第20話 裁判も終わり、結婚式はつづがなく終わって……
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裁判で明かされた内容は全て信じられないほどのもので、元義父が殺人まで犯していたことには、親子で「信じられない」と驚愕するほか無かった。
結果として、内容が内容過ぎて直ぐに離縁が出来たのは良かったけれど、最後に暴れて、更に刑期が長くなるだけだと言うのに……本当に愚かな人なのだと理解できた。
被告人席から連行されていく姿は情けなく、喚き散らす口には布を咥えさせられ去っていった元義父。
この姿をメアリーが見ていたらどうなっていたでしょうね。
――こうして、一部波乱があったものの、無事お母様は離縁出来て、私達親子はほっと胸を撫で下ろしたのだった……。
「何もかも、アルベルト様のお陰です……ありがとうございます」
「なに、俺もアレが義父なのは嫌だったからな。はっはっは!」
「まぁ、お気持ちは分かりますけれど」
「ナディアには苦労をかけさせてしまったわね……。どうかアルベルト様と幸せになって頂戴……お願いね」
「はい、お母様」
「お義母様とお義父様に負けずと劣らぬ夫婦になってみせると約束します」
アルベルト様の言葉にくすりと笑った母と私。
彼なら本当に現実にしてくれそうで、私達親子はやっと生きた心地を取り戻した。
無論、元義妹がどこで何をしているかわからない。
それだけが不安材料だったけれど、きっとアルベルト様といれば――。
それからの日々は、結婚式のドレスの採寸を度々調整しつつ過ごした。
既に籍は入れている。
今日の結婚式は、お披露目に近い。
それでも――私にとっては、人生をやり直した証だった。
無論――跡取り息子を生むと言う使命もあるけれど。
そこは、アルベルト様曰く「何人作ってもいいから」と笑顔で言われた。
その軽さに、胸の奥が少しだけ温かくなる。
——この人となら、未来を怖がらなくていい。
文通友達のお義母様とも会うことが可能になるのだと聞いている。
お義母様も私に会うのを楽しみにしていらっしゃるし、時が来れば……。
「もう結婚式まで後一ヶ月になったのね」
「怒涛の二ヶ月だったかい?」
「ええ、でも心が軽くなる二ヶ月だったわ」
「それは何より」
「ただ、懸念材料があるとすれば、元義妹が両親の離縁を知っているのかどうかね」
「フィズリー洋服店の夫婦が夫有責で離縁したと言うのは、街中で語られている。噂雀にさえずられているから、耳に入らないと言うことはないと思いたいが」
「そうなのですね」
「俺の方でも探してもらっているんだが、どこに潜り込んだのか、ドブネズミは中々見つからない」
「まぁ、ドブネズミだなんて」
くすくす笑うと、「事実だろう?」と口にし、あのきらびやかな妹がドブネズミ扱いされるなんて思っていなくて、本当に今頃どうしているのか予想すらつかなかった。
「一応結婚式までの間は雀に囀らせておいて、それでも出てこなければ……放置で良いだろう」
「わかりました」
「保護してくれと言われても……」
「致しませんわ」
「だろうな。それでいい。君たち親子が背負うべき人間ではない」
その言葉に強く頷き、私達は結婚式までの後一ヶ月、教会でも練習をしたし、用意するものや紹介状といったものまで、忙しく時を過ごした。
紹介状に関しては、流石ロガンド商会なだけあって、そうそうたる方々がお越しになるけれど、フィズリー洋服店でも、お得意様などを呼んでの結婚式となることは決まったわ。
「さて、憂いも無くなったことだし、これで心置きなく……妊娠しても不安が残らなくなったかな?」
「どうかしら? まだ元義妹のことが片付いていないし、エドガーの事も完全に片付いたとは言えないわ」
「ああ、彼の事は気にしなくて良い。全うに仕事をしているそうだよ」
「そうなのですね」
それなら安心かもしれない。
私のことなど忘れて、真っ当に仕事をしているのだと言うのなら問題ないもの。
ただ、その不安も、今は胸の奥に押し込めることが出来た。
それからも出来るだけアルベルト様が部下やその伝手を頼り、元義妹を探してくれたようだけど見つからず――結局、結婚式の当日まで、元義妹は見つかることが無かった。
そして……あの時の結婚式とは打って変わって、晴れ晴れとした空の中、私は母の渾身のウエディングドレスを身に着け、今日――結婚式を迎える。
あれから探すだけ探したけれど元義妹は見つからないまま……結婚式を迎えることになったのだ。
何事も起きないといい。
——そう願ってしまうほど、私はようやく幸せになっていた。
「警備は厳重にしている。来ている人たちの事も考えると、過剰なほどの警備にしてある。ナディアは気にすることなく結婚式に臨んで欲しい」
「はい、そうさせていただきます」
今日は文通相手のお義母様も参加するのだ。
楽しみのほうが勝っているのかも知れない。
――こうして始まった、豪華な結婚式。
父の代わりに、代理の神父様が父親役となってくださり、バージンロードを歩いていく。
途中でアルベルト様と共にバージンロードを歩き、幸せに胸がいっぱいになりながら式は進み、誓いのキスを終わらせて外に出た時だった。
何やら入口の方が慌ただしく動いているように見えたけれど、何が起きたのかまでは分からない。
「ナディア、気になるだろうけど今は……」
「ええ、結婚式に集中するわ」
お互い思い合う姿に、感嘆の声が上がったりと、幸せの絶頂の中、私達は結婚式を終えることが出来た。
アルベルト様のご両親にも再度挨拶を済ませ、ほっと安堵して、元義妹の妨害もない平和な結婚式で……。
何かしら仕掛けてくると思ったのに、何事もなくてほっと胸を撫で下ろし、明日からの蜜月に思いを馳せ――。
「明日から一ヶ月は家から出ませんので」
「折角の蜜月だ。しっかり夫婦としての愛を深めあいなさい」
「でも、出来るだけ手紙は欲しいと思うのは、我儘かしら?」
「いえ、出来るだけ手紙をお書きしますわ」
「ふふふ、ありがとうナディアさん」
儚げ美人のお義母様に私も微笑み、平和なうちに終わった結婚式は、その後出席者はお義父様と、お母様が何とかしてくださるらしく、私とアルベルト様は一足先に家路へと向かう。
すると――。
「あら? 門の前で何かあったのかしら?」
「ああ、見物人と警備員がぶつかりあったと聞いている」
「まぁ……」
「何せ、ロガンド商会とフィズリー洋服店の結婚式だ。野次馬は数名出てくるさ」
「それもそうですね」
我が家ともかく、ロガンド商会の副会長であるアルベルト様の結婚式なのだ。
気になる女性も多かったのだろう。
「おモテになりますのね?」
「ははは、他の女性に好かれても仕方ない。俺が好きなのは君なのだから」
「一生離さないでくださいね? 浮気も無論」
「君に幾年も片思いだったのか忘れたのかい?」
「ふふふ、それもそうね」
幸せの絶頂の中、自宅へと帰宅し、着替えを済ませると私達はこの時ばかりは初夜を楽しんだ。
でも、そんな幸せの絶頂の中にいる頃――。
その頃、誰かが地獄へ落ちていたことを、私が知る由もなかった。
「一ヶ月、君を愛させてくれ……」
「無論です。たったの一ヶ月しかないんですから……」
私はもう、逃げなくていい。
そう思えた夜だった。




