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番外その2「24 December」


過去話でほのぼの(?)


白兎視点で他には六花と癒既が出てきます。






 今日は朝から姉さんの様子がおかしい。


 ────いや、今朝からじゃない。ここ一週間程、微妙に変。



 十六夜癒既には普通に接してるくせに、僕が話し掛けると過剰に反応する。





「…………姉さん」


「!? え、何?」


「…………それ、食べるつもりなの?」


「? どういう意味──あ、」




 テーブルの前に座る姉さんの右手には塩胡椒の瓶。そして、テーブルの上には黄身が見えなくなる程悲惨な姿に成り果てた目玉焼きがあった。




「…………かけすぎちゃった?」


「何故疑問系?」


「……何となく?」


「…………はぁ」





 姉さんに呆れて、まだ手をつけていなかった僕の目玉焼きと、姉さんの可哀想な目玉焼きを皿ごと交換する。




「こっち、僕が食べるから姉さんはそれ食べて」


「え…でも……」


「大丈夫だから大人しく受け取って。……今度はかけすぎないでよ」




 本音を言うと、僕は目玉焼きには醤油派なんだけど姉さんにこれは食べさせられない。


 戸惑う姉さんをじとっとした目で見れば、明らかに落ち込んで頷いてから、結局何もかけずに姉さんは朝食をとり始めた。



 普段ならこんな失敗なんてしないのに。

 一体何があったのだろうと思いながら塩胡椒にまみれた目玉焼きを箸で少し切り、口へと運ぶ。





 ────うん。やはり辛い。





 その味に自然と眉間に皺が寄ったのは仕方ないだろう。







+++


「あれ? 白兎、何処か行くの?」




 午後、出掛けようと財布を持って玄関に向かう僕に気付いた姉さんが首を傾げた。



「うん。本屋」


「…………あれ? この間、あのハードカバーの分厚い本、買ってきたところじゃなかった?」


「読み終わったから新しいの買おうと思ってさ」




 十二月も後半。

 月初めに寒くなってきたこともあり、姉さんが購入してきてくれた白いコートを羽織り、灰色のマフラーを首に巻く。



 そして、いつもの靴を履いてからドアノブに手を掛けた。




「じゃ、行ってきます」


「気をつけてね」


「うん」





 姉さんに見送られて家を出た僕は、姉さんに告げた行き先の本屋ではなく、とある場所へと歩いて向かう。





 ────それにしても、姉さんのあの笑顔は何だったんだ?




 目的地へ向かいながら、僕はさっきのやり取りを思い出した。



 あの時、どこか嬉しそうな、安心したような、そんな笑みを姉さんは顔に浮かべていたのだ。




「………気のせいか?」






 呟いてから、考えるのを放棄する。


 悩んだって、顔に色々と出やすいくせに全く心を読ませてくれない姉さんの思惑が分かるわけないと諦めた。






(……とにかく、早くアレを取りに行こう)





 外は今日辺り雪が降ってもおかしくない天気と寒さ。


 僕は早く暖かい場所に行きたかった。








+++



「……何であんたがここにいるの?」




 家の玄関前、そこには姉さんの想い人──十六夜癒既がチャイムを押そうとしている体勢で、居た。




「あ、こんにちは白兎君」


「っ……あのさ、僕の質問に答えてくれる?」




 暢気に挨拶をしてくるこいつに苛立ちが沸く。

 大体、何故こいつは僕を“君”付けするんだ。虫酸が走る。ガキ扱いされてるようだ。



 そんな僕の内心に気付いているのかいないのか。困った様子で十六夜癒既は苦笑した。




「さっき電話があってね。……六花に呼ばれたんだ」


「……姉さんに?」




 僕は舌打ちしたい衝動に駆られたけど、何とか我慢してドアの鍵を開けてやった。




「……入れば?」


「……ありがとう」





 柔らかく微笑み、奴が中へ入るのを見て、僕もその後に続く。




「ただいまー。…………姉さん?」




 いつもなら「おかえり」と必ず返ってくるのにそれはなく、しん、とした静寂に包まれている。



 おかしい。玄関には姉さんの靴があったから留守では無いはず────。




「? 何から静かだね?」



 十六夜癒既も不思議に思ったのか首を傾げた。


 取り敢えずリビングにいくことにして、僕がそこに繋がるドアを開けた、その瞬間。









「白兎! Happy birthday!!」




 パンっ、という音と共に目の前で紙吹雪が舞う。



 あまりにも突然の事で面食らっていると、幸せそうな笑顔を浮かべた姉さんが近づいてきた。



 そして先程の言葉と、今日の日付を思い出し、ようやく僕はこれまでの姉さんの奇行の理由を理解した。




「あ……そっか。今日は…………」



 …………僕の、誕生日。



「あー…。やっぱり忘れてたんだ?」


「いや……いつもはこんなサプライズとか無いし、びっくりしたんだよ」


「そう? 驚かせられたなら成功かな〜」




 姉さんは嬉しそうに言いながら十六夜癒既の元に向かう。



「癒既。ゴメンね。アレは?」


「ちゃんと受け取ってきたよ。はい」


「ありがと」




 十六夜癒既から何かを受け取った姉さんは、その何かを僕へと差し出してきた。




「はい。これ、私からプレゼント。……開けてみて?」




 プレゼント、と言われ、その何か──小さな箱を受け取り、言われた通りに開く。




「………これ」




 入っていたのは月の形をしたシルバーチャームの付いたペンダント。


 チャームには小さな石が一つ付いていて、その裏には「Hakuto」と僕の名が筆記体で刻まれていた。





「すっごく悩んだんだけど……。やっぱり男の子にペンダントっておかしいかな?」




 心配そうな顔で姉さんが言う。僕は勢いよく首を横に振って微笑んだ。




「………気に入ったよ。凄く」




 良かった。と姉さんは嬉しそうにして、僕はふと思い出し、ポケットの中を探った。





「………姉さん。今日、何の日か分かってる?」


「え? 白兎の誕生日…でしょ?」





 僕の問いに首を捻ったのを見て、これは忘れているな、と思わず苦笑した。





「……姉さん。今日は何月何日?」


「…十二月……二十四日?」


「…………まだ、分かんないの?」




 今日は十二月二十四日。

 僕の誕生日ということよりも一般的に知られているのは────。








「………メリークリスマス。姉さん」



「………………あぁ!!」




 僕の言葉で、姉さんはようやく気付いたらしい。

 ────今日がクリスマスイブだということに。




 僕は苦笑をこぼし、姉さんの手を取って、ポケットから出した小さな箱をそこに乗せる。




「はい。僕からのクリスマスプレゼント」



 さっき、本屋に行くと嘘を吐いて僕が出掛けたのは、注文していたこれを取りに行っていたからだった。




「……綺麗」



 姉さんが思わず、といった風に呟いたのを聞いて、僕は安心した。



 僕が贈ったのは雪の結晶をモチーフにしたストラップ。


 姉さんの名前──「六花」をイメージしてこれにした。



「あっ…でも、私、クリスマスプレゼント用意してない……」


「僕はこれ貰ったから、別にいいけど?」




 毎年毎年、この日に姉さんは二つプレゼントをくれる。

 別に一纏めにしてくれれば十分なんだけど、そう言っても姉さんは譲らないのだ。



「う……でも、癒既のもあるし………」




 姉さんが泣きそうな顔をする。僕は失敗したかなと思った。


 けれど、十六夜癒既は姉さんに微笑みかけ首を振った。



「六花。僕は気にしないから……」


「でも……」



「…………そんなに何かプレゼントしたいなら、明日買いに行きなよ。クリスマスは明日なんだし」



 あまりにも姉さんが必死だったから、僕は仕方なくそう言った。


 …………不本意だけど。




 その助言によって、二人は翌日一緒に出掛けて行った。


 本当は物凄く嫌だったけど、姉さんがとても幸せそうだった。


 だから、十六夜癒既を今回は許してやろうと思いながら、僕はクリスマスを過ごしたのであった。






白兎視点のほのぼの?過去編でした。


白兎君シスk((略


本人、自覚はしてます。

唯一の家族なので六花には甘いんですよ。


そして六花の恋人の癒既には厳しいというか……。


それでも六花が幸せなのが一番なので付き合ってるのを嫌々ながら許してる状態ですね(笑)




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