ギルド本部マスタールーム
リベルブルクのギルド総本部。
城塞のようなその建物の一室。
ギルドマスター室にノックの音が響く。
「入ってくれー。」
書類に目を通しながら老年の男がノックに答えた。
「失礼します。ちょっと報告したい事が…。」
何枚かの紙を持って、制服の男が歩み寄る。
「総長にわざわざ報告するまでも無いかと思ったのですが、気になりまして…。」
書類を渡して男は一歩下がる。
「確かに気になるな…。」
ギルドマスター、大賢者ロシュトゥム。
今のギルドを築いた創設者の一人。
かつて冒険者として、名をあげていた。
ロシュトゥムが若かりし頃のギルドというのは村単位、大きな街にはギルドを運営するグループが幾つか、という状態で現在のように、組織化されていなかった。
また闇ギルドというものが存在していて、あれを盗んでほしい、強盗メンバーを探してる、あいつを殺してほしいなんて、依頼を専門に扱うグループがいた。
もちろん犯罪行為だが、金がいいため手を出す者が多かった。
そんな状況を憂いたロシュトゥムが正規ギルド立ち上げを構想した。
ロシュトゥムの冒険者としての人生の全てを掛けて今のギルド組織を創り上げた。
今でさえロシュトゥムに憧れを抱き冒険者になる少年は多い。
「魔力の様なのですが、波形が少し乱れてる気がしまして…。反ギルド勢力の工作活動なんてことは?何かの魔法装置の試運転でもしてたのでは?」
立て続けに話す長官。
「そんなに心配せんでも大丈夫じゃよ。観測士長官殿が直接現れたあたり、嫌な予感がしなくはなかったがの…。」
「まあ、以前から言われてたからですよ。」
ギルド本部に観測塔という建物がある。
リベルブルクの周囲を常に観測塔の観測機が魔法活動を監視している。
街の中を監視する、狭い範囲を緻密にデータを取るものと、街から二十数キロまで遠い範囲を監視するものがある。
遠距離広範囲タイプが今回は異常な反応を示した。
「そうじゃったな…よし、調査隊を組もう。長官殿にも付いて来てもらいたい。そちらの専門部隊の編成は任せる残りはワシで集めておく。」
書類を机に置くと立ち上がるロシュトゥム。
「了解しました。」
敬礼すると長官は出て行く。
「ついに現れたかの…。」
立ち上がり、窓の向こうを見る。
築いてきた、築かれてきたリベルブルクの街を眺める。
部屋の通信機の前に立ち、話し始める。
「ドルフは、どこにいるかの?」
「…。」
「そうか、ワシの部屋に来て欲しいと伝えてくれるかの。」
「…。」
「ああ、頼むぞい。」
しばらくすると部屋に獣人の騎士が入ってくる。
軽鎧の獣人騎士は敬礼する。
「御用とお聞きしましたが。」
「そんなに改まらんでよい、まぁ座れ。」
「はい。」
ロシュトゥムの机の前のテーブルとセットのソファーに腰掛けるドルフ。
「観測機が少々変わった値を示しての…観測地点に調査に行くんじゃが付いて来て欲しくての。」
「はぁ…調査隊の警護ですか…?」
「俺が?という顔じゃな。」
「あ、いえ。」
「まぁ、肩透かしで終わると思うがの。ドルフ、お前を連れて行くのは保険じゃよ。」
「はい。」
「これでも頼ってるんじゃ、誇ってくれ。」
ギルド軍陸戦歩兵隊長ドルフ大佐。
今のところの彼の肩書き。
陸戦と言っているが別に海戦部隊も空戦部隊いるわけではなく、ロシュトゥム並びに軍総司令が
カッコイイから
という理由でつけているだけだ。
ドルフの育ての親はロシュトゥムとその仲間達だ。
彼の生まれた村は長らく野党の一団に脅され続けていて、人か食い物を常に奪われていた。
ある日村人が決起を企て、当時のギルドに救援を依頼した。
それが野党の連中の狂気に火をつけた。
村は焼き払われ、ギルドの騎士団が駆けつけた時には、幼いドルフが1人残っていた。
冒険者として一緒に駆けつけたロシュトゥムとその仲間達がドルフを預かり育てた。
「お言葉を軽んじた訳では…。」
「分かっておる。ワシとてお主を軽んじたつもりはない。お前も分かっておるだろう?」
「はい。」
まっすぐロシュトゥムを見据えるドルフ。
耳もピンさせる。
「リーネも呼んでいる。通信魔法で呼んでおいた。準備していると思う、お前も準備してきてくれ。」
「はい。失礼します。」
敬礼するとドルフは部屋を出て行った。