リベルブルクへ
「…シス!レイシス!」
レイシスの体がピクリと動いたのをローラが気付いた後、何度目かの呼びかけでレイシスは目を開く。
「ローラ…。」
仰向けになって首だけ起こしてローラの顔を確認する。
「よかった…。」
ローラの目に涙が溜まっていくのがレイシスには分かったが、何も言えなかった。
「ごめん…。」
ローラの腕の傷を見てまた頭を地につける。
ーあんまりちゃんと覚えてない…ー
上体を起こして後ろを振り返ってみる。
「最後の一人はローラが…?」
倒れる直前の事は覚えていたらしい。
トドメを刺さずに倒れた事は覚えていたようだ。
「うん…。」
溜まっていた涙を拭うローラ。
レイシスが倒れそうになるの見て、戦う力がないと判断して隙だらけの最後の男の背後に一気に詰め寄り、背中から剣を突き立てた。
「この…バラバラになってる木と人間は僕が…?」
「覚えてないの…?」
まだローラは心配そうな顔をしている。
「あやふやなんだ…夢見てた様で…。」
「レイシス、あたしに魔法で呼びかけてきたよ。」
「それはなんとなく…。」
自分の力でコレをやったという事に自分の危うさを感じながらどこかに高揚した心があることに、自己嫌悪を感じるレイシス。
ーなんだろう少し…達成感じゃないけど…今までの訓練が報われた気がして嬉しい気が…人を殺して楽しい…なんていうのも違うけどなんだろ…この気持ち…。やだな。ー
「葬ってあげた方がいいかな…。」
ー早く立ち去りたいし、この感覚に触れていたくなけど…ー
「あたしはしたくない…。」
「そっか…。」
すっかりひらけてしまった辺りの状況を見てレイシスはまたぼーっとし始める。
ー風属性の広範囲攻撃だよな…こんな事できるのなんて上級魔術師じゃないか…ー
「ローラがいやならここを離れよう。」
「うん…。」
「あ…。」
何かに気付いたような声。
「どうしたの?」
心配そうに訊ねる。
「マサキチ…。」
あたりを見回すレイシス。
「どこだろ…。」
「あ。」
「よかった。」
両膝をついて座っているローラの膝に登ってきた。
「お前を巻き込まなくてよかったよ。」
なでようとレイシスが伸ばした手をペロペロと舐め始めるマサキチ。
「犬みたいな事するなよ。」
おかしくて笑ってしまうレイシス。
「ホントだね。」
ーあれ…ー
倒れこんだ時に無意識に着いた手の擦り傷が治っていく。
「ローラ、腕出して。」
思いたったようにレイシスが言う。
レイシスが自分で腕を突き出す動作をして促す。
「くすぐったいっ。」
ローラの傷口をマサキチに舐めさせてみる。
「塞がった…。」
「なんなんだこいつ…。」
ーこいつ魔物だったのか?簡単な図鑑に載ってなかったもんな…ー
「とりあえずいこうか。」
「うん、薬いらずだね。」
「そうだね。」
すぐに準備を整えて、その場を後にする。
もう、日はかなり傾いてきている。
周囲を警戒しながら森を進む。
「とっとと…。」
ローラが地面から出た根っこに引っかかる。
「っと。」
レイシスが体勢の崩れたローラを支える。
「大丈夫?」
「うん。」
前を歩くのはレイシス。
後ろにローラ。
マサキチはローラの頭の上。
ーそういえば体力ついたのかな?体が軽い気がするー
「レイシス元気だね。」
ローラがいたずらな笑顔で言う。
「なんだろうね。」
体が軽く足が進む事に嬉しくて実はさっきからニヤニヤして進んでいるレイシス。
前を歩いている理由の半分はにやけ顏を見られたくないから。
ーあんな事あったのに僕はのんきだなー
少し頭から逃がしていた、先程の小競り合いが帰ってくる。
ー殺してしまった…人を…そうか初めてじゃないかも知れないんだー
しばらく開けていなかった頭の引き出しを開ける。
ーあの時…僕に何が起こったんだろうー
遠い記憶…焼けた地面に燃え上がる家、いくつも黒焦げの人間が転がっている中、一人座り込む幼い自分。
ーきっとあの時も今回みたいに…とんでもない魔法を…ー
「レイシス?」
歩みがどんどん遅くなるレイシスの顔をローラが顏を覗く。
「あ、いや…大丈夫だよ。」
「そっか。」
リベルブルクまであともう少し。