第5話(閑話) その頃実家では――
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――ナナリーside――
お父様は相変わらず愛人の家に入り浸り、私は姉の婚約者を奪いはしたものの、結婚しないのだと知ってから愛情が覚めてしまって、前と同じように男友達と遊ぶようになった。
近所では「家にも帰らない嫁の貰い手の無いナナリー」なんて言われてるけど、知った事じゃないわ。
私は男たちに愛されてるもの。
嫁の貰い手なんて腐るほどあるわ。
ただ、私はいい男と結婚したいの。
顔も格好良くて背丈もあって、程よい筋肉がついていて、それでいて何より金持ち。
そんな全てが揃った男性と言えば――巷で有名なロガンド商会の副会長よね!
いつか見初められるって信じてるの。
だって私はとっても可愛いから!
姉とは違って華やかで美しい私こそが、ロガンド副会長の隣に相応しいわ!
そんな事を思いつつも、姉の結婚をダメにした時はとっても気持ちが良くて。
お義母様には物凄く叱られて呆れられて蔑まれたけど、お父様は「こんなに美しかったら男が放っておかないさ」と庇ってくださったわ。
本当にそう。
お父様の言う通り。
男が放っておかないのよ。
そんな気分よく男たちと遊んで飲んで騒いで……それから久しぶりに古臭い店に酒の匂いをそのままに入ると、従業員は顔を顰めていたけれど、店と同じくらい古臭い姉が居なかった。
「あれ~? お義姉様は~?」
「「「……」」」
「ちょっと、私が聞いてるんだから答えなさいよ!」
そう怒鳴り込んだ時、奥の部屋から姉によく似たお義母様がやってきて、思わずドキリとした。
すぐに「酒臭い」と私を蔑み、まるで私が哀れみたいじゃない!
「ねぇお義母様、お義姉様は何処に行ったの?」
「とある方がお越しになって、その方の家に行きましたよ」
「へ――? なんで?」
「貴女に話しても理解しないでしょう」
「なんでそうやって決めつけるの!? 私、何か間違ったことしたぁ⁉」
「店で怒鳴りつけて来て、しかも酒の匂いをそんなにさせている貴女が言える立場ですか?」
「ッチ」
舌打ちしてソファーにドカリと座ると、従業員達は蜘蛛の子を散らすように去って行った。
私の何処が悪いのよ。周囲の従業員の方が礼儀がなってないじゃない!
「あーあ、折角気分がいいからお義姉様とお話したかったのになー?」
「貴女と話す事なんて何もないと思うけど?」
「えー? 私は話したいことが、いーっぱいあるの! 婚約破棄されてどんな気分? とか、結婚破断になってどんな気分? とか! 私が盛大に笑う為にお話したかったのにー!」
そう言って酒ビンをグラスに入れずそのままラッパ飲みすると、お義母様から酒ビンを奪い取られ、思わず睨みつけた。
「そうね、貴女の功績のひとつかもしれないわね」
「は?」
「フィズリー家のエドガー如きと結婚しなくて済んで、ホッとしているわ」
「は? どういう事?」
「さぁ? 少なくともあのエドガーと言うドブネズミと結婚させなくて良かったと思っているわ。貴女とお似合いだものね」
そう言われて私は頭にカッと血が上った。
「――私をドブネズミって言いたい訳⁉ お父様にも愛想を尽かされて浮気されまくってる癖に!」
「馬鹿ね。こっちに来て欲しくないから浮気を黙認してるだけよ。誰があんな屑と一緒に居たいですか。ご冗談でしょ?」
「ふ、夫婦の癖に!」
「あら? 貴女とあの男が店の前で土下座までして動かなかったから、渋々了承しただけですよ? 忘れたの? ああ、貴女は忘れているでしょうね? 惨めで滑稽だったもの」
――確かにお父様がこの家の婆……つまりお義母様と結婚するのに土下座したのは事実だし、親戚のおじさまも土下座して必死だったのは覚えてるけど……。
今頃そんな昔の事を蒸し返して……っ!
気分が悪いわ!
「嫌ならいつでも離婚届を喜んで提出しますよ。そうなったら貴女方、どこに行くのかしら?」
「そ、それは」
「行く当てはある? あるなら喜んで今度、離婚届を教会に提出するべく用意するわ」
「――もういい! それよりお義姉様は! 何処! 何処に行ったのよ!」
「とある若いお金持ちの男性に見初められて、この家を出て行ったばかりよ」
「ウソ……」
今なんて言ったの?
若いお金持ちの男性に見初められた?
どうしてあんな女が……。
私の方が、ずっと価値があるのに。
そう思わないと、胸の奥が冷たく崩れてしまいそうだった。
「今度ちゃんとした挨拶に戻ってはくるみたいけど、とても素晴らしい男性に見初められたと思うわ。ところで、貴女はどんな男性に見初められるのかしら? 言い寄ってくる男性の中に素敵な方はいらっしゃるのかしらね?」
「――煩い! そもそも古臭くて貧乏くさいお義姉様が金持ちに見初められる筈無いじゃない! そっちこそ嘘を言わないで!」
「信じるも信じないも、貴女が決めればいいわ。私はやっとホッとしているの。……少なくとも、私はもう後悔していないわ」
「~~!」
そう言われ、カッとなって立ち上がり机を蹴り上げてから店を出ると、私は走ってお友達の男性の家に転がり込んだ。
お義母様に言われたことは許せない事だったし、私の事を嫌いなお義母様も大嫌い!
私はこの世で一番可哀そうな娘で妹だわ……。
――こんなにも可愛いのに!
そもそも姉を連れて行ったって言う男は誰よ!
意地でも姉を探し出してやるわ!
「ねぇ、お義姉様がどこかの男性に連れて行かれたみたいなの。お友達にも伝えて頂戴……。お義姉様が心配だわ」
「分かった。知り合いにも頼んで君のお義姉さんを探そう」
「ありがとう……っ!」
そう言って人の良さそうな男友達や、私と似たタイプの女友達に触れ回って姉を探させることにした。
ただひたすらに居なくなった姉を心配する優しい義妹を演じていたのだけど、姉の情報は全く出てくる事はなかった。
「一体何処に行ってしまったのよ……」
ストレスの発散口だったのに……これじゃストレスも発散出来やしない。
イライラは募るばかりで、姉が見つからない間、酒を呑んではストレス解消していく他、私はストレス発散方法を知らなかった――。




