第6話 それからの生活は一変して
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アルベルト様との生活は、本当に今までの私の生活を一変させました。
何せ「狭量ではない方」だと、周囲からは聞いていましたから、御屋敷の中のみで生活。
男性との会話もロゼとアルベルト様のみで、話し相手といえばシシリーくらい。
それでもやっとハウスメイドを雇ったり、料理人の女性達を雇う事になり、御屋敷の中が華やかになりました。
まだ仮の婚約者とは言え、女主人として振る舞わねばならず、慣れない事ばかりです。
中にはアルベルト様の御手付きになろうと必死になるメイドもいましたが、そういう彼女たちはシシリーさんに淘汰されて行きました。
「若いメイドは直ぐに御手付きになんて考えていけませんわね!」
「でも、それだけ魅力的な方だもの、夢を見る気持ちはわかるわ」
「ナディア様はお優しすぎます! きっちりと締め上げないと!」
「そのきっちり締め上げるのはシシリーがしてくれるでしょう?」
「勿論です!」
「ふふふ」
ハウスメイドと言っても、元は貴族の娘たちが殆ど。
私の様な庶民に仕える等嫌な者も多いでしょう。
自分の事は自分で出来るとはいえ、彼女たちに任せていてはどんな嫌がらせを受けるかも分からない……というのもありますが。
そう考えなければ、胸の奥がちくりと痛んでしまいそうだった。
幸い私の髪はストレートのキャラメルブロンドなので、髪を梳かすのには苦労はしませんでしたが、わざと髪を絡ませて引っ張るメイドもいたのです。
「痛っ!」
「まぁ、ナディア様申し訳ありません」
クスクスクスクス。
そんな事も一度や二度ではなく、出来るだけアルベルト様には迷惑をお掛けできないと思っていましたが――見ている人は見ているのです。
無論一部のメイドたちですが、彼女たちはシシリーさんに通達し、私が陰で嫌がらせを受けている事を知り大激怒。
屋敷の半分のハウスメイドを次の斡旋先を書かずに追い出し、新しいハウスメイドを雇い直しました。
今度は既婚者だったりご年配になった方に変更された。
残った残った若いメイドたちは、守れず申し訳なかったことを伝えてくれて、快く彼女たちを私付きのメイドに召し抱えました。
ここまで来るのに一カ月……。
メイド問題とは根深いのだと改めて痛感しました……。
そう簡単に終わるものではないのだと、身をもって知りました。
「メイドたちの一部が君に嫌がらせをしていたという通達を受けている。今のメイドたちは大丈夫な人選か?」
「ええ、シシリーさんに通達してくれた優しいメイドたちで集めています。ご心配には及びません」
「そうか……。やはり若いメイドは駄目だな。直ぐ御手付きになりたがる。俺はナディアしか愛せないというのに」
「でも、夢を見たい気持ちも分からくは無いわ。アルベルト様はとても美丈夫でいらっしゃるから、夢を見たい女性は多いと思いますもの」
「だが、俺の心は幼少期から君に一途なんだ……」
「まぁ、そんなに幼い時に会いまして?」
「む、むう……」
幼い子供達と沢山遊んだ記憶はありますが、こんなにも美丈夫になる男の子はいたでしょうか……。記憶の中を探りましたが……黒髪に黒い瞳……可愛い男児。
今は思い浮かばなかったわ。
「何処かで会ったとかは、ありますの?」
「それを言ったら最大のヒントになってしまうだろう?」
「もう、思い出そうにもヒントが無いと思い出せませんわ?」
「俺の我儘なんだ。どうか思い出して欲しい」
そこまで懇願されては思い出すしかありません。
是が非でも思い出してみせましょう。
そんなある日、ようやく実家から私の荷物が届き、屋敷に運び込まれました。
男性が多く私は話す事は出来ませんでしたが、その日ばかりは休みを取ったアルベルト様がてきぱきと指示を出し、衣類や靴、鞄等必要最低限の品を送ってくれた母には感謝です。
使い慣れている化粧品も届き、やっとホッとします。
アルベルト様が用意した化粧品は貴族御用達のもので、高くて使うのが怖かったのですが――。
「これから先、我がロガンド商会の若会長の婚約者として君は見られる。服も化粧も使う物は全て一級品でなくてはならない」
「まぁ……。でもドレスは」
「君の母上に頼んで色々と生地を持ってきて貰って、今度する予定だ。将来の妻の家にもどんどんお金を落とさないとな!」
「それは大変嬉しいですけど……義妹が目をつけそうで」
「ああ、それならとっくに君を探し出そうと動き回っているぞ」
「え!?」
初めて聞く言葉に目を見開いて驚くと、なんでも義妹は私が誰かに連れ去られて戻ってこないと周囲に言いふらしているようなのです。
知っているのはあの場にいた従業員とお母さまくらいだけれど、口止めしているのでしょうね……まだアルベルト様とは気づかれていない様子。
「これだけ盛大に引っ越しをしたとなると、もうバレてしまうのでは?」と聞くと、アルベルト様はニッコリと微笑まれました。
「〝どうせ姉を連れ去ったのは禄でもない男に違いない。お可哀そうなお義姉様〟……だったかな?」
「まぁ!?」
「それが我がロガンド商会だと知った時の顔が見物だと思わないか?」
「それは……見物でしょうけれど、ロガンド商会にご迷惑を掛ける義妹しか想像つきませんわ……」
「そこは徹底させている。『ナナリー・フィズリーと名乗る女性が現れたら、何ひとつ商品を売らないように。その連れが居ても一緒だ』と、既に通達済みだ」
「本当に色々と手を尽くしてくださってありがとうございます」
益々私に矛先が向きそうだったけれど、私は屋敷の外には出ないのだから……。
そう思い込まなければ、また心がざわついてしまいそうだった。
そこだけはホッと安堵しながらも、近々アルベルト様のお父様もようやく時間が作れそうで、その為にお母さまを呼んで私のドレスを仕立てるのだと仰いました。
その際も「ナナリー・フィズリーの出入りを禁じる」と屋敷者達に通達するらしく、破れば紹介状なしで外に放り出す事という徹底ぶりでした。
「君も母親と会えなくて寂しかっただろう。色々と話を出来る時間も設けるからな」
「――有難うございます!」
こうして運ばれてきた荷物をメイドたちと解き、中に入っているドレスや靴や宝石などをクローゼットに仕舞い込み、私が作っていないドレスも幾つか入っていたので、これはお母さまからの贈り物だろうと直ぐに解りました。
「お母さま……有難うございます」
本当は柔らかい色合いのドレスが大好きでしたが、義妹が煩く着る事が出来なかったのです。その為、これでもかと言わんばかりに柔らかい色合いの私に似合うドレスが沢山届いていました。
義妹の手前、シックな色合いが多かった私ですが、屋敷の中では華やかな衣装で過ごせそうだわ。
それだけで心は晴れやかで、如何に私が義妹に気を使って生きてきたのか、改めて気づいた瞬間でもありました。
「ねぇ? 今から着替えてもよろしいかしら……。お母さまが作って下さったドレスを着て……アルベルト様に会いたいわ」
「勿論ですわ!」
そう言って嬉しそうにしてくれる私付きのメイドたちにより、美しくも柔らかいドレスに身を包み、髪も美しく結い直してからアルベルト様に会うと――。
「まるで春の妖精だな……。とても美しい……」
「そう言って頂けると嬉しいですわ」
そう言ってお互いに手と手を取り合い微笑み合ったその時でした。




