第18話 準備は整った。さぁ、仕上げのために始めよう……
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――アルベルトSide――
大事なナディアの為にも、俺は彼女の義父について調べることにした。
その筋の専門家を数人雇い、徹底して調べてきてもらうことにしたのだ。
すでに義父の現状については、あらかじめ用意していた書類を見てもらい、彼らは揃って眉をひそめた。
「これは、いつでも離縁が出来る状態ですね」
「むしろ、今まで離縁しなかったほうがおかしいと言うくらいの事案です」
「裁判を起こさずとも、即離縁は出来るでしょうが……最悪、この義父の方がごねたら、離縁するにも時間が掛かりますよ」
「ああ、その最悪の事態を潰すために、君たちを雇ったんだ。徹底して調べ上げた上で、離縁裁判に持ち込み、即座に離縁させたい」
「お義母様はなんと?」
「是非、お願いしたいとのことだ」
そう告げると、その手の専門家たちは強く頷き、自分たちの部下や伝手を何でも使っていいから調べ上げる事に集中してもらうことにした。
無論、調べてきた内容が被っても問題はない。金銭はきちんと払う。
しかし、〝決定的な証拠〟もしくは〝決定的な証人〟を得た場合、最初に見つけた専門家へ多めに金銭を払うことを約束した。
彼女と義母の憂いは晴らしておかねば。
それに、俺もアレに義父とは言いたくはない。
それならば、籍から出ていってもらおうと考えたのだ。
もとより、そのつもりでもあったが、ナディアの言葉が決定的となり、直ぐに事を進めることにした。
流石「ロガンド商会」の名が強いのだろう。
受け持った彼らは、予想以上の働きを素早くしてくれた。
なんと、ほんの一ヶ月で、彼らはあらゆる証拠を見つけてきてくれたのだ。
既に、義父を紹介したと言う男性が亡くなっている事から、三ヶ月は覚悟していたのだが――。
「調べてきた結果を皆で出し合い精査した書類が、昨日お送りいたしました書類となります」
「互いに喧嘩もせず睨み合いもせず、素直に調べることが出来たのは、君たちが優秀と言うことだろうな」
「「「恐れ入ります」」」
「さて、中身は読ませてもらった……。なるほどな」
なんと、調べてもらった結果明らかになったのは――件の親戚が賭博で借金をしていたという事。
借金の事で、義父となる前のあの男が親戚をゆすっていたことが発覚した。
書類を閉じた瞬間、胸の奥に静かな怒りが沈殿した。
――ナディアに、こんな記憶を背負わせたこと自体が許せない。
「更に、借金をチャラにする代わりに、自分が働かずに子供を押し付けられる女のところへ連れて行けと脅していたと」
「その相手が、奥様のご実家と言う訳です」
「なるほど……」
「まだ幼い娘に母親は必要だと泣きついたようです」
「ああ、それで三人が義母に土下座をして頼み込んだそうだな」
「「「はい」」」
「だが、持って生まれた性格は直しようがない……。それであの状態か」
「父親の居場所は把握しております。いつでも捕らえることは可能ですが」
「ひとつ宜しいでしょうか?」
――手を上げたのは、若手の青年だった。
「私は更に調べ上げた結果……〝決定的な証人〟を見つけることが出来ました」
「「何だって!?」」
驚くふたり、だが俺は前に約束していた通り、最初に見つけた者には……と言っていた為、このふたりには言わないでいたのだろう。
賢いようで、ずる賢い。
だが、それでこそ、彼らの生きる場所では、成り立つのかも知れないな。
「よくぞ見つけてくれた。証人は保護しているか?」
「はい、私の持つ空き家を貸して不自由なく」
「実に素晴らしいな! それでは、罪人となりそうな義父を捕らえる為に各自動いてくれ。成功報酬は上乗せしよう」
「「「ありがとうございます!!」」」
「捕らえたらまた連絡を。離縁裁判を行う手続きを進める。父親には手続きを進めている間、法廷の牢にでも入ってもらっておいてくれ」
「かしこまりました」
その後、三人は部屋をでていき、俺は直ぐに人を呼んで、馬車に乗り【フィズリー洋服店】へと急いだ。
常に満員御礼のフィズリー洋服店だったが、俺の登場に義母は驚き、奥の応接室に案内され、そこで話をすることになった。
何故、あの屑のような男と再婚する羽目になったのか、経緯を説明し、調べ上げて貰った資料を読んで貰う。
「今、屑な彼を捕らえに向かっています。いつでも離縁裁判が出来るように動けます」
「ありがとうございます。是非、早めにやりましょう。離縁裁判といえど結婚式までにあの男の籍と、必要のない娘の籍を我が家から抜けておきたいので」
「わかりました。直ぐに」
「明日は無理でしょうから、せめて今週中には出来ますか?」
「今週中に出来るよう、こちらも全て用意致します」
義母に伝えると、ほっと安堵した様子で息を吐き、どこか清々しい笑顔を浮かべた。
そして――。
「貴方が義理の息子となってから、我がフィズリー家は、本来のあるべき姿を手に入れられそうです。ナディアを見初めてくれて……本当にありがとうございます」
「俺の方こそ、貴女が産んでくれたナディアがいてくれたおかげで、異国の地でも耐えていけたのです。なにせ、我が家の男は諦めが悪いもので」
「ふふふ、普通ならば傷物として結婚なんて難しいでしょうに、貴方はそのようなこと全く気にしないとおっしゃいましたからね」
「ええ、彼女についた傷等何ひとつ無い。美しいまま、ありのまま……俺を愛してくれる、素晴らしい女性です」
「アルベルトさんに娘を託して良かった……。では、今週中に」
「法廷で」
お互い強く頷き合い、俺は店を出て家に戻る。
ああ、しまった。手紙を夕方書くのを忘れていた。
急に戻ったら驚くだろうか?
それとも、心配してくれているだろうか?
「ああ、こうして手紙を出さなかったのは胸が痛むが、早めに帰ってきたら、サプライズと思ってくれるだろうか……」
少しの罪悪感と、胸の高鳴りを抑え家につくと、待っていたのはナディアの安堵と、嬉しげな笑顔。
「まぁ、悪戯なサプライズですこと」
「ははは! たまには年下らしく悪戯したくなることもあるんだ」
「ふふふ、でも、やっぱり手紙は欲しいわ。今度からはちゃんと手紙下さいね?」
「ああ……約束しよう。だが、手紙より先に俺が家についてしまうかもしれない」
「その時は、また悪戯なサプライズだと笑ってあげるわ」
柔らかく笑うナディアを抱きしめ、俺はゆっくりと呼吸をしてからナディアに見えないところで真剣な顔をする。
ナディアとの幸せな結婚式のためにも――悪縁は切ってしまおう、と。
「君の幸せのためなら、何事も苦ではない」
「お互いの幸せのため……の方が、素敵だわ」
「ああ、そうだな……。互いの幸せのために――」
お互いを認めあい、支え合う。
それこそが夫婦なのだと抱きしめ合えた頃、件の屑な義父はと言うと――今、その身にふさわしい結末へと歩みを進めていた。




