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魔導師レイシス、神と悪  作者: tommy
1章 一人前になるという事
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目醒め

「レイシスの手、ケガ?」

本を持つ手に目をやったローラが気付く。


「ああ、アザだよ。小さい頃からあるんだ。たぶん、生まれた時からあると思うんだけど…。」

右手の甲に色の濃い小さなアザがある。


「さっきのでケガしたのかと思った。」


「いやいや、大丈夫だよ。ローラが上手に吹っ飛ばしてくれたから。」

レイシスがローラに感心したのは、その点も含めての事だった。

レイシスの事を掴み上げていた男を単に吹っ飛ばしたのでは、レイシスも一緒に吹っ飛んでしまう。

一瞬で、レイシスを掴む手を離させてから、(実際にローラは投げ飛ばしたのだが)吹っ飛ばしたその早業に驚いていた。


「そっか、良かった。そろそろ行く?」

ローラがきちんと座り直して訊ねる。


「行こうか。」

立ち上がりながらマサキチを肩に乗せる。


「よしっ。」

ローラも立ち上がる。



再び歩き始める二人。

このまま行けば日が暮れる前にはリベルブルクには到着する。


ーもうちょっとしっかりしないとなー

こっそり気合いを入れるレイシス。

「よし。」


「行こー。」


「うん。」


レイシスが返事した瞬間、ローラが剣を抜く。

「どうしたの?」

思わず動揺するレイシス。


「誰か来る…。」

うってかわって険しい顔になるローラ。


「敵…?!」

うろたえるレイシス。


「危ない感じがする…。レイシス、茂みを払った後を追っかけて来てると思うから少し横にそれて進もう。」

こんな状況に慣れた様子の対応をみせるローラ。


「そうだね…。」

街道側へと真っ直ぐ進む二人。

正確にはもう一匹。


しばらく進むとローラが「ムリかも。」と振り返り、「レイシスは茂みの中に伏せてて」と言い残して、来た道を引き返して行った。


ーどうしよう…ローラが無事に帰って来ればいいけど…敵と出くわしたら…僕でも使える魔法で牽制して…これしかないか…ー

普段道具としてしか使わないナイフを取り出す。

ナイフを握って荷物を隣に置いて伏せたままただ待つ…。

ー何で牽制すれば…火かな…うまく出るかな…でも視界塞ぐくらい近づかないとダメだよね…待て待て、森の中でそんなもの放って僕の魔力は強力じゃないけど、もしかしたら自分の退路を塞ぐ事になったら…ー

考えがまとまる前に何か飛んでくる。

声は出さなかったが大きくビクついたレイシス。


「ごめん、レイシス。三人も連れて来ちゃった…。二人は倒したんだけど…。」


「ごめん、ローラ…。」

ローラは左腕から血を流している。

傷は浅そうだが。


「しー、そこで静かに隠れてて。」

ローラは人差し指を立てて小声で話す。

そしていつの間にか先程一本だったはずの剣でなく、少し刀身の短い二刀を握っている。


「こっちから迎え撃つから、少し離れたトコまで誘導する…気づかないとは思うんだけど。」

ローラはまた飛んで行った。


すぐさま剣撃の音が始まる。

音が聞こえる範囲まできていた。


ーローラ…斬られてた…僕のせいだ…ー

状況に集中出来ないレイシス。


剣撃音はレイシスの前方左右を行き来している。


しばらくすると、

「きっと奥にいるぞ!」

明らかに男の図太い声がした。


足音がレイシスに近づく。


ー戦うしかない…ー


「そこに隠れてる!」

前方上方から声がした敵の一人は木の上らしい。


その声にレイシスは動揺する。

ーどうしよう…!ー

冷や汗が吹き出てくる。

ほとんど体は固まって動かない。

もはや、震える事すら出来ない。


「うっ…。」

ローラのうめき声がレイシスにかすかに聞こえた。


「俺が先に片付けてやるッ!」

おそらくローラと戦っていた男の声。


「ローラッ!」

ー斬られたのか!?ー

思わず茂みから立ち上がってしまった。


「ダメッ!逃げてッ!」

しゃがみ込んだローラの姿がかすかにレイシスには見えた。


ーダメだ…逃げ切れないよ…ー

迫ってくる男をしっかりと見据える。


ー魔法が使えないからって逃げ続けてただけじゃないか…今まで…ずっと…!僕がなんとかするんだ!ー

「ああぁぁぁーッ!」

レイシスが叫んだ瞬間レイシスから強烈な発光が起こる。

迫って来ていた男は思わず立ち止まる。

「なんだ…?」


レイシスの背中から炎の様な光が揺らめいている。

茶色かった瞳が青く光って男を貫くほどに鋭く睨みつける。


『ローラ、伏せてて。』

ローラの頭にレイシスの声が響く。


疑問も感じたが素直にうつ伏せになるローラ。

「天使…?」

遠目に見える姿を見てローラがつぶやく。


レイシスの姿を確認してまた迫ってくる野盗とおぼしき男。

「それがどうしたぁ!」


掌を男に向けるレイシス。

強烈なカマイタチが木々と共に地上にいた二人の男をバラバラに切り刻む。

周辺の木がみな切り株と化した。


ドサリと音がした、木の上の男は木から落ちてきた。

すぐに体を起こして膝立ちになって男は持っていた弓に矢をつがえてレイシスに矢尻を向ける。

「こ、この野郎…。」

弱々しく声を上げると矢を放つ。


ヒュッと音がしたがレイシスの少し手前でギンッと鈍い音がして矢は弾かれる様に転がった。


すっかりへたり込んだ男へゆっくりレイシスが近づいていく。

「くそっ…!」

男は何度も矢を放つが何度も弾かれる。

諦めた男は逃げようと足を引きずりながら這っていく。

落ちたときに両足を折ったらしい。

「お前を帰したら…また次の連中が…くるん…だろう…?」

様子が少しおかしい。

レイシスの歩き方がおぼつかなくなり始めている。

「お…前を…帰したら…またローラが…。」

背中からの光が収まり出している。

目の光も落ちてきた。


「なんだ…こいつ…。」

レイシスの様子に気付いて振り返って止まる男。


「ゔっ…。」

男がうめき声を上げた。

男の腹からローラの剣が突き出ている。


レイシスはもう膝をついてしまっている。

「ローラ…。」

ぼそりとつぶやくと倒れこむ。

自ら斬り倒した木々と共に。

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