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結婚式当日に裏切りを見て婚約破棄したのですが、副会長さまに溺愛されています  作者: 寿明結未


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第11話(閑話) 俺の価値は誰よりも高い筈なんだ!

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 ――エドガーside――


 俺は、自分の価値を疑ったことがなかった。

 ナディアと婚約できた男なのだから。

 ナディアの婚約者候補はとても多かったと聞いている。

 その中で勝ち取った俺は最高に価値のある男だと思い込んでいた。

 だが、蓋を開ければ俺の実家が融資を受けているため、恩返しで出来る事は、俺を婿養子にやる事しかなく……。

 ナディアの母は渋ったそうだが、両親が土下座して頼み込んだため、あちらは嫌々婚約させてくれたと聞いた時は、自分の価値は何だろうって思った。


 本当の俺は、価値のある人間なんだ。

 それを、ナディアの義妹だって分かっていて靡いて来たんだと思ってた。

 ところが蓋を開けてみれば、俺の価値は「ナディアの婚約者だったから」という価値しかなくて、俺自身の価値は何処にもなかった。


 両親は結婚式の日にあんなことになって、俺を勘当した。

 もう家にも戻れない。

 小さい洋服店は融資が無ければ立ち行かず、程なくして潰れただろう。

 店を必死に切り盛りしていた兄からは「お前のせいだ!」と顔面が腫れ上がる程殴られ、首まで絞められた。

 必死に逃げて――今この様だ。


「こうなったのも、全部ナディアが我慢しないのがいけない」


 我慢してくれれば、あの時我慢して結婚すると言っていれば、俺の人生は華やかなものだったに違いない。

 なのに、たったあれくらいの事で俺を捨てるなんて……。

 絶対許せない。復讐してやるんだ。

 その想いだけで必死に貴族街に入り、どの家がナディアのいる屋敷か分からなかったが、外で掃除をしていた爺を捕まえて「ロガンド商会の副会長の御屋敷は何処ですか?」と聞いて場所を見つけた。


 それは――とても大きなお屋敷だった。

 こ、こんな所でナディアは生活しているのか?

 そう思ったらますますイライラして、雄叫びを上げたいのを我慢していると、門の前に馬車が止まり、玄関からこの国では珍しい黒髪に黒い瞳の美丈夫と――美しく装ったナディアが出てきた。


 嘘だろ!?

 ナディアってあんなに美人だったのか!?

 メアリーなんて目じゃないじゃないか!

 今のナディアとメアリーが並んだら、十人中十人がナディアを選ぶだろう。

 それくらい美しかった……。


 そっと美丈夫の腕に手を回している所を見ると、あの男がロガンド商会の副会長に違いない。

 クソ、俺の前ではあんな笑顔した事もない癖に!

 許せねぇ!


「ナディア!」


 そう叫んで草むらから飛び出すと、ナディアは美丈夫の後ろに隠れ、男はナディアを庇う様に立った。

 途端、庭から屈強な男たちが出てきてビックリしたが、俺は気にせずナディアに叫んだ。


「ナディア! 今からでも遅くない! ロガンド商会の副会長と婚約だって嫌々したんだろう⁉ 俺の事をずっと愛してくれてたもんなぁ⁉」


 絶対愛してくれていただろう!?

 そうだと言ってくれ!

 そうじゃないと俺の価値はどうなるんだ!?


「何とか言ったらどうなんだ!」

「衛兵、こいつをつまみ出せ」


 男の俺でもビクリとする程いい声が聞こえた途端、屈強な男どもに身体を抑えられ、屋敷の外に放り出された。

 何とか立ち上がって再度屋敷に入ろうとしたけれど、何度やっても放り出されて地面に叩きつけられ、ナディアに近寄る事も出来ない!


「ナディア! ナディア! ナディア――!」

「……気持ち悪い」


 小さく、それでいてとても響くナディアの声で……「気持ち悪い」と言われて言葉が出ず、口からヒュッと音が出た。

 その一言で、胸の奥が空洞になった。

 言い返そうと口を開いたのに、声が出なかった。

 そんなナディアを美丈夫は抱きしめているし、まるで見せつけられている様で腹が立った。

 ナディアは俺の、ナディアは俺の、ナディアは俺の――!


「衛兵、此奴を捕らえて然るべき所に連れていけ!」

「うわあああああああ!」


 そう叫ぶと、俺は一気に屋敷から遠くに走り出した。

 捕まったら二度と出て来られないと分かったからだ。

 ふざけんな! ふざけるな! ふざけんじゃねぇぞ!

 ナディアは俺のなんだよ。お前の様な奴のモノじゃねーんだよ!

 畜生! 畜生! 畜生!

 どいつもこいつもふざけやがって!

 俺は、選ばれる側の人間なんだ。お前等とは違う!


「ふざけんじゃねぇぞおおおお!」


 そう叫びながら逃げ続け、気が付けばいつも寝泊まりしている公園に辿り着いていて、息を切らせながら後ろを見ると、追ってきている様子はなかった。

 伸びきった髭と髪をそのままに、顔と頭を公園の噴水で洗い、そのまま公園のベンチで横になって寝る。

 ベンチに横になった瞬間、胃の奥がきりきりと鳴った。


 ――他に、他にナディアに近寄れる方法がある筈だ。

 ナディアさえ手に入れてしまえば、後は【フィズリー洋服店】に戻って元通りだ。

 その為にはどうしたらいい……。


「……いっそ名前を変えて、ロガンド商会に入り込むか」


 そうすれば、何時かはナディアのいる屋敷に入る事が出来る筈だ。

 荷物だって運ぶだろう?

 あの商会はデカい。

 人員だって皆を覚えている筈はないんだ。

 名前さえ変えて入ってしまえば……下働きでもいいから入る事が出来ればこっちのモノだ。

 後は時を待てばいい。

 ナディアだけが幸せになって堪るか。

 ナディアだけが笑っているなんて許せるものか。


「一緒に地獄へ堕ちてくれよナディア……」


 ニチャリと微笑み、俺は暫しの睡眠をとった翌日――近所の人の良さそうな老人の家で髪と髭を整え、亡くなったという息子さんの服を貰い着替え、ロガンド商会へと向かい、偽名を使って下働きで入った。


 俺の偽名は、俺に諸々してくれた老人の家から聞いていた亡くなった男性の名前。

 ロチャードと名乗った。

 髪型も昔の髪型ではなく、刈り上げて人相が分かりにくくした。

 住み込みでの下働き生活がスタートし、俺はいつかナディアを攫う為の算段を立てながら生活していくことになる――。

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