番外その1「心配ゆえの愛の鞭」
サイトで拍手御礼として掲載していたもの。
主に露華視点。
本編第3章終了直後の話です。
「……ねぇ、露華。そろそろ教えてくれるよね?」
オレが人間界に来た訳を話した少し後で、いきなり癒既が訊いてきた。
「…………へ? 何を?」
脈絡もなくてポカーンとしていると、癒既は可笑しそうに苦笑を零す。
え? 何? いったい何!?
「……ゴメンゴメン。ちゃんと質問言わなくて………。
あのね、僕、前に一度訊いたんだけど、その時ははぐらかされちゃったから…………。
僕達の生活費って、いったい何処から出てるのかなぁ? ってずっと不思議に思ってて」
「え? ……………あ、あぁ。そのことか……」
オレはようやく理解出来てホッとした。
オレにはまだ隠し事があるからな……。一瞬、それがバレたのかと思って心配したじゃんか………。
「オレが──オレ達が天界を抜け出す前に天界を離れた組織のメンバーがいてさ。そいつらが人間界で仕事して稼いだお金を少しずつ貰ってて、それが生活費になってんだよ」
「じゃあ、そのひと達に感謝しないとね」
「一応、お礼にそいつらの頼みごととか聞いたりはしてるけど、ホントに頭上がんねーよ……」
オレは苦笑して世話になってる奴らの顔を思い浮かべた。
「………ふむ、そうか。……俺も働こうか……」
「え゛!?」
アストが呟いた瞬間、勢いよくアストを見たのはオレでもなく癒既でもない。雪吹だ。
「何を驚いている?」
「だ、だって……」
「人間界でアルバイトくらいした事はあるぞ? ……人間に化けて」
「何か意外……」
確かに雪吹の呟きには頷ける。
アルバイトをする混沌の支配者──全く想像出来ねぇ……てか、ちょっと笑えるかも。
「……露華。今、笑ったか?」
「へ!? い、いや!?」
慌てて否定したらアストから不穏なオーラが……。
げ、ちょ、悪寒がっ…………。
「…………はぁ」
「全く……」
「…………」
思わず自分の身体を抱き締めていたら、アストは溜息してから。雪吹は呆れ眼で。癒既は黙ったまま苦笑をしてオレを見つめてくる。
え、な、何なんだよその眼差しは!?
訳分かんなくて若干パニック。そしたら雪吹が口を開いた。
「……こんなんでこれから平気なのかな?」
「え?」
「少し鍛えた方がいいかも……」
いっぱい疑問符を浮かべるオレを置いて癒既が雪吹に言った。
え、ちょっとマジでなんなの!?
「…………アスト。頼める?」
「……分かった」
…………何が分かったんだ?
話についていけないオレをスルーしていた三人は互いに顔を見合わせてから頷きあった。
????
「ぐぇ」
「変な声を出すな」
アストが咎めるように言う。ちなみに変な呻き声を上げたのはオレ。
だって仕方ないじゃん!?
突然首根っこ掴まれて持ち上げられたんだぞ!?
首絞まるっての!!
てか、何だよマジで!
助けを求めようと雪吹達に視線を送ると、二人は微笑み(癒既のは純粋な感じで、雪吹のはなんか黒かった)をオレに向けるだけ。
そのままオレはリビングから別室に連行されて、一時間程アストから放たれる殺気をずっと浴びました。
………こ、怖かったじゃ言い表せねぇよオオオォォォっっ!!!!
この出来事は無論、オレのトラウマの一ページに刻まれた…………。
…………
ちなみに、オレとアストがリビングを出て行った後の話。
「あれくらいの殺気でびびってたら、これからが思いやられるよ……」
先程アストが露華に放った殺気はほんの微量。
それくらいで怯えてたら天界相手に戦えるわけない。
そう三人は同時に思ったのであった。
つまり、今回のことは三人から露華への愛の鞭。
露華を少しでも精神的に鍛えようとしたための行動なのであった。
「まぁ、露華は元々戦闘員とかじゃないみたいだからね。……雪吹も死刑執行人ではあったみたいだけど戦うことなんて無かったよね?」
「あー……。そうだけど、アストに出会ってから時々扱かれてたんだよ。多分、今、露華がアストから受けてるのより酷いのを」
「…………アストって、雪吹史上主義の溺愛保護者かと思ってたんだけど、実は雪吹も厳しかったんだ?」
「……うん。まぁ。──癒既も結構言うんだね……」
雪吹と癒既との間にそんな会話があったなんて知らないオレは、訳の分からないまま数日は立ち直れなかったとさ。