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06話 来訪者●

 惑星ベータの季節は特徴的だ。

 北半球と南半球では四季が正反対で、赤道付近は季節が無くて年中過ごしやすい。

 例えば北半球で7月と言えば夏の到来を予感する頃合であるが、南半球では雪が降る真冬を連想する。

 7月1日に旗艦ソフィーアが着陸した地方では、ちょうど大地が白い雪原へと変わり始めた頃だった。

 数百メートル級の小山は、その出現から2ヵ月程の時を経てようやく周辺2国の高官の耳へと届いた。だが人里離れた道無き僻地で周囲が完全な雪景色ともなれば、即座に調査隊を出す訳にもいかなかった。

 北のウチウーミ王国では、8月末に国王キキカンタ・リナーイが一人の将軍に指示を出していた。



挿絵(By みてみん)



 「ギール将軍よ、南の地に突然出現したという小山への調査はそちに任せる。距離としては半月程であるが、雪が完全に融け切った10月頃に到着出来れば良いであろう」

 「はっ。このヨワス・ギール、勅命謹んでお受けいたします」

 「うむ。小山とは言え竜がねぐらとするには充分な大きさであろう。もしかすると、ドラゴンが居つくやもしれぬ。4角以上の竜であれば、改めて竜の巫女を遣わそうぞ」


 国王は、調査する山に竜が住む可能性を考えて満足そうに頷いた。

 ところで王が口にした4角とは、竜に4本のツノが生えていることを指す。

 生物は長く生きれば生きるほど体内にマナを蓄える。生物の身体の大きさや効率によって蓄えられるマナ量は変わるのだが、竜ともなれば膨大なマナを身体に蓄える事が出来る。

 そして竜の場合は種族や血統によって蓄えられるマナ量がバラバラであるものの、唯一共通する特徴として、『竜は蓄えたマナで頭部にツノを形成する』のだ。長く生きるほど力とマナを蓄え、頭部の角は増えて1本1本が細くなっていく。

 これは、数少ない竜種同士が無駄な争いによって互いに傷つく事を避けるために、ツノを生やして自分の力を示すようになったのだと考えられている。

 よって、竜は強さの単位が角で表わされる。

 目安として下位が1~3本、中位が4~6本、高位が7~9本、それ以上が10本以上とされている。そして0本は、幼竜もしくは最下等種である。


 「4本角の中位竜ともなれば、会話も成立しましょう」

 「そのとおりじゃ。なんとか我が国の味方に付けたいものじゃが」


 下等な竜は4本の角を形成できるほどのマナを蓄えられない。

 4本角は優秀な血統種が長い時間をかけて知識とマナを蓄えた存在であり、強大な力だけではなく人語を介した人とのコミュニケーション能力まで有している。

 そして殆どの大国では中位以上の竜に貢物を贈って味方に付け、他国に対する戦略兵器としている。

 国王はその例に漏れず、4角以上の竜を見つけて味方にしたいのだ。なにせ王国には、現在守護竜が一頭も居ない。


 「北山の竜は嫁に行くと言って出て行ってしまったし、東山の竜はまともに取り合ってくれぬからのう。おかげで我が国は、近隣諸国から押されっぱなしじゃ」

 「他国の竜は東山の竜の縄張りにまでは入って来ませんが、その外側では輸送隊が鬼ごっこならぬ竜ごっこと称して遊び半分にドラゴンから追い掛け回されるなど、やりたい放題でございますからな。では南山の調査、拝命致しました」

 「陛下、お待ちください」


 二人がそう結論付けた時、決定に異議を差し挟む者が居た。

 王と将軍との会話に口を差し挟めるということは、御前会議の場に居並ぶ者の中でも相当高い身分と言う事である。

 彼の名はハイカタ・リナーイ。この国の第一王子である。


 「ん、なんじゃハイカタよ」

 「父上、その山は我が国に最も近い位置なれど、南のガイカーイ王国からも直に赴く事が可能です。国主アシガハ・ヤイナは、おそらく我が国の動きを見越して隊を出すものと思われます」

 「ガイカーイ王国からでは、我が国の2倍は時間が掛かるのではないかの」

 「それを見越して、騎馬隊を先行させて我が国の到着を妨害すると思われます。その間にも貢物や竜の巫女が乗った馬車隊を進ませ、4角以上の竜を発見すれば即座に味方へ引き込もうとするでしょう」

 「そう断言する事もあるまい。そもそもガイカーイ王国には、小山出現の情報すら行っておらぬやもしれぬ」


 ハイカタの目から見るに、父王であるキキカンタ・リナーイは危機感が足りないように思えてならない。守護竜が居ないと言うことがどれだけ危機的な状況であるか、本当に理解できているのかと時々疑問に思う。

 東山の竜の縄張りに入っているおかげで辛うじて保てている国土は、竜の生息域の関係でたまたま生み出された平和であって、将来の安全に関してなんら保障があるわけではない。この平和が長続きするものでないことは目に見えている。

 だがハイカタ・リナーイ王子の配下には、新たな将軍に推挙できる人物の心当たりや、あるいは随行させれば安心できるほどの騎士の心当たりもない。


 「東山の竜が養子縁組でお婿さんに行ったり、あるいは春の陽気に誘われて気まぐれにお引っ越しでもしてしまったらどうなりますでしょうか。この際、雪が融ける頃には辿り着けるようにし、貢物や竜の巫女たちも隊に同行させては如何でございましょう」

 「そちは相変わらず心配性じゃな。ギール将軍、どうじゃ」

 「はっ。では雪が完全に融け切る前の9月中旬に辿り着けるように取り計らいましょう」

 「うむ、それならば十分であろう。ハイカタよ、それで良いな」

 「分かりました」


 国王と第一王子との決定に口を挟む者は流石におらず、修正が加えられた方針は今後こそ決定して閉会となった。

 ギール将軍は軍司令部へと向かう道すがら、修正された任務について考える。


 「さて、どうしたものかな」

 「ギール閣下、編成部隊についてでしょうか」


 御前会議の場では壁と同化していたギール将軍の副官が問い質すと、ギールは右手を顎に添えながら頷いて肯定した。


 「そうだ。すぐに派遣するとなれば、あまり大規模にもできないしな」


 周辺国では、人口100万人を超えてようやく王国と名乗れる。

 人口100万人に満たない国は、他種族や強大なモンスターの群れになどに襲われて滅亡する事が少なからずあり、他国に依存しない独立国家を謳うには不十分だからだ。まったく、地図を描く方の身にもなって欲しい。

 そういう国は大抵属国となり、いずれかの国の庇護下に入る。

 ウチウーミは人口120万人で、かろうじて王国の条件を満たしている。農業、漁業、そして周辺5国に挟まれた立地を活かした貿易中継地として程々に栄えてきた。まるで内海のように穏やかな繁栄をしてきたのがウチウーミ王国である。

 常備軍として騎士4千名と兵士1万6千名を抱え、それとは別に各種補助要員として徴兵兵士2万人弱が動員できる。

 ギール将軍は、全軍の1割程にあたる騎士400名と兵士1,600名の計2,000名を揮下に置く将軍であった。


 「閣下、小山までは2頭立ての馬車で半月ほど掛かる為、行軍に徒歩の者を加えれば9月中旬に間に合わないでしょう。移動速度は貢物を載せた馬車に合わせるとしても、兵士は置いて行かざるを得ないかと」

 「そうだな。そうすれば馬車でも1ヵ月ほど掛かるガイカーイ王国のアシガハ・ヤイナ王は、どう足掻いても間に合わないだろうな」

 「はっ、ではそのように。それと貢物と竜の巫女は如何様に致しましょうか」

 「今から選定しても間に合わないだろう。東山の竜が居留守を使った為に行く宛の無くなった巫女たちを連れて行く事にしよう」

 「かしこまりました。そちらも手配いたします」






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 北のウチウーミ王国が調査隊の編成を始めた頃、南のガイカーイ王国では今まさに部隊が出撃するところであった。


 「モネ将軍、北に出現したという小山の調査は卿に任す。今更口にするまでも無いが、ウチウーミ王国に先んじて部隊を到着させる事が最優先だ」

 「御意。このソレナリカ・モネ、必ずやウチウーミに先んじます」

 「北の国境警備隊には、卿の出立に先行して進路に休息所を設けさせている。それらの地点で順次補給を受けよ」

 「はっ」


 将軍は主君であるアシガハ・ヤイナ王に一礼して応えた。

 先行させる600騎の騎馬隊を運用するために立案された補給計画は、ウチウーミ王国を遥かに凌いでいた。さらにガイカーイ王国は、後続の増援、換え馬や偵察隊、連絡用の早馬まで惜しみなく投入するという徹底振りであった。

 両国には2倍の人口差があるが、両国の差は人口よりもむしろ指導者の能力にあった。まるで外海の荒波のような激動に揉まれて強く生きて来たのがガイカーイ王国である。


 「かの国が竜の守護を失い、こちらが竜を味方に付けた矢先にこれではな」

 「さようでございますな。我が国の竜で東山の竜をけん制し、その間に我が軍でウチウーミ王国を襲う当初の侵攻計画にも狂いが出てしまいました」

 「もし小山に竜が居たならば、我がガイカーイ王国の味方に付けるかウチウーミ王国に味方しない事を確認する必要がある。居なければそれで良い。では往け」

 「はっ。直ちに出立致します」

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