酒場にて
「僕のレベルすごく低いから迷惑かけるだけかもしれないよ…?」
男達がトンズラした後、レイシス達を野次馬が取り囲んだが、ちゃんと礼をしたいと述べたレイシスが逃げるように酒場へ駆け込んだ。昼間の酒場は人が少ない。
飲み物をおごるというレイシスに
「仲間になってもらったからおあいこ。」
とローラは突っぱねた。
それぞれ買ったグラスをテーブルを挟んで傾ける。
「あたしは適当に決めたわけじゃないんだよ?」
グラスを持って斜め上を見上げながら、ローラは言う。
「え?」
「あったかくて強い感じがしたの。」
ローラは相変わらず斜め上をみている。
「それは僕じゃないんじゃないかな…」
ー不思議ちゃんなのかな…ー
「あ、なにそれ。」
「あ、出てきたな…。」
言いながらレイシスは椅子にかけていた荷物から出て、肩に移ってきたそれのほうを向く。
「こっちおいで。」
差し出したレイシスの手にのっそり歩いて行くのはトカゲだ。
「かわいい。」
レイシスの手の上のトカゲと同じ高さまで顔を近づける。
「でしょ?街道沿いで休んでた時にたまたま寝ちゃってさ、しまったと思って何か取られたりしてないかなと思ったら袋の中にこいつが入っててさ。」
トカゲの背中を指で撫でながらレイシスが話す。
テーブルの上で目をつむってレイシスの指を受け入れている。体長15センチ程のトカゲの体長の半分は尻尾だ。
「へぇ〜、おいでおいで。」
ローラも手に乗っけようと両手をテーブルに乗せてみる。
トカゲはレイシスの指にチョンと押されるとローラの手の上にのそのそ進んでいく。
「よしよし。」
進んでくる様子をみて満足気なローラ。
「名前は?」
片手に乗せて頭やら背中を指で撫でながらローラが訊ねる。
片手に乗ってじっと動かないでいる緑のトカゲ。
なんともおとなしいものだ。
「あぁ…そういえば…。」
「名前あるの?」
「いや、いつも"おーい"とか"おい"とかで呼んでたからさ。」
苦笑いして見せるレイシス。
「君がつけてよ。早くも大分なついてるし。」
ローラの手の上のトカゲの頭を撫でる。
「本当に?何がいいかな…。」
片手を顎に、もう片手はトカゲを撫でている。
様子を見つめているレイシス。
ーパーティ組むっていいな…ー
「ジュウザブロウ!」
「え?」
不意をつかれたレイシス。
「え?嫌?じゃあね…。」
開いた手をまた顎に当てて名前をひねり出し始める。
ーこの子はどこで育ったんだ…ー
「マサキチは?!」
またドヤ顔して見せるローラ。
「いいんじゃないかな…?」
ー基本は変わらないのね…ー
「よしッ!今日からマサキチだよー。」
マサキチの頭を指でくりくりと撫でるローラ。
「よかったな、マサキチ…。」
ーいいのかなんだか…ー
「そういえばさ、君も剣士ならやっぱり剣闘士って感じなの?さっきのも闘気の力なんでしょ?」
思い出したように興味津々に訊ねる。
自分より体格を遥か凌ぐ大男を瞬く間に投げ飛ばす力…
闘士は己の中の気力の様な物を操る者の事を呼ぶ。この力自体を気力とか闘気などと呼んだりする。魔法を繰り出すための魔力とはまた別物だ。
己の中の気力を高めて身体能力を上げるという技術。
ただ身体能力を上げるだけで目が良くなったり反応速度も自動で上がったりするわけではない。
力を使うのはいいが体に反動が来たりもする。
一定の力を発揮するために出来ている体をオーバーロードさせればその反動は当然起こる。
そこで逆に体の負担をカバーするように気力を使う必要がある。
出力できる気力を動と静で上手くバランスを取らないといけない訳だ。
練度の高い熟練者はオーラの様に纏う事から"オーラ持ち"なんて呼称されたりする。
「うん、そうなのかな…?」
ローラは少し困った顔をする。
「ごめん、あんまり話したくなかったらいいんだ…。」
今まで明るい感じから少し面食らったレイシスは慌てる。
「いや、そうじゃないの…あたし南の大陸の出身だからよくわかんなくて…。」
少し小さい声で答えた。