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10話 レベルとマナ変換●

 負傷者の応急処置が済んだウチウーミ王国軍は、戦闘の翌日には王都への帰路に就いた。

 ソフィーアの着陸地点からウチウーミ王国の王都までは2頭立ての箱馬車で半月程の行程だそうで、王都への到着予定は10月1日となる。


 「タンポポ殿、私はギール将軍の副官を拝命しておりますオシエ・マースと申します。貴殿は私と共に輸送用の馬車に乗って下さい」

 「はい、マース卿。よろしくお願いします」

 「ではこちらへ。ところで貴殿は一部の記憶を失っているとか。なにか疑問を感じられましたら私が教えますので、どうぞお聞きになって下さい」

 「それは大変助かります」


 そうして俺は2頭立ての箱馬車に乗り込んだ。

 ところで2頭立ての箱馬車とは、2頭の馬で箱みたいな車体を牽く乗り物らしい。

 ドアと窓と屋根が付いており、雨風を完全に防ぐだけでは無く移動中に外の風景まで見られる高級車だ。

 他にも荷台を牽く荷馬車や、幌を被せた幌馬車などもあるらしい。荷馬車は農民が農作業で使い、幌馬車は長距離の移動などに用いる。

 それとは別に街中では乗合馬車が定期運行され、客が移動先を自由に定められる辻馬車と言うものもある。車体を引く馬数は、1頭あるいは偶数頭だ。

 転送で楽々と移動していた俺からすれば、馬車は真新しくて実に面白い。難点はガタゴトと揺れる事だ。こちらは楽しくない。頭がグラグラ揺れる。

 ちなみにギール将軍が率いて来た400名の騎士の内、無傷か軽傷だった騎士160名程は単騎で馬に乗っている。

 馬に乗れない負傷者100名程は補給隊の馬車なんかに分散して運ばれる事になり、残る140名の戦死者の遺体は戦場に置き去りとなった。死者の場合はわずかな遺品だけが馬車で運ばれ遺族に渡されるとの事だ。


 それにしても馬、馬、馬…実に馬だらけである。

 いかん、ボイド帝国が戦争していた銀河連合の馬人を思い出してしまった。飴猫合衆国のオババ大統領が猫に似ているくらい、あいつらは馬に似ていたのだ。

 彼らは馬人と鹿人との連合体だったが、昔の偉い人曰く「鹿も四つ足、馬も四つ足、鹿が越す坂ならば、馬も越せぬ道理はない」との事であるので、まあ馬も鹿も似たようなものなのだろう。

 そして俺たちは、馬鹿連合の片割れっぽい馬たちに車体を牽かれながら、3日ほど揺られ続けた。


 「この3日間、時速5kmで1日6時間ほどの移動ですね。なかなか進まないものなんですねぇ」


 時速5km×6時間×15日で、王都リナーイまで450kmくらいだろうか。

 4角竜なら時速100kmで飛べるらしいので、ソフィーアの着陸地点から王都まで4時間半である。

 こら銀河連合人、もっと馬車馬のようにキリキリと働け。


 ちなみに6時間は、馬車が1日に移動できる限界時間のようである。

 なにせ季節が冬と春の中間で、陽が落ちるのが早い。暗くなってからテントを張ったり夕食の準備をする訳にはいかないし、キャンプを設営するための水場に移動する時間も必要になる。

 なぜ水場へ行かなければならないかと言うと人馬は水を飲む生き物であるし、調理にも水が必要だからだ。給水や食事無しで移動し続けるのは不可能だ。

 そういうわけで、馬車が真っ直ぐ進む時間は6時間くらいが限界であるようだ。


 「タンポポ殿、馬車なら実にスムーズに進んでいますよ」

 「えっ、そうなんですか?」


 副官のオシエ・マースさんが馬鹿連合に対して思わぬ援護射撃をしてきた。

 この3日間、彼は色々な事を教えてくれた。馬車や戦死者の扱いなども彼から得た知識である。


 「馬車の移動速度は、春や秋の馬の速度で計算をするのです。今は冬の終わりなので馬の速度は遅く、おまけに負傷者も居るでしょう」


 俺たちが進んでいるのは道の無い荒地で、おまけに地面が踏み固められてすらいない。

 すると馬車の車輪が地面の高低でガタンゴトンと揺れて、そのたびに負傷者が「ぐうぅ」と呻くわけだ。

 ここでもしも馬車の速度を上げようものなら、彼らのうめき声が「ぎゃあぁっ」という絶叫に変わってしまう。

 あるいは「ぐふっ……」と言った切り、もう二度と呻かなくなるかもしれない。それで彼らに沈黙されると、例え馬車の速度が上がったとしても旅の満足度の方は大いに下がってしまうだろう。


 「確かに速度は上げられないですね。でもマースさん、それならどうして春先の負傷者が居ない速度と同等に進めるんですか」

 「移動を阻害する一番の理由は魔物ですが、それらが騎士隊によって防がれているからですよ」

 「そう言う事ですか」


 ちなみに俺はマースさんの会話と並行して、ソフィーアからの情報も照らし合わせている。

 ソフィーアが収集した情報によれば、生物は呼吸によって大気中のマナを、食事によって動植物に蓄積されたマナを身体に取り込む。

 動物は活動によって得たマナを消費するので殆ど溜まらないらしいが、魔物の身体は動物に比べてマナが効率的に溜まり、かつ自己の力へ効果的に変換できるらしい。


 例えばゴブリンという魔物が居たとする。成体になるまでに呼吸や食事でマナを取り込んで、その一部を自身の力に変換して平均的にレベル9くらいの強さに成長するとする。こういう存在が典型的、かつ人に脅威がある魔物だ。

 なぜなら人の場合はレベル0で生まれ、成人でレベル1くらいにしか成長しない。レベル1の人がレベル9のゴブリンと遭遇する事は脅威だ。

 ちなみに生物は相手を倒すことでその総経験値の一部を取り込むことが出来るらしいので、脅威を克服したければ魔物退治をして自分のレベルを上げてしまうと良い。そして冒険者の定義はレベル2以上である。




挿絵(By みてみん)

<<2回クリックすると、詳細情報が拡大されます>>




 人が倒した相手から吸収できるマナの変換値は129分の1だ。この変換値は生物ごとに違うようだ。

 つまりレベル2の魔物を倒すと、倒した人は相手の総経験値200から129を割った分の経験値を得られる。よって、人がレベルを1から2に上げるには、レベル2の魔物を129匹倒せば良い。

 あるいはもっと楽な方法として、強い敵を倒して一気にレベルアップする方法もある。

 ゴブリンなら総経験値18000÷129で獲得できる経験値は139ポイントだ。これなら2匹倒せばレベル2になっておつりがくる。

 だがレベル1の奴がレベル2の相手を129匹倒すには、身体能力の差を上回る良い装備などを用意しなければならないだろう。まして、いきなりレベル9のゴブリンを倒すなど無謀過ぎる。

 20人に1人しかレベル2に上がれないのは、そういうハードルがあるからのようだ。


 「魔物は強さも数もバラバラです。敵に対して戦力不足ならば迂回路を選ばざるをえませんが、味方に100人以上の騎士が居れば逃げる必要はまずありません。すると馬車が直進できて移動が早くなるのです」

 「おお、マースさんの説明は分かり易い!」


 確かに魔物は山のように見かけたが、多くは遠巻きに見ているだけで襲って来なかった。襲ってくるのは空腹かアホな魔物ばかりで、騎士たちはその都度見事に撃退している。

 俺はふと思い付き、隣に座るマースさんに気付かれないように自分の思考を理奈に読み取らせた。

 眼前でSSを使ってもマースさん達の技術力が低過ぎて模倣しようがないので、ボイド帝国が定める技術の漏えいにはならない。だが、マースさんの前ではやらない方が良いだろう。

 理奈の声が聞こえず姿も見えないマースさんからすれば、理奈と会話する俺は見えない何かと会話する危ない人になってしまう。


 (理奈、ソフィーアとの思考会話を仲介してくれ)

 『はーい。どうぞ』


 俺が言葉を発さずに思考で会話できるのは装着しているSSだけで、ソフィーアに対しては理奈を仲介する必要がある。だが理奈とソフィーアは情報共有速度が速いので、ソフィーアとのやり取りに時間差は生じない。


 (ソフィーア、この惑星ベータ向けに生体調整された俺の身体能力はどの程度だ)

 『クラス1、レベル30程です。ただし艦長の身体は、変換マナを使わずに強化しています』

 (つまり元々の身体能力が高いだけで、スキルは一切使えないわけか。ちなみにレベル30はどの程度の強さになるんだ。ウチウーミ王国の騎士100人中では何位くらいになる)

 『30~40位です。ただし彼らの強さと階級は不一致で、階級で最下位の騎士が強さでは最上位というケースもあり得ます』

 (ソレナリカ・モネ将軍はどの程度だ)

 『クラス2、レベル65程です。ガイカーイ王国はウチウーミ王国よりも強さと階級の整合性が取れています』

 (レベル65で小口径の単式光線銃程度の威力か)

 『当惑星においては、単式光線銃の威力は大きく下がります。光線銃を用いて力場フィールドに10%の負荷をかけるには、標準以上の光線銃が必要となります』


 つまりソレナリカ・モネ将軍の攻撃力は小口径の単式光線銃を上回ると言う訳である。前宇宙の常識がまるで通用しない。

 もしかするとこの世界に満ちているマナの緩衝効果で、光線銃の速度や射程も大幅に落ちているのかもしれない。


 (それじゃあ、何か適当な武器を作ってくれ。外見は懐にしまえるくらいの短い杖。効果は遠距離系で、俺が魔法を使っているように見えるものが良い)

 『命令受諾』


 俺がこんな要求をしたのには理由がある。

 騎士たちは帰路に付いてから3日間で1日平均10回を超える魔物の群れとの戦闘を行っており、それを見て流石に不安を覚えたのだ。

 負傷者100名の血の臭いが魔物を引き寄せているとはいえ、それだけの魔物が住んでいるという事実に変わりは無い。

 理奈は相手に攻撃ができないし、ユーリは最初から艦内に引きこもっているし、ソフィーアでは地形を変えてしまう。

 というかユーリはよくこんな土地で生体調整も受けずに1ヵ月も生き延びていたものである。俺がユーリの立場ならとっくに死んでいただろう。


 (そういえば、ユーリは元気か)

 『生体機能正常値。栄養バランス良好。ただし、睡眠時間は不安定』

 (ん、あいつは何をしているんだ)

 『主にデータベースに収められた通販映像を再生しながら、同時並行して女性向け情報誌を閲覧。あるいは個人購入可能なカタログデータを検索。その他、生体維持活動と読書』

 (…………)


 お前は9月分のお小遣い1万ボイドルで、一体何を買うつもりだ。

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