小休止
世界の北側には帝国と王国の二大国家があり、南側は未踏の地が多く、暮らす種族も把握されていない。
また固有の文化を持っていて、北側の文明を持ってしても解明できないような技術を持っている種族もある。
それを狙い帝国は度々、遠征を行う。もちろん武力解決も辞さない構えで。
王国はそれを守るという態度だが、求める結果は同じだろうと民衆には呆れられている。
南側の住人はまだ原始的な生活をしている部族もいて帝国からは、とくに下等な種族というような感覚があり、その感覚自体は、世間一般まで染み渡っていないが、南側の人間というと争いごとの種のような目で見られ敬遠される事が多い。
ローラもそれを教え込まれて、北側へと渡ってきたのだろう。
「そうなんだ…全然違和感なかったよ…。」
後半ハッとして小声になるレイシス。
「南側の人っていうのはあんまり言わない方がいいかな?」
小さくレイシスが訊ねるとローラはこくりと一つ、返事をした。
「うん、わかった。」
レイシスは自分でもよくわからないがニコッと笑って見せた。
安心させたいのか…逆に違和感ないといいなと思うレイシス。
「あ、そう!君の事ばかり聞いて悪かったね。僕は一応魔法使いなんだ。」
「あたし魔法使えないからちょうどいいね。」
ローラに笑顔が戻る。
「ここからはどうするつもりだったの?」
「んとね…リベルブルクに行くつもりだったよ。」
明るい声に戻るローラ。
「僕もギルドの図書館に行きたかったんだ!ちょうど良かった。」
レイシスの調子が俄然上がる。
「準備は大丈夫?」
レイシスがはやる。
「ちょっと買い物すれば大丈夫!」
ローラが立ち上がる。
ローラの買い物を済ませ、街道へ続く村の出入り口まで来ると、いきなり森へと入って行くローラ。
「どこに…?」
レイシスが唖然として訊ねる。
「こっちの方が近いの。」
振り向かずに答える。
「そっか…。」
トールから自由都市リベルブルクまでは街道が東に膨らむように北に伸びた街道を進む。
ローラの示す方向は間違ってはいない。
「行こうか…。」
ーーー時は進み…
ー僕が急かしておいて結果がこれか…ー
買い物したおやつを食べているローラを見てため息つくレイシス。
ー落ち着いて来たし本でも読もうかな…ー
荷物から本を取り出してパラパラとページをめくる。
「何の本?」
ローラがすぐに反応する。
「魔術書だよ。初歩的なものから中級向けのがざっとって感じかな…ほとんど僕には使えないけどね…。」
苦笑いして見せるレイシス。
「ふぅ〜ん。」
ローラは目を見開いて大きく何度かうなずく。
「でもこの本の魔法のほとんどは頭に入ってるんだ、一応ね。」
「本当に!すごいね。こんなに厚いよ、この本!」
いつの間にかレイシスの前まで来ていたローラが指で厚さを示してみせる。
「使えなきゃ証明出来ないし、意味ないけどね。」
また苦笑いするレイシス。
「…。」
ローラは黙って聞いている。
「あ、ごめん…こんな事ばっかり言って…。」
「ううん、いいの。あたしも自信ないこといっぱいあるし。」
「うん…僕はどうにも魔力を出力する力がどうにもないらしくてね。僕の師匠に言われて散々瞑想したり、えとね…短距離ダッシュみたいな訓練にあたる魔力を全力で放出する訓練とか何度もしたんだけどね…神様は僕に魔法を使わせたくないらしい。」
「頑張ってればいつか報われるよ。」
「だといいな…。でも一つ不思議な事があってね。さっき短距離ダッシュみたいな訓練って言ったでしょ?」
「うんうん。」
おやつの焼き菓子をくわえながら頷く。
「短距離ダッシュしたらさ、どうなる?」
「ふぅっ…てなるかな。」
「でしょ?どんな魔法使いもその訓練をすればそういう感覚を味わうはずなんだ。」
「なるほど…。」
またおやつをくわえたまま頷く。
「僕はその感覚を味わった事がないんだ。」
「えー。」
「僕が思うに魔力の練り方が下手なんだと思うんだ。コツさえ掴んだらいつかきっとバンバン魔法使えるようになると思うんだ。」
「うんうん。きっとそうだよ。」
ローラが笑顔で後押しする。
「ありがとう。」