第13話 ドブネズミはどこでも生きていけるさ。海に落ちない限りはな?
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――アルベルトSide――
〝ロガンド商会にドブネズミが侵入した〟と言うのは、部下からの情報だった。
見た目を変え、名を変えても顔までは変えられない。
部下は人の顔と名前を覚えるのが得意だった為、直ぐに分かったそうだ。
「なるほど、〝彼〟がこのロガンド商会に……偽名と見た目を変えてまでか」
「恐らく、奥様のいる屋敷に荷物を運ぶ人員になりたくてはいったのだと」
「ふむ……。彼には監視の目を着けて、暫く放置してみてくれ。無論妻のいる屋敷の人員には選ばないように徹底してな?」
「かしこまりました」
先立って打てる対処は取っておく。
これはとても大事なことだ。
更に、妻のいる屋敷のメイドにと、義妹が来ていたことも連絡を受けている。
シシリーが「とんでもない」と面接すらしなかったのだと言うのだから、流石に胸がスッとした。
あの二人はとことんまで追い詰めると決めているのだ。
俺の大事な、初恋からずっと思い続けてきたナディアを苦しめてきた相手。
許せるはずなど無かった。
ナディアは家に監禁してしまっている状態だが、それでもドレス案等、自分なりに好きなことをもしている。
彼女の母親は、時間が出来たら来てもらい、その案を見てほしいと伝えているのだ。
無論、ナディアには内緒で。
彼女は何も知らないまま、幸せに過ごして欲しい。
汚いものから遠ざけて、綺麗な空間で生活して欲しい。
俺のエゴであっても、それは絶対に譲れないことだった。
「アルベルト副会長は、奥方様を心底愛して折られますからね。漂うゴミには消えてもらいたいでしょうに」
「ははは、本当だな! だが、ただ消えるだけではあの二人には生温い」
「なるほど」
「だから、徹底して今まで妻を苦しめた罰を与えなくては……」
「ネズミはどうしますか?」
その問いに、俺は暫く考え込んでから、船を二隻買った事もあり、船舶乗務員に任命することにした。
これで最低半年は会うこともできなくなる。
物理的……と言うとあれだが、徹底的にナディアから離すことで、奴のストレスを存分に与えることにしたのだ。
「ロガンド商会副会長からの任命とあれば、流石に拒否はできないだろう。した場合は我が商会から消えてもらう」
「そうですね。彼の人生も消しますか?」
「その場合は考えよう……。もし素直に船に乗ると言うのなら、寿命が伸びる……ただそれだけだ」
そうでなくとも、違う国で降ろしてそのまま放置して帰ると言うのもひとつの手だ。
船で短くて三ヶ月先の国等、最早陸路で帰ることもままならない。
そこに放置したら、どうなるだろうなぁ?
言葉も対して通じない場所に連れて行って降ろすと言うのもひとつの案としては良いだろう。
「それに、どこでも生きていけるだろう」
「他の者に襲われなければ……ですね?」
「ははは、言えているな」
声を出して笑いあい、俺は席を立った。
今日は早めに家に帰ると手紙を送っているのだ。
集合時間間近で仕事を終え、俺は帰り支度をし始めると部下たちと共に階段を降りていく。
すると――。
「副会長様!」
ザッと部下たちが〝彼〟から俺を隠す。
なるほど、確かに鬱陶しいナルシストのような髪をバッサリ切って、一瞬見ただけではわからないが、確かにエドガーだ。
「あの……先ほど……」
「ああ、船舶乗務員の話か? それなら数名既に通達をしている」
「そ、それは……」
「君の働きに期待しているよ。まぁ、短くても半年の船旅だ。船に乗っていれば安全だろう。海に落ちればサメの餌だが」
「ひっ」
「ウッカリ落ちないようにしてくれよ?」
笑顔で告げるとエドガーは顔面蒼白でガタガタ揺れていた。
俺が気付いていないとでも思っていたのか?
連絡があったからわかるんじゃない。
二度と立ち上がれなくしてやりたい。
きっと俺の目には殺気が籠もっていただろう。
逃がしはしない。
逃げ場はもはや無い。
このロガンド商会に入った時点で、お前のもう後戻りはできない場所に来ていた。
「お、お待ち下さい! 急な部署変更はあんまりです!」
「さぁ、ぐずぐずしている暇はないぞ! 海に出る際の注意事項をしっかりと覚えて置かないと……知らぬ土地に置き去り……なんてこともあるかもしれんからな?」
「ひ、ひいいいい!!」
俺が笑って口にすると、エドガーは今頃研修が行われているであろう部屋にすっ飛んでいった。
他国に残す……。
一瞬、そんな考えも頭をよぎったが――それはまだ、考える段階ではない。
本当に小物だ。
あんな男がナディアを苦しめて良いはずがない。
徹底的に潰してやる……。
「彼には、長い時間船に乗ってもらうんだ。徹底して教え込むように、連絡をしておいてくれ」
「畏まりました」
「船の上……と言う逃げ場の無い状況で、もし仮に、ウッカリ事故が起きて海に落ちても……それは悲しい事故だからな」
吐き捨てて口にして家路に戻れば、ナディアは母親と共に過ごす幸せな時間だったようで、母親が帰宅してから俺の膝に座らせ、今日の出来事をかいつまんで話す。
無論、ドブネズミの事はあまり触れないように……。
耳障りな話は出来るだけ彼女の耳に入っても、伝わりにくいようにした。
「海に出たらどれくらい帰ってこれませんの?」
「往復合わせて最低半年かな。その間は船からは出られない」
「ずっと海を眺めての生活ですのね」
「そうだね。あの海域はサメも多いから、海に飛び込む馬鹿も居ないだろう」
クスクス笑う俺を不思議に見つめつつも、首を傾げて「そうなのね?」と口にした姿が愛らしくてチュッと唇を吸った。
真っ赤になって恥ずかしがる姿がまた保護欲を強くさせる……。
「なに、船内に一匹ドブネズミが居たとしても、もう逃げ場なんて無いさ」
とても嬉しげに語るが、意味は伝わらないだろう。
真実は告げないまま、俺は笑顔でナディアとの時間を楽しんだのだった。




