第17話(閑話) 私は一体、どこに向かえばいいのよ……
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――メアリーSide――
家に入れて貰えなくなって、随分経った。
その間は点々と友人の家を渡り歩き、本当に行き場が無くなって困り果てていた。
父の愛人の家も分からないし、家には入れてもらえないし……。
そう思っていた矢先、古臭い家の近くのゴミ捨て場に、信じられないものを見た。
――私の部屋にあった家具や服が全て捨てられていたのだ。
「嘘……」
信じられなくて何度も首を振ってゴミ捨て場に駆け寄ると、周囲の人達はコソコソ話したりくすくす笑っていて……。
「お可哀想に」
「そう? 別に可哀想ではないわよ。自業自得よ」
「離縁を突きつけられたそうよ、あちらの元旦那さんになるのかしら?」
「ああ、でも逃げてるんでしょう?」
「今や彼に懸賞金がかけられるんじゃないかって噂よ」
「ってことは、娘の方もかけられるんじゃない?」
「メアリーは放逐されたようなものでしょ?」
「帰る家も、頼る親もなし。仕事もなし」
「お可哀想に……」
くすくす嘲笑う声が響く。
絶望が襲いかかる。
お父様……お義母様と離縁したら……私どうなるの?
目の前にある家具や荷物を見て、嫌でも現実が襲ってくる。
どこにも……居場所なんて無かった。
お父様だって、私を心配する余裕すらなかった。
あの店の娘でなくなるのなら、私の価値なんて無いも同然――。
そうなったら、どうなるの?
お友達は?
そのまま友達でいてくれるの?
分からない、何も分からないわ!
「お、お義姉様に何とかしてもらわないと!」
頭によぎったのは人の良い義姉だけだった。
あの馬鹿なら私を憐れんで助けてくれる!
馬鹿だもの!
可哀想にって言いつつ家に入れてくれるわ!
あの、大きな屋敷に!
力を振り絞って、クタクタに汚れた服の裾を掴んで走った。
走って走って、アルベルト様と義姉の住んでいる屋敷の前までやってきた。
ドアを殴って「開けて!」と叫んでいると、ドアが開き屈強な男性が現れた。
思わず膝がくずれてしまったけれど――。
「メアリー・フィズリーです。姉に会いに来ました」
「ご訪問の連絡は受けておりません」
「妹が会いに来たのよ? 会わせなさいよ!」
「ご訪問の連絡は受けておりません」
「何よ! ちょっとお義姉様! いるんでしょ! でてきなさいよ!!」
「お会いになりません」
「煩いわね! 退いて!」
押しのけようとしたけれど、屈強な男は私を絶対には入れず、あろうことか突き飛ばしてきた。
突き飛ばされた私は地面に叩きつけられ、なんとか立ち上がって男を睨みつけると――。
「お会いになりません。お引き取り下さい。騒ぐ場合は牢に入れてもらうよう連絡します」
「ヒッ!」
またあの牢屋に入れられるってこと!?
今度はお義母様がお金を出してはくれないのよ!?
お父様だってお金を持っているかどうかわからないのに!!
「それに」
「な、何よ」
「ナディア様の妹君と言う割には……装いがあまりにも汚すぎます」
「なっ⁉」
「お風呂に入られたのはいつです?」
「それは……」
「ナディア様に会うに相応しい装いでお願いします」
……それだけを言い残すと、玄関のドアは重く閉じられた。
私の装いが汚い……?
お風呂に入ったのはいつかですって?
そんなの……そんなの!!
叫びたいのを堪えて、私はトボトボと歩き出した。
このままではいけない。
あてはないけどお父様を探さなきゃ。
いいえ、お義母様ならあるいは知っているかも知れない。
家には入れてもらえないだろうけれど……外からならもしかしたら――。
僅かな望みを持って古臭い店に行くと、とても繁盛していて……私が入る隙が見当たらない。
店を出入りする客は私を見ると、くすくすと笑って去っていく。
ああ……なんて惨めなの?
せめて店が閉まる時間帯までと思い、近くの公園でひとり過ごした。
お腹が空き過ぎて何度も腹の音が鳴って恥ずかしい思いをしたけれど、ここを乗り越えれば父の居場所がわかるかも知れないと我慢した。
そして、店の店員が帰り始めた頃、私はドアを無理やり開いて中に入った。
「お義母様!! お父様はどこ!?」
「……汚らしいドブネズミね」
「ドブネ……そんな事は良いわ。お父様はどこよ!」
「知らないわ。こっちも離婚の手続きのために探しているところよ」
「嘘……お父様は私を捨てたの?」
「捨てたんじゃないかしら?」
「そんな……」
「大事な娘なら、探してでも連れて行くでしょう?」
「……」
思いがけない言葉に呆然とし、床に座り込みそうだったけれど、それをさせなかったのは義母だった。
力強く私を押して店の外に追い出したの!
「でも、探されてもいない。今も見つけにすら来ない。貴女、何のために生きてるの? ああ、それより仕事は見つかったの? この際住み込みでも良いから見つけなさい。貴女の家はもうここではないのだから」
「嘘よ。ねぇ、暫くでいいの。この家に」
「置かせるわけないでしょ? 赤の他人を。出て行って」
「今まで!! 今まで義理の娘だったじゃない!!」
「どこかに捨てたくなる、いらない恥の上塗りのような娘だったわね」
その言葉を最後にドアは閉じられ鍵が掛けられた。
途端力が抜けて地面に座り込む……。
ああ、もう本当に行き場なんてなくて……。
誰も、私を必要としていなかった……。
私……もうどこにも行けないんだ……。
そう思ったら、今までの幸せが一斉に崩れ始めて――私はひとり、嗚咽を零しながら街の中へと消えていった。




