第4話 アルベルト様を信じてみようと思います
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「それなら――料理人を全て女性にしてはどうでしょう?」
「料理人を女性に?」
「男性だと私が料理する可能性を視野すると嫌なんですよね? なら女性にもチャンスを与えるべく雇っては如何でしょう?」
そう私が告げると、アルベルト様は暫く無言になり考え込んでいたけれど「君が男性と会う機会が減るのならそれでもいいな」と呟き、先日商業ギルドに頼んだ求人を全て女性に変えてくれる事になった。
メイド長と執事は雇っていたらしく、ふたりを呼ぶとその旨を伝え後で執事の方が商業ギルドに連絡して来るらしい。
そして、ふたりに紹介して貰えることになった。
「俺の婚約者となるナディア・フィズリーだ。かの有名フィズリー洋服店の本当の娘さんだ。とても大事な人なので失礼等無いように心がけてくれ」
「おお、かの有名な……畏まりました。ナディア様、私の名はロズと申します。困った時は何なりとお申し出くださいませ」
「わたくしはメイド長のシシリーです。困った時は何なりとお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます。お2人とも、どうぞよろしくお願いいたします」
こうして挨拶が終わり、ロズさんは商業ギルドへ向かい、私達は移動してリビングに向かうと、そこでシシリーさんに紅茶を入れて貰い頂いた。
何でもアルベルト様は帰国して暫くは仕事に飛び回っていたのに、急にこの屋敷を購入し、一週間で家具を揃え、現在急いで求人を出している所なのだとか。
思わず彼を見ると、フイッと顔を背けられたので、恐らく私の結婚の諸々を知って慌てて用意したのだろうと言うのは、何となく理解出来た。
何でも一人でこなせてしまいそうな男性なのに、慌てている所なんて想像付きにくい。
それでも私の為に必死に用意して下さったのだったら、これに勝る喜びは無かった。
「アルベルト様が急いでいらっしゃったのは分かったのですが、それもこれも全てナディア様の為でしたのね」
「それは無論、愛する女性が何処の馬の骨ともわからん男と結婚させられそうになっていたんだぞ!? 慌てもするだろう?」
「それはそうですが、旦那様の想いが成就なさってホッとしました」
「あの、シシリーさんとロゼさんは昔からアルベルト様を知っていらっしゃるんですか?」
「ええ、私は大旦那様……アルベルト様のお父様の御屋敷で長い事メイド長の補佐をしておりました。ロゼは執事の補佐を」
「なるほど」
通りで少しご年配の筈だと思いつつも、とてもしっかりした雰囲気を感じていたので安心して屋敷をお任せできそうでホッとする。
私の様な歴史ある店を持っていても、庶民では到底こんな素晴らしいお屋敷に住むことは叶わなかった事でしょう。
それもこれも、飛ぶ鳥を落とす勢いで繁盛しているという【ロガンド商会】の副会長様の住む屋敷ならば、誰も文句のつけようもないわ。
そんな事を思いつつも、アルベルト様の仰った言葉を心の中で反芻する。
自分は狭量がないから、他の男性との会話は止めて欲しいというものだった。
でも、ロゼは良いのかしら?
「アルベルト様? ロゼとの会話は大丈夫なんですか?」
「ロゼならば俺の事を理解しているので安心出来る。大丈夫だ」
「畏まりました」
「君を軟禁する事になってしまって申し訳ないが……嫌だろう?」
「ご自分で言っておきながら、嫌だろうは無いでしょう?」
「う……」
「無論、貴方がそれで今以上にお仕事に邁進出来ると仰るのでしたら、軟禁されようと思いますじゃあ、代わりに、おやつ付きでお願いしますね?」
「――本当か⁉」
「まぁ……! ナディア様宜しいので?」
私が軟禁されても良いと伝えると、アルベルト様は目を輝かせて喜びの表情になり、シシリーさんは不安げな様子で私を見つめた。
ここまで来たのだもの。
今更出戻りも出来ない……返品もされたくない。
そして何より、私の事を昔から知っているというアルベルト様を信じたい。
「アルベルト様は私と昔会ったことがあるそうなんです……。私はまだ思い出せませんが……きっと素敵な出会いだったのだろうと思います」
「ああ、とても素敵な出会いだったぞ」
蕩けるような笑顔で私の手に大きな手を乗せる彼に、私は頬を染めて微笑み「その出会いを大切にしているアルベルト様を、信じようと思います」と伝えると、シシリーさんは目頭を押さえて「そう言う事でしたら……」と何度も頷いていた。
「このシシリー、必ずやお屋敷の中でナディア様がご満足頂けるように頑張りますわ」
「……ありがとうシシリー」
「ですから旦那様!」
「何だ!」
「しっかり稼いでしっかりナディア様を不幸にすることなく! しっかりと将来の奥様をお守りくださいませ!」
「言われずとも心得ている!」
熱いわ! ロガンド商会ってこんな熱い人達が多いのかしら!
でも、なんだか嫌いじゃないわ。
シシリーさんも人の良さそうな方で安心するし、何よりアルベルト様が信頼している方だったら安心だもの。
「アルベルト様。無理のない範囲でお仕事頑張ってくださいませ」
「無論だ」
「でも、この婚約はアルベルト様のお父様であらせられる会長様は御存じなのですか?」
「ああ、御存じだ」
「では、一応公認ではあるんですね……ホッとしました」
「父は忙しくて俺のように直ぐに時間が作れなかったんだ。後日然るべき段取りを経てちゃんとした書面も用意し、ナディアを正式な婚約者にするから……。まるで君を攫ったかのように連れて来てしまいすまない」
「まぁ、今頃お困りになるの?」
「まさか。君に嫌われてないかだけが心配なんだ」
そう言って眉を下げて困った顔をするアルベルト様に、私はクスリと笑うと大きな手にゆっくりと手を重ね、彼の黒い瞳を見つめて口にする。
「嫌いに何てなりません。貴方は仰いましたね? 浮気もしないと。愛し通してくださるのでしょう?」
「無論。命に代えても」
「でしたら、私もその気持ちに返すだけです。大事にして下さいませ」
「――ありがとう!」
こうして、怒涛の一日が過ぎ去り……翌日から私の生活は一変する事となる。
――その頃実家では。




