第8話 例え貴方に監禁されたとしても――
ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
婚約式まで後数日と迫ったある日――。
「え⁉ メアリーがロガンド商会の悪評を広めている⁉」
「ああ、そうだな」
「た、大変申し訳ございません!」
そう言うと、私は思わず身を屈めてしまいました。
ドレスが汚れる事など、その時は考えられなかったのです。
かの有名なロガンド商会に泥を塗るような真似……それを広めているのが義妹だと知って、血の気が引きました。
「義妹が大変失礼を……っ!」
「ナディア、落ち着いてくれ」
「でも!」
「落ち着いてくれ。これは想定内の事だ」
「……え?」
思いがけない言葉に呆然とすると、アルベルト様は私を立ち上がらせ、ゆっくりと手を取り椅子に座らせると、次のような事を語られました。
元々、私が居なくなってから各地で私を探しているという健気な妹を演じていた事。
そして、私がロガンド商会の副会長であるアルベルト様の元にいると知り、何とか私の悪評を流し、婚約自体を破断にしようとしている事。
そして、そんな私を妻にしようとするロガンド商会の副会長は女性を見る目がないと、噂を流している事。
どれを聞いても顔面蒼白にしかなりませんでした……。
「そこで、我がロガンド商会も噂雀を囀らせる事にしたんだ」
「噂雀……ですか?」
「聞いたことは?」
「お金を支払えばあらゆる噂を流してくれるとだけ……」
「うむ、我が商会でも噂雀は雇っている。そこで『真実』を流すことにしたんだ」
「真実……ですか?」
思わぬ言葉に顔を上げると、アルベルト様は笑顔で言葉を続けられました。
「フィズリー家には迷惑が掛かるから後で慰謝料を払うが、『かの有名なフィズリー家に婿養子に入ったロダと言う男は、家にも寄り付かず愛人の家で生活している』
それと『その連れ子であるナナリーは男遊びが激しく、被害妄想も激しく、義姉ナディアの婚約者を寝取り、結婚式を破断にまで持って行った悪女である』とね」
「事実……ですね」
「そこでもうひとつ事実を流す。『傷心していたフィズリー家の唯一の働き者の娘、ナディアを、ロガンド商会の副会長が見初めて婚約をする。家にいたら義妹から殺されるかもしれないから、先だって保護されている』これも事実だからな」
「そう……ですね」
「今、街中ではナナリーの言葉より、我が家の噂雀が囀っている声の方が大きい。ナナリーたちは身を潜める程、小さくなっているそうだぞ」
「まぁ!」
その言葉を聞いてホッとしました。
ロガンド商会に多大なる迷惑を掛けたのは間違いない事かも知れませんが、真実の言葉の方がきっと面白かったのでしょうね。
ナナリーたちが身を潜める程小さくなるなんて、想像もつきませんけれど……。
「君が心配するようなことは一切起きていない。寧ろ、あの義妹の方が身を潜めている方が不気味ではあるが、監視をつけているから大丈夫だろう」
「まぁ、監視を義妹につけているのですか?」
「何せ、あの義妹だからね。予期せぬ行動をとるとも限らない」
「そう……ですね」
アルベルト様の言う事は御尤もです。
あの義妹が何をしでかすのかは分からないのですから、監視をつけるのは大手商会としては当たり前かもしれません。
「それに、前もって情報を知っていれば、いざと言う時……君を守れる」
「アルベルト様……」
「俺は何が起きても、何があっても。ナディア、君を守ると誓っているんだ」
その言葉が嬉しくて涙が零れてしまいましたが……優しく抱き寄せてくれた彼の腕の中に寄り添うと、アルベルト様が強く抱きしめてくださいました……。
「……君を、失うつもりはない」
「ありがとう……ございます。私は果報者です」
涙をそのままに嬉しくて微笑むと、大きな手で頬を撫でられ、見つめ合う時間。
嗚呼――私、この方が本当に好き。
年下だからと心のどこかで線引きしていたけれど、それを無しにしても……もう戻れないほど愛してしまっているんだわ……。
「キスは……我慢する」
「はい」
「その代わり……頬に」
その言葉通り、頬に口づけされ、顔が真っ赤に染まりましたけれど、それはアルベルト様も同じこと。
そっと彼の身体に寄り添い、私は行動で気持ちを伝えました……。
こんなに幸せな事はない……。アルベルト様に出来る事は、もっとしたい……。
「私に出来る事が、もっとありましたらいいのに……」
「なら……俺の手の届く場所から、二度と離さないという意味になるが?」
そう笑って口にしたアルベルト様の頬に手を添え……「構いませんわ」と微笑むと、彼は私を強く抱きしめた。
私は彼の肩に頭を乗せて頷きました……。
――それで貴方が安心できるのなら、私はここに居る。
――この場所を選んだのは、私自身なのだから。
そう彼の耳元で囁くと、アルベルト様は何度も額に、頬にキスをしてくれて、私は幸せの絶頂にいたかもしれません。
義妹が苦しんでいる事に心も痛まず、ただ、アルベルト様の為の自分を大事にしたいと、ようやく思えたのです。
「君を心から愛してる……今も、昔も変わらず君だけを」
「私も……心の底からお慕いしております……」
まだ貴方との出会いを思い出せないけれど。
それでも、この気持ちに嘘は無いから。
嗚呼、アルベルト様。
私は貴方を心より――愛しています……。




