第3話 アルベルトさんと私は昔の知り合い?
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敢えて言わなくても分かる。
貴族専用の御屋敷って凄い……。
キッチンもお風呂もトイレも全てが最新式。
フィズリー家は古くからある家なのでどれも旧式……と言うとアレだけど、古い物を使っていた。それが最新式……。
「凄いですね……。どれもこれも最新式で……使いこなせるかしら」
「ははは! 説明書なら全部取ってあるから後で読むといい。君の部屋を案内した方がいいな!」
「え?」
「俺の部屋の隣だ! 仮の婚約とは言え、直ぐに俺と同じ部屋は嫌だろうと思ったのと、プライベートルームはお互いあった方がいいと思ってな!」
「い、いつから私と暮らすつもりで用意してたんです⁉」
「さて?」
そう言って惚けるアルベルト様に不信感は少しできたものの、中を覗くと部屋と呼べる一式の物が揃っていて、クローゼットの中はハンガーが沢山掛かっていた。
色合いは淡いグリーンと淡いイエロー。それに白い色合いの家具で統一されていて……とても落ち着く部屋だった。
「素敵……」
「君の好みに合っていただろうか?」
「ええ、とても好みの色合いだわ」
「良かった……。今日からは此処を使ってくれ。もし必要な物があれば都度教えてくれたら助かる」
「これ以上何かをして貰う訳には……」
「なら、色々と俺の世話を焼いてくれると助かる。近々君用の馬車も届く予定だ」
「馬車まで⁉」
流石に怖くなって後ろに後ずさると、彼は言い難そうに「実は……」と語りだした。
何でも、私の事は随分前から知っていたらしい。
いつから知っているのかは教えてくれなかったけれど、海外の大学を飛び級で卒業してきて真っ先に調べたら――。
「君が結婚式場で結婚破断したという情報で、肝が冷えたと同時にホッとした。しかも破断した理由は、君の義妹と婚約者の浮気騒動だと言う情報までは入っている」
「そんなところまで……」
「よって、君についた傷はひとつもない。まだ籍も入れてなかったのだから戸籍に傷がついた訳でもない」
「それはそうだけど……」
「ナディア、俺は仕事熱心な君が本当に好きなんだ。今も、昔も」
「アルベルト様?」
「ちゃんと話せる機会が来たら話す。それまではどうか、俺を信じて欲しい。無論、直ぐに手を出さない。出す際にはきちんと了承を得る」
「了承を得られても困りますが……」
「ははは! ならまずは俺の事を同じくらい好きになって貰わんとな!」
その自信は何処から来るのか分からなかったけれど、彼と一緒に居ると何処か安心する。
恐らくだけれど、私の勘が彼を信じていいと言っているんだと訴えているのかも知れない。
エドガーさんはヘラヘラしているだけで店の事は全く手伝った事なんて無いし、仕事をしている所が遊び惚けていて好きになれなかった。
でも、アルベルト様は自分の力を出し切って仕事をシッカリしている人だ。
自分の仕事に誇りをもっている人は素晴らしいと思う。
私に関する事は、昔どこかで知り合っていたのだという事だけは分かった。
つまり、私が忘れているだけに違いない。思い出さなくちゃ……。
「あの、アルベルト様?」
「なんだ?」
「私とアルベルト様は、昔どこかで会ったことがあるんですよね?」
「あるな!」
「何かヒントになるものはありませんか?」
「それを言っては、直ぐ思い出してしまうかもしれんだろう?」
「え、直ぐ思い出して欲しいんじゃないんですか?」
思わぬ問いに私が驚くと、彼は少し考えた素振りをしてから意地悪く微笑み――。
「今の俺の事も好きになって貰わないと、俺が満足しないだろう?」
「――なっ!」
「ははは! 俺の我儘だ、付き合ってくれないか?」
「とは言われても……」
「俺は今も昔もナディアに一途だし、彼女を作った事も一度もない。浮気だって絶対にしないと約束できるくらいには君に一途だ。引かれるかもしれないが、それだけ君に昔からゾッコンなんだ。理解して欲しい」
「ひぇ……。わ、わかりました……」
「良かった! 取り敢えず今日は魔導冷蔵庫に食べ物がない! 買ってきた食材は明日のパンとスープ類くらいだしな。後で夕飯を食べに出かけよう」
「本当に何から何まで……」
そう言って頭を下げようとしたその時だった。
ガシっと肩を掴まれ、何だろうと顔を上げるとアルベルト様は真面目な顔をして人差し指をスッと上げた。
「ひとつだけ約束して欲しい事がある」
「な、なんでしょう」
「俺は狭量がない男だ。君が他の男性と仲良く接する事は固く禁じる」
「……え?」
「俺の身内くらいなら許す。だがそれ以外の男性との接触は避けてくれ」
「でも、お店の中とかはどうしたら……」
「ある程度は仕方ないとして諦める。だが、極力男性とは話さないで欲しい。本当なら買い物も俺が行って、君を外に出したくないくらいなんだ」
「アルベルト様……」
「軟禁されてると考えて貰っても仕方ないかも知れないが、それくらい俺は君を閉じ込めたいと思っている」
それでも――このまま全てを受け入れてしまえば、
私は“守られている人”ではなく、“閉じ込められている人”になる。
――【軟禁】と言う言葉に、彼の私への愛の重さを何となく感じ、暫く呆然としてしまったけれど……。
それでアルベルト様の心の安定に繋がり、更に仕事を邁進出来るのなら……。
私はひとつの案を口にした。
「……俺が言っている事が、常識外れだという自覚はある。だからこそ、君に拒否する権利がある事も分かっている」
「アルベルト様……」
「……無論、理不尽だという自覚はある。だが、君を失う可能性を前にして、俺は冷静ではいられない」
「それなら――」
だからこそ――。
私は、黙って守られるだけの選択はしないと決めた。




