0. プロローグ
地球から、遠く遠く離れた星メイヴェリン。その星の王の部屋に、一匹の少年と少女が呼び出されていた。
なぜ、「人」ではなく「匹」なのかと問われると――メイヴェリンの住人は、猫や兎の姿をしているからだ。王は兎の姿をしていて、少年と少女は、猫の姿をしていた。
人の姿になることも出来るのだが、二匹はそれを使おうとも思わなかったので、生まれてから数えるくらいしか人の姿になった事はない。
庶民の自分達が王の部屋に呼ばれるなんて……。何事かと思い身構えていると、何の前触れもなく王に名前を呼ばれた。
「クルーガ・レイフォン、ルナ・レイフォン」
「「は、はいっ!!」」
低い声で名前を呼ばれ、しかも突然の事だったので少しドキッとしてしまう。
王の部屋になど、生きているうちに入れるかどうか分からない。もし入れたとしても、それは相当運がよかったか、王に信頼されているのどちらかだろう。
しかし、クルーガもルナも、特別運がよいというわけでもないし、王もいきなり国民を疑ったりはしないが、初対面の王に信頼されているはずもなかった。
ルナは自分達が部屋に呼び出されたことを疑問に思い、その理由を王に訊いてみる事にした。
「あっ、あの……なぜ私達をここに呼び出したのですか?」
「汝らは、『地球』という星を知っておるか?」
「はい。名前は聞いたことがあります」
「では、その星で夢魔達が悪さをしておるという事は――聞いたことがあるか?」
「……それは聞いたことがありません。今初めて聞きました」
「なぁ、その話を聞かせるためだけに俺らをここに呼んだのか?」
王とルナの会話に、クルーガが口を挟んだ。いきなりタメ口で話す彼に、小声で注意するルナ。
しかし、彼女の注意など最初から聞いていなかったかのようにクルーガは話を続けた。
「話を聞かせるだけならよ、他の奴でもいいじゃねーか……。俺はこれから彼女とのデートの約束があったんだぞ? なのに、急にここに呼び出されたせいでその約束は無しになるし……。あーあ、今頃あの子はきっと他の男と一緒に……いてぇ!!」
このままだとクルーガは永遠に喋り続けていそうなので、ルナは自慢の爪で彼を引っかいてやった。
「静かにしなさい、バカクーガ。あんた彼女なんて最初っからいないじゃない。そしてここは王の前。悪い言葉づかいは改めるように」
「はぁーい。すいませんでぇーしたー」
謝っておかなければ、部屋を出たあとルナに何をされるか分からない……。
危機感を感じたクルーガは、謝罪の言葉を述べた。ただし、口先だけで。
「クルーガ。汝は話を聞かせるためだけに呼ばれたと思っておるようだが、それは違う。突然で悪いと思っておるのだが――ルナと一緒に地球へ行って、夢魔を退治してきてほしい」
「おいおいおい!! なんだよ……じゃなくて、なんですかそれ!? 俺らだけで!?」
「いや、誰も汝らだけとは言っておらん。地球人二人と共に『ナイトメアバスターズ』を結成し、夢魔達を地球人の夢から追い出す。そして二度と悪さをしないよう封印。ただそれだけの事だ」
「ところで王、これは何ですか?」
クルーガとルナの前には、縦の長さが五メートルほどある筒状の物体が二つ置かれていた。
興味を持って近づくルナ。すると、突然扉が開いた。どうやら、近づくと扉が開く仕組みになっているらしい。
「まだ公にはなっておらぬから知らないと思うが、これは最近開発された『瞬間移動装置』というものらしい。あと三、四ヶ月もすればメイヴェリン全体に存在が知れ渡るはずだろう」
「なるほど……。でも、なぜそれがここに?」
「まさか、その装置で俺らを地球に送ろうっていう魂胆じゃないだろうな?」
「汝らのため、開発者から特別に取り寄せたのだ。そしてクルーガ。その『まさか』だ」
王の言葉の最後の方で、近づいてもいないのに扉が開いた。
同時に部屋の扉も開き、人の姿に変身した王の護衛達が入ってくる。
二匹も人に変身して抵抗するが、所詮はただの子供。普段王を守るため鍛えている護衛達に勝てるはずもなかった。
そして軽々と抱きかかえられ、瞬間移動装置の中に入れられてしまった。
「いくら王だからって、やっていい事と悪い事があるわ!!」
「おい! 出せよ!! これじゃ俺達、まるで犯罪者みたいだろうが!」
瞬間移動装置の扉に向かって、何度も体当たりした。鍵を開けようとも試みたが、外から鍵がかかっていて開けることができない。
猫の姿に戻って、引っかいてみたりもした。大体予想はついていたが、やっぱり傷一つ付けることすらできなかった。そして、最後の抵抗も空しく装置の作動を知らせるアナウンスが鳴った。その後装置は激しく揺れ始めたが、その揺れも二十秒ほどで治まった。
王はクルーガとルナの様子を確認するため、鍵のかかった装置の扉を開けたが、そこにはもうさっきまでいたはずの彼らの姿はどこにもなかった。