第22話 全ての憂いが消え、この先も貴方と傍で……
慣れない恋愛小説でしたが、これにて完結です。
拙い小説でしたが、読んでいただき、ありがとうございましたm(_ _)m
元義妹の裁判が終わって暫く、平和な日常を取り戻したかのように毎日が幸せに満ちていた。
気になるのはエドガーのことだけど、彼のことはアルベルト様がご存知だと言うし、真面目に働いていると聞いていたので、きっと改心したのだろうと思っている。
「アルベルト様……あの」
「なんだ?」
「……元婚約者は、真面目に心を入れ替えて働いているのですよね?」
「ああ、彼は自ら船に乗り、乗組員として働いている」
「そうだったのですね」
「ただ、最近とある事故が起きたようでね」
「事故……ですか?」
思いも寄らない言葉に首を傾げると、何でも船に忍び込んでいた大きなネズミが一匹、サメが沢山いる海域で海に落ちたらしい。
驚いた乗組員が海を見たが、既にそこに彼の姿はなく……大量の血だけが水面に浮かんでいたのだと言う。
「あまりにも暴れる大きなネズミだったらしくてね。外に出られないようにしていたのに、気付いたら鍵が空いていたようでね……そのまま海に落ちてしまったそうだ。せめて陸の上で逃がしてやろうとしたらしいのだが」
「まぁ……。でも海に落ちるだなんて、なんて不幸な事でしょう」
「全くだな」
私はアルベルト様の膝の上にいつものように腰掛ける。
その大きなネズミのことは、所詮はネズミだと思い頭の隅から消そうとしたのだけど、なにか引っかかるわ。
「一体どんな大きなネズミだったんでしょう」
「食料を食い荒らす、とんでもないネズミだったそうだよ」
「それなら……船の人たちに被害が出る前で、良かったのかもしれませんね」
「しかも酒まで飲んでいたらしい」
「まぁ‼」
「恐らく逃げだした先で酒でも飲んで海に落ちたんだろう。ネズミとは言え……自分で選んだ末路だったのだろう」
「全くですわね」
そんなネズミなら、死んでしまっても仕方ないし誰も悲しまないでしょう。
それに、病気を船内で振りまいたら、それだけで、どれだけの死人が出るか分からないもの。
「君の人生はもう、輝かしい未来しか待っていないよ」
「え? そうですね。憂いは晴れましたから」
元義父と義妹の事は片付いたし、元婚約者も海の上だと言うし、本当に今は安全な場所で、幸せに暮らせるのだと思えば安堵できる。
輝かしい未来……と言われるとなんだか照れるけれど、後は本当に……ロガンド商会の跡継ぎを生むことが私の使命。
「頑張って、ロガンド商会の跡取りを産んでみせますわ」
「ははは! 俺は一人っ子だったから、せめて男の子が生まれても二人は欲しいな」
「頑張りますわ!」
微笑んで彼の望みを叶えようと思った矢先、強く抱きしめられた。
一体どうしたのかと思ったけれど、彼からはとても嬉しげな雰囲気を感じ、私は彼を強く抱きしめて頬にキスをした。
それから数カ月後――ロガンド商会は慌ただしくなった。
めでたく私が懐妊したからと言うのもあるけれど、アルベルト様のご両親はとても喜び、母もまた、とても喜んでくれた。
悪阻は重いものでもなく、どちらかというと眠り悪阻の方が強かったけれど、その間、体には気をつけつつ体を休めて悪阻の時期を乗り越えていった。
「吐き悪阻はきついと聞いていたけれど、眠り悪阻は本当に眠くて仕方ないのね」
「だが、母親想いの子だ。とてもきついと言われる吐き悪阻ではなかったのだから」
「ふふふ、それなら良いわ」
「そうだ。お義母様からナディア用の妊婦服が沢山届いているよ。無論両親からも君のお義母様からも、赤ちゃん用の用品が山のようにな」
「まぁ! もう、皆さん気が早いわ」
「それだけ皆楽しみにしているんだ」
その言葉に全ての事が溶かされ、癒やされて、幸せになっていく。
今までが辛かった分、今の幸せを大事にしたい。
――それから数カ月後、私は玉のような男児を産み、ロガンド商会は熱気に包まれたとアルベルト様から聞いた。
待望の跡取りを産んだのだから、その喜びはひとしおだったらしく、各所からお祝いの品がドンドン届いていると聞いて驚いたわ。
「まぁ……。お返しが大変ですわね」
「なに、我が商会の力を持ってすれば、なんてことはないよ。お返しは俺がするから、君は息子の世話をしつつ、体をゆっくり休めて欲しい。乳母もいることだしね」
「ええ、産後は少しゆっくりするわ」
どこまでも気を回してくれる夫であるアルベルト様に感謝しつつ、私は幸せな日々を送っている。
最初の結婚破棄から今まで……色々なことがあったけれど、過去の辛かった記憶が、幸せで塗り替えられていく日々は愛おしい。
可愛い我が子を抱きかかえ、窓の外から見える景色は既に春の陽気で、時の流れとはあっという間だと感じることが出来た。
「ふと思い出したけれど、今後も〝守られた生活〟が続いていくのかしら?」
「ロガンド商会の若社長の奥方となれば、狙う不届き者は多いだろうからね」
「それもあるわね……。でも、たまには庭に出たいわ」
「庭に出るくらいは許すよ。でも、必ず衛兵は連れて行くようにな?」
「ええ、そうするわ」
でも、どこまでも愛しい夫……。
彼の悲しむことはしたくないので、言うことはしっかり聞いて、これから先も続くであろう〝守られた生活〟を楽しもうと思う。
「ナディア、今、君は幸せかい?」
「無論よ。私が望んだもの……。庭に出られるだけでも幸せだわ」
「子供と一緒に外にも出たいだろうからね」
「ふふ、ありがとうございます」
まだ生まれて間もないから直ぐに……というのは無理でも、いずれは我が子と庭で手を繋いで……。
そして、いつかアルベルト様と息子と三人で、花を愛でに行くのも素敵だわ。
「そういう我儘は、聞いてくださる?」
「無論だとも」
「ありがとうございます……」
我が子を抱きかかえ、そっと夫に寄りかかる。
この上ない幸せ。
アルベルト様と結婚して得た、あらゆる幸せに感謝しつつ……私は彼に愛され、人生を歩んでいく。
――これから先も、彼の傍でずっと。
——過去に囚われず、未来を選ぶこと。
それが、私の選んだ人生だった。




