと確認している。

「それもそうですね」

 ネロは気休め程度に辺りを見回すと、焼け野原になってしまった元草原の大地を整地して魔法の家を展開した。

「さて、とりあえず夕食としようか」

 ネロの言葉に主従揃ってうなずくと、疲れた様子で家に入った。


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