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02話 異世界転移●

 飴猫軍の宇宙母艦(ネコヤシキ)から無数の短距離キャット戦闘艇ファイターが飛び出してきた。

 短距離キャット戦闘艇ファイターは全長100m級で搭乗員も1名という小型艇であるが、その分小回りが利き、短距離ネコパンチ対消滅ネコキックを備えている。

 さらに飴猫の戦闘艇は多機能センサーとなる左右合わせて42本ものヒゲや、自在に稼働する尻尾を備え、尻尾からも推進剤が噴射されることで不規則で繊細な機動を実現させている。

 ボイド帝国人には尻尾自体が無く、飴猫人のように尻尾を使った操縦は出来ない。

 加えて最新型の短距離戦闘艇ワイルドキャットは、短距離艇でありながら短距離の亜空間跳躍機能まで装備しており、文字通り宇宙空間を跳び回って単艇で駆逐艦を沈めるなどの目覚ましい戦果を挙げていた。


 「敵の隊長艇を照合、あわゆきねこのユーリです」

 「単独撃沈記録4000の機動旅団長ユーリ大佐か!?」




挿絵(By みてみん)




 混血が進んで雑種が大半を占める飴猫合衆国であるが、一部には高度文明の遺伝子を色濃く受け継いだとされる純血種も残っている。

 血統書付きの純血種の中には雑種と比べ際立って能力が高い種族もおり、そんな彼らは飴猫合衆国内で人為的に遺伝子を保護されている。その中でも淡雪猫族は3指に入る優秀な血統種だ。

 飴猫軍の戦闘艇がいかに他国を上回るとは言っても、彼女ほどの記録を作れる者はまず居ない。いや、居ては堪らないだろう。単独撃沈記録とは、友軍の攻撃が一撃も当たっていない敵をたった一人で落とした記録なのだ。彼女はそれだけ突出している。

 そんな大記録保持者である淡雪猫のユーリ大佐と指揮下の機動戦闘艇部隊によって、ボイド帝国の艦隊と戦闘艇は次々と沈められていった。

 飴猫艦隊や戦闘艇にも損害は出ているのだが、時間経過と共に戦力に傾きが出て戦況は坂を転がり落ちるかのように急速に悪化して行った。

 新谷少将が撤退のタイミングを検討し始めた時、決定的な事態が発生した。


 「緊急報告。艦隊両翼外側に大質量の物体が多数ジャンプアウトしました」

 「ジャンプアウト反応多数、飴猫軍の要塞艦が出現しました。高出力エネルギー反応、敵艦は既に発射態勢にあります。敵の攻撃目標、我が艦隊の中央部」

 「空間歪曲妨害衛星を停止させろ。全短距離戦闘艇を緊急回収。空間歪曲と亜空間跳躍で現宙域より緊急離脱せよ」

 「了解。全艦、短距離戦闘艇と空間制圧機を緊急回収。緊急離脱せよ」


 空間歪曲妨害衛星がワープを阻害している限り、敵の小型艦がワープアウトして来られないのと引き換えに友軍の標準艦もワープによる離脱が出来ない。

 ワープ妨害衛星にはメリットとデメリットがあるが、現状に至ってはデメリットの方が遥かに大きかった。

 新谷司令官の命によって空間歪曲妨害衛星が稼働を停止し、ボイド艦隊が離脱を開始し始めた。だが敵の動きはボイド艦隊の予想を越えていた。


 「敵の要塞艦隊群より、一斉砲撃が来ます。敵は自軍の短距離戦闘艇を回収せずに砲撃してきます」

 「敵キャットファイター、空間歪曲にて離脱開始。ワイルドキャットは亜空間跳躍で離脱開始」

 「旗艦ソフィーアと護衛艦艇、亜空間跳躍を開始します」

 「敵要塞艦隊の主砲がジャンプエネルギーに干渉、亜空間潮流が乱れています。時空波紋が多数発生!」

 「うわああああっ」


 周囲の高性能艦が亜空間跳躍を開始する瞬間に、飴猫軍の要塞艦から放たれた大出力の主砲の光が各艦を飲み込んだ。

 それと同時に空間崩壊弾が炸裂して、亜空間を揺るがしながら旗艦ソフィーアを超空間の潮流の中で横転させた。

 艦内の衝撃吸収能力が限界を越え、次々と崩壊し爆発する。


 「外郭ユニットに致命的損傷。213ヵ所で外部装甲破損。超空間内につき、外郭ユニットを緊急分離します……分離完了」

 「外郭ユニット、超空間潮流に飲み込まれました。本艦本体部にも甚大な損傷があります」

 「右舷前方の味方巡洋艦が、敵ワイルドキャットの攻撃で艦橋を破壊されて横転しながら本艦に突っ込んできます」

 「緊急回避しろ」

 「現在操鑑不能!」

 「巡洋艦を砲撃して撃ち落とせ」

 「現在砲撃不能!」

 「対ショック防御、全隔壁閉鎖。全ブロック隔離」


 亜空間内の潮流の乱れは地獄絵図だった。

 周囲では帝国艦と飴猫軍の戦闘艇が、航路や目標座標から大きく外れて横転しながら砲火を交え、互いにぶつかり合いながら爆発している。

 旗艦ソフィーアも、敵のワイルドキャットに破壊された味方巡洋艦の体当たりを艦橋に受けた。

 超空間内で装甲を破壊された艦橋が一瞬で消滅し、艦自体もダメージコントロールの限界を一瞬で超えた。


 『旗艦ソフィーアより。艦体維持不能。非常事態マニュアルに従い、内郭ユニットを緊急分離し、中枢ユニットを独立させます』


 当初全長16kmあった旗艦ソフィーアは、外郭部を切り捨てて全長8kmとなり、その数分後には全長1.5kmの中枢ユニットのみとなった。

 中枢ユニットにもジャンプ機能などは備わっており、亜空間内でも辛うじて艦体を維持する事が出来た。

 だが、そんな小型化したソフィーアがさらにダメージを受けて大きく揺れた。


 『旗艦ソフィーアより。司令部壊滅。敵のワイルドキャットが本艦に取り付きました。超空間内での機体維持が目的の模様。現状では迎撃不能。序列に基づき、本艦へ指示願います』


 そんな事を報告された所で、攻撃も操艦も出来ないならどうしようもない。

 それにわずかな生存者は全員が重体もしくは重傷で、誰も正確な判断と指示を出せるような状態には無かった。


 『ソフィーアより。気圧・温度・酸素の維持供給機能を喪失しました。亜空間内にて、乗員を生命維持ユニットへ転送不能。航路計算・艦体制御共に不能。亜空間からの離脱不能。序列に基づき、本艦へ指示願います』


 俺は薄れゆく意識の中でアホかと呟き、次いで思い付きを口にした。


 「乗員の生存維持を最優先、生命維持可能惑星へ移動し、艦の各機能を回復させろ」

 『兵科生存者あり。丹保主計少佐の命令を受理できません』


 俺の属する主計科は会計や物品管理が専門の事務部門で、戦闘部隊である兵科の下士官が一人でも生きていればそちらの命令が優先される事になっている。

 だが俺は他にも生存者がいる事に安堵した。専門の彼らなら、俺よりうまくやってくれるだろう。


 『現時点を以って、SSC理奈は貴方の生命維持を最優先とした独自行動を開始します』


 俺たちボイド人の万能端末であるセカンドシステムは、Dランク以上で独自思考が出来るようになる。俺のSSはCランクに上がっていて、装着者を保護すべく勝手に判断して独自行動を開始した。

 俺は安心して力尽き、ゆっくりと意識を落とした。


 超空間内での漂流は永遠に続くかと思われた。

 隔壁が全て閉鎖されていたためにタンポポ畑で身動きが取れなかった俺は、覚醒と睡眠を繰り返しながらひたすら旗艦ソフィーアの伝達記録を聞き、あるいは再生する日々を過ごした。


 『ソフィーアより。通常空間へジャンプアウトします。阿波あわてる少尉の命に基づき、乗員を生命維持装置へ緊急転送…………転送失敗。空間法則に重大な誤差発生。転送者22名死亡。転送命令を中断します。原因分析開始…………通常空間内に万能物質マナの元素を確認しました。阿波少尉の死亡を確認。序列に基づき、本艦へ指示願います』


 ようやく何かの拍子に超空間を抜けだした瞬間、死にかけていた生存者の大半が本当に死んでしまった。せめて中枢ユニットの損傷度合いを加味して、「順次転送命令」にしておけば良かったのに。

 少尉なんて、士官学校を出たばかりの奴が1年だけ着く階級だ。1年目といえば、主計科なら刺身にタンポポを乗せるくらいまともに判断ができない。

 だからと言って俺が指示を出すことは出来ない。軍隊の命令系統は絶対だ。

 どうしようもない状況はなおも続く。


 『ソフィーアより。生命維持機能喪失状態の持続により生存者6名死亡。生存者は丹保少佐のみとなりました。緊急時序列マニュアルに基づき、丹保少佐は本艦艦長となります。本艦へ命令願います』


 どうやら俺はSSが維持したタンポポ畑を含む酸素供給プラントのおかげで、艦側の酸素供給機能が壊れても生き延びられたようだ。

 それにしても旗艦ソフィーアの疑似人格は融通が効かないこと甚だしかった。人間や、SSD以上ならもっと融通が利く。

 非常時にマニュアルを順守する軍艦の行為は当然だし、生存者が俺だけになってしまったのでこれ以上言っても仕方が無いのだが問題は今後である。


 「乗員の生命維持を最優先。生命維持可能惑星へ移動し、艦の各機能を回復させろ」

 『命令受諾。直ちに実行します』

 (なんだ、素直じゃないか)


 ソフィーアは命令どおりに生命維持可能な惑星を探し始めた。

 もちろん乗員の生命維持は最優先し、艦体にしがみ付いたままのワイルドキャットを撃破して爆発を起こすような事はしなかった。

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