青年と少女
新緑の森の中に冒険者が二人。
木漏れ日が二人をまだらに照らす。
「もうつかれた?」
先を歩くのはまだ若い少女の面影ある冒険者。
拾った枝で茂みを払っていく。
前進しながら後ろの男に訊ねる。
「ハァ…大丈夫…。」
情けなく応答する青年。すでに腰が若干落ちている。
ーもう三時間くらい歩いてると思うんだけど…タフだなこの子は…ー
青年は拾った枝を杖代わりにして歩く。
「少し休もっか?」
突然振り返る先導者。
「うん…ハァ…ごめんね…。」
言い終えると膝に手つく。
「あたしもちょっと疲れたし。」
そう言うと近くにあった切り株に腰掛ける。
「そっか…。」
息の整う様子のない青年冒険者。その場に座り込んでしまう。
ーちょっとか…僕はもうほとんど体力使ったけど…ー
ー誘われた側だけど彼女には僕は迷惑だろうなー
ーなんでこんなに僕は何もできないんだろう…師匠…すみません…ー
ーーー数時間前
現在地から十数キロ離れたトールという村…
ここは大きな街道に貫かれるように位置している。
それ故、冒険者、行商人、軍の行列など様々な階級の様々な職種の者が往来する。
名称は”村”となっているが多くの冒険者が活動拠点にしても困らない程の規模はある。
彼らはここで出会った。
青年はギルドの依頼書を一通り見て外へ出る。
ー僕に出来そうなのないや…ー
朝飯をすませて出てきたばかりで何をしようかと考え始める。
本日の内容は狩猟、討伐、魔物の潜む地での採集などなど…
狩猟というと単なる獣を指定の数、指定の物を狩って得て来るだけ。
無害な魔物も含まれていたりする。
討伐は決まって魔物。
魔物は魔力の影響を受けて魔法を使う力を持っていたり、特異な身体能力を持っていたり…異形のモノがいたりという具合だ。
下級の魔物程見た目だけのものが多い。
「今日はどうしようか…。」
とうなだれた瞬間誰かにぶつかってしまった。
「オイ!どこ見てんだ!」
運悪くガラの悪い連中にぶつかってしまった青年。
「すみません…。」
「聞こえねぇぞ、オイ!」
青年の胸元を掴み上げるハゲ頭のガタイの中年。
この手の輩は大抵盗賊団やら何やらに関わっていて本当に質が悪い。
もちろん青年もそんな事知らない程世間知らずではない。
ーもう…なんて日なんだろう…ー
青年が抵抗を半ば諦めて身を委ねそうになった時、女の声がした。
「やめなさいよ。」
青年がゆっくり目を落とすと自分を掴んでいる男の腕を横から女の子が掴んでいる。
「んだお前…こいつのツレかぁ?」
「あんたからぶつかっていったように見えたけど?」
質問に答えず切り返す。
「あぁ?なんだと?!」
男が女の子に手を出そうとしたところまでは見えた青年が次に見たのは宿屋の脇の空樽に突っ込んでひっくり返った男の姿。
気がついたら埃が舞い上がっているという具合。
「てめー…」
と男の連れが凄む。しかし周りの群衆の女の子に歓声を上げている空気にやや控えめになっている。
「ちくしょう…」
吹っ飛ばされた男を回収して去って行く男。
「大丈夫?」
捨て台詞を吐く男に何の興味も示さず、青年に向き直り手を伸ばす。
「あ、ありがとう。助かったよ。」
突然現れた可憐なヒーローに礼を述べる青年。
「よっと、名前はなんていうの?」
起こしがてらに名前を聞く。
「ありがと…僕はレイシスだ。」
起こされながら答えたレイシス。
「あたしはローラ、よろしくね。」
ニコッと笑って見せるローラ。
「とにかくありがとう。」
頭をかいて礼を重ねる。
女の子に助けてもらったのが少し恥ずかしいのと、ー普通は逆だろーとじぶんの中で突っ込みを入れたくなって少しおかしいのを隠したかった。
「いいよいいよ。あたしあーゆーの嫌いなの。」
むくれて見せるローラ。
「そっか…とにかくお礼がしたいな…。」
レイシスが独り言ともつかない一言をもらす。
「それじゃー…あたしの仲間になって!」
もの凄い名案を思いついた様な顔をするローラ。
「え…?ほんとに…?」
ドヤ顔で見つめ返してくるローラ。