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魔導師レイシス、神と悪  作者: tommy
1章 一人前になるという事
15/29

練習と三人目

「行こう行こう。」

ローラはレイシスの弓の腕前を見たいらしい。闘技場まで行くと立札がしてあり本日は開放しているらしい。


「集団実戦訓練とかやってるって。」

レイシスが立札をさらに読み進める。

人数を設定してターゲットと戦うらしい。その日毎に対象は変わるらしい。


「三、四人パーティからなんだね。今日はやってないみたいだけど。」


「ふむふむ。」


今日は訓練場は個人鍛錬の場になっているようで、剣を振る者も、いれば拳を振るう者、魔術師なのか、瞑想するもの、もちろん弓の鍛錬をする者も。


「矢がどこかでもらえるらしいんだよね。」

キョロキョロと回りを見回すレイシス。


「どこだろうね。」

ローラも一緒にキョロキョロする。


「君たち。」

ギルド職員が話しかけてきた。


「訓練しに来たのかい?分からない事があれば教えるよ。」

気の良さそうな男だ。職員というか制服は軍服のようなので軍人にみえるが。

闘技場が軍の管轄下なので、そこで働く者も軍人ということになる。もちろん職員でもあるが。


わざわざ取りに行ってくれた上に、残ったら持って帰っていいとの事。気前よく矢をくれた。

木で出来た大きな的に向かう。的から一定の距離で線がいくつか引いてある。一番遠くて八十メートルらしい。

レイシスはとりあえず五十メートルラインに立つ。

-まずはこのぐらいからでいいかな-

矢をつがえて的を見つめる。

「こんなもんかな…。」

矢を放つ、その瞬間レイシスの思った感覚とは全く違う感覚が弓から伝わる。

「わっ…。」

引き絞った感覚からは考えられない速度で飛んでいった矢。

的から外れ壁に当たって先が割れ、ボロボロになった矢。


「レイシス頑張れー。」

ローラは特に矢の速度に関心はなさそうだ。


「う、うん。」

矢をもう一本とりながら答える。


-とんでもない暴れ馬だな-

矢を再びつがえる。

-でも何と無く分かったよ君の事-

再び矢を放つ。強烈な風切り音と共に飛んだ矢は的の中を何とか捉えた。

「わーい、わーい。」

ローラはマサキチを両手で持ってバンザイしている。

「こんなもんじゃダメだ。」


その後、数本放った後はほぼ中心を捉えるようになっていた。その後一番後ろのラインからもしばらく練習するともう問題はなくなっていた。

-だいぶ乗りこなせただろう-


「凄いねレイシス!」

ローラが中心がほぼ矢で埋まった的をみて歓声を上げる。


「ちょっと手こずったけどなんとか上手くいったよ。」

弓を持ち替えて腕を回すレイシス。


「君すごいね!」

先程矢をくれた職員が近寄ってきた。どうやら様子を見ていたらしい。


「あ、ありがとうございます…。」

やたらに恐縮するレイシス。森に駆けて行った騎士団の一行の事がよぎってあまり目立ちたくないと考えていた。

ーあんまり構わないでくれ…ー


やんわりとかわし、闘技場を出てきた。

最後に、

「集団訓練にもきてくれよ。」

と案内が書かれた紙をもらった。実戦での君の動きを見たいと言い残して。


「三人からなんだもんね。」

帰り道ローラがレイシスの手にある紙を覗きながらつぶやく。


「そうだね。」


「マサキチいるよ!」


「戦えないよ。」

笑って答えたレイシス。


「お前が人間だったらねぇ。」

肩に乗ったマサキチの頭を指で撫でるレイシス。

目を閉じてじっとそれを受け入れるマサキチ。


「だったらねぇ。」


宿に帰るとローラが朝方手に入れた食糧で晩飯をレイシスが作り始めた。


「何かリクエストあるかな?」


「おいしいのー。」


「はいはい。」

ーなんでもいいって解釈するよー

材料を適当に切って煮立たせる。調味料で味を整えてもう一煮立ちさせれば具だくさんスープがで上がる。冒険者ならではのとにかく食材を入れて煮てしまうという料理。


ーチーズあれば文句ないだろうー

パンと鍋とチーズをトレイがいくつか置いてあったので拝借して持っていく。


「ナイス!」

トレイのチーズを見てビシッと親指を立てたローラ。


「まあね。」

だんだんとローラに対してのリアクションが簡易的になっているレイシス。


「チーズ〜。」

そんな事は気にしていないローラ。


「いただきます。」

ローラが手を合わせてまずチーズから食べる。


ーチーズがこんなにあるのは何故だろう…絶対催促したに違いない…ー

「チーズ好きだよね〜。」

レイシスは半ば呆れた笑みを浮かべて言う。


「うん、おいしいしね。」

口に入れて数回咀嚼して、ほっぺたを膨らませながら答えた。


「そっか。」

ーおいしいし、何なんだろう…ー


「人が作った料理久々に食べた。」

ローラがなんともつかない声をぽつんともらした。


「そっか、僕の朝食もそうだったよありがとう。」

何の気なしに答えたレイシス。


「ローラはこっちに来てからずっと一人で旅してたの?」

スープを口にするレイシス。実は味見していない。ちょっと気になっていた。

ー大丈夫だなー


「うん。」


「どうしたの?」

ふとレイシスがローラの顔を見ると涙を流している。


「わかんない…なんだろ。」

頬を膨らませたまま、涙を拭うローラ。


「なんか嫌な事思い出せたかな…?」


「ううん、そうじゃない…違うの…。」

まだ溢れてくるローラ自身よくわからない感情を拭い続ける。


「あのね、言っちゃいけないって言われたんだけどね、ウグッ…あのね…。」

だんだん泣き方が大きくなってきている。


「ローラいいよ無理しなくて…。」

立ち上がってローラの背中をさする。


「ううん、あのね…あたしね、お兄ちゃんがいたの。」


「そうなんだ…。」


「なんかね、レイシスとお兄ちゃん多分同じくらいの年だから…お兄ちゃんの作った…うぐ…料理最後にいつ食べたかなって、うぅ…思ったら止まらなくなっちゃって。」


「そっか…。」

何をしていいかわからず、何を言えばいいかわからず、ローラの背中をたださするレイシス。


「言っちゃいけないってどうゆう事?」

どうしても疑問に思ったので聞いてみる。


「お兄ちゃんと、最後にね…う、別れた時にあたしにね…お兄ちゃんがいることを人に言っちゃいけないって言われたの。」


「どういう事なんだろう?」


「あたしにも分からない…うぐ。」


「お兄ちゃんの事、忘れろって、うぐ…言われたみたいで、そんなの悲しいって思ってぇー。あ"〜ん、レイシス〜。」

背中をさすっていたレイシスにしがみつくローラ。


「ローラ…。」



優しく抱き返してやればいいのかもしれない

けど、僕とダブったお兄さんの幻影が色濃くなる気がして、余計にローラが辛い思いをする気がして、僕のこの気持ちを出力することも、ローラ気持ちを上手く受け入れる事も出来なかった。



「昨日と真逆だね。もう寝ようか?」

肩に両手を乗せて訊ねる。


「ゔん。」

まだ口の中に咀嚼中の物が入っている。


「飲み込もうね…。」


「ゔん。」



「ふぅ…。」

また今日も一緒に寝ようと言い出すのではとレイシスは思っていたがベッドに誘導すると一人で入って行った。安心のため息をひとつ。


ーローラは立派で一人前だと思ってたけど、やっぱり脆いところもあるんだな…まだ十七歳だもんな、そりゃそうだよな…ー

ベッドに入るまでの短い間に互いに何才なの?という会話をした。


ーそれに比べて僕は五つも年上なのにポンコツ過ぎるな…一人前になるってどうなれば一人前なんだろう…ー


食器の片付けをしてレイシスも床に就く。

今日は宿の主人に言ってあったのでベッドが二つある。

「明日になったら元気になってるかな。」

ローラの方を見てみる。


「…。」

すやすやと眠りについている。


「大丈夫かな。おやすみ。」



夜が明けて部屋に日が差し込む。

朝日に起こされたレイシスはベッドの中に違和感があるのを同時に感じた。

ーローラか…寂しくなって潜り込んで来たかな…ー


目を開けると隣のベッドに寝ているローラが見えた。

ー!ー

素早く振り返ったら危険な気がするのでゆっくり振り返る事にしたレイシス。というより素早く振り返れなかったのでゆっくり確認してみる。

「誰…?」


「おはよう。」


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