第14話 日陰であるが故に胸を張って
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それからの日々というのは、とても充実した日々でした。
監禁状態だと言うのに、皆さん良くしてくださるから全く気にならない程です。
ドレスのデザインを作り、自分でもお母様に頼んで布地を届けてもらい、ドレスの案を元に縫っていく作業はとても楽しかった。
レースを作る時はレース編みをこつこつやって、無心で作業に没頭しました。
「奥様、休憩のお時間ですわ」
「シシリー。もうそんな時間なのね」
「集中なさるのは良いですが、お体をお大事になさってくださいね?」
「ええ、気をつけるわ」
「何でしたら、街で有名なマッサージ師をお呼びしましょうか?」
「女性ならお願いしたいわ」
「ええ、その方のお弟子様のひとりが女性のはずです。いつお呼びしましょう?」
「朝の間に来てくださると嬉しいわ。ほぐして貰ってからのほうが、良い案が浮かびそうだもの」
「かしこまりました。ご連絡しておきますね」
こうして、私は紅茶を飲みながらほっと一息をつき、デザイン画とドレスを見比べながら時間を過ごすのです。
私に出来ることは、長年培ってきたドレスの案を出すのと作ること。
今の流行はシシリーや若いメイドたちから聞いてデザインを起こし、時代に取り残されないようにドレスだけは出来るだけ最先端を意識します。
「そういえばメアリーもエドガーも、ドレスの最先端は知っていても、作ろうとも、作る気も無かったわね……」
地味な仕事だと言って、華やかな場所でこそ自分たちは輝くのだと言って、ドレス作りを馬鹿にしていた。
でも、ドレスがなければ、最先端に行くことも、令嬢たちの話題の中に入ることも出来ないのに……。
地味な仕事の上で、全ての最先端は備わっている。
その為に働けることは、私にとっては嬉しいことだったんです。
――確かに地味な仕事かも知れない。
――人目に当たらない、日陰の仕事。
でも、仕事に誇りを持って毎日挑んできた。
だから、私はドレス作りを辞められないのでしょう。
「メアリーにドレスを作れって散々言われたわね……」
結局お母様のおかげでドレスを作らなくて済んだけれど、毎回「お義姉様は私の言う事を聞いていればいいのよ‼」と癇癪を回して、店から追い出されていたのを思い出す。
そういえば、母は離縁に向けて動いていると聞いたけれど……。
あれからどうなったのかは聞いていない。
時間が掛かるのだと言う話は聞いていたけれど、その後なにか発展があったのかは分からない。
言えることは、義父と母が離縁すれば、義父と義母の行く場所はなくなり、外に放り出されると言うことだけ。
慰謝料を取るだけのお金はないだろうから、愛人に払わせるのかも知れない。
どちらにせよ、もう会うこともない二人は、今後、地獄のような日々を歩むことになるのかもしれない。
「愚かな人たち……」
小さく呟いた言葉は誰に聞かれることもなく、私は紅茶を口にする。
私はアルベルト様に守られながら、これから生きていくことになるでしょう。
もう、義妹とも義父とも会うこともないでしょう。
それでも、その二人を相手に戦っている母を思うと、胸が苦しくなる。
母の為になにか出来ないかと思い、夜、私は帰ってきたアルベルト様に、思っていることを伝えることにしたのです。
すると――。
「フィズリー夫人には苦労をかけていると思っている。だが、俺の友人でもあり、父親が法務大臣でね。彼がフィズリー夫人の相談役兼、弁護士になってくれている」
「まぁ! そうでしたの……」
「今、あらゆる証拠を出しているところだ。徹底的に、あちらが有無を言わさないように……徹底的にな」
「でしたら、母の苦労も報われると思います」
「そのために、友人にもかなり頼み込んでやってもらってるんだ。だいぶ証拠は溜まっているようだけれどね」
「そうなんですね」
「あと、マッサージ師を呼ぶようだね」
「え? ええ」
「キャンセル入れておいた」
「え!?」
思わぬ言葉に私が目を見開いて口に手を当てると、彼は笑顔で驚くべき事実を口にしたのです。
「そのマッサージ師の女性というのが、義父の愛人だよ」
「なっ!?」
「彼女はかなり金を持っているようだね。でも、おかげでフィズリー夫人の貰う慰謝料は高くても良さそうだ」
「そう……なんですね」
「どれくらい引き出せるかは彼次第だが、徹底的にやってくれと頼んである」
「わかりましたわ。アルベルト様に従います」
「ありがとう。ああ、マッサージ師だが、別の異国のマッサージ師が知り合いでね。そちらを呼んでおいたよ」
「助かります」
「母のお抱えのマッサージ師なんだ。少々年は行っているが確かな腕を持っているよ」
「お義母様の……宜しいのですか?」
「ああ、母もなんというか……君と一緒でね」
「え?」
「俺は父によく似たんだなと思ったよ」
声を上げて笑うアルベルト様に、何となく察しがついたけれど……そこは敢えて突っ込まず、彼の独占欲の強さと、お義父様の独占欲の強さは……遺伝したんだなと苦笑いがこぼれた。
「流石親子ですのね?」
「ああ、親子だから仕方ない。孫が出来たら流石に父も屋敷の外に出るなとは言わないだろう」
「まぁ……ふふふ。ではその時を待たないとですわね?」
「ああ……俺達も頑張らないとな」
甘いキスをして、寄り添い合う時間。
母には強い味方がついていることもわかり、ほっと安堵した瞬間でもありました。
ずっと父が亡くなってからひとりで私を守ってきてくれた母。
そろそろ……あんな義父と義妹を捨てて、自由になるべきだわ……。
「私に出来ることは限られていますが……なんとかしてあげたい気持ちは強いんです」
「大丈夫だ。君が俺に囲われて幸せであることが……一番効果的なんだ」
「効果的……?」
「幸せは……家族に移っていくものなんだよ」
――不幸は、誰に移るかな?
口にしたアルベルト様に、私はくすりと笑い、ギュッと彼を抱きしめたのでした。




