第10話(閑話) 侮辱罪って何よ! ふざけないで!
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――メアリーside――
姉が――あのロガンド商会副会長の婚約者になった。
私から、奪った。
信じられない。
副会長様だって、私に会えば姉なんて捨てるはずだったのに。
なのに。
大きな屋敷へついて行ったら、門前払い。
馬車で待っていたら、そのまま走り出して、古臭い店の前で放り出された。
「もう! 何なのよ! 絶対クソ姉が邪魔してるわ! エドガー様を取られた腹いせね⁉ 何よ、自分が魅力が無いからって私を排除するなんて最低! 死んじまえクソ姉! とっととくたばれ!」
そう店の外で叫んでいると、ヒソヒソと喋っている人たちがいて、「何よ!」と吠えると蜘蛛の子のように逃げて行ったわ。
悪いのは姉じゃない。
悪いのは――姉に味方する連中よ。
私は、何ひとつ間違ってない。
そう思ってたのに、いきなり腕を強く掴まれ、何事と思って顔を上げると――。
そこには何人かの『お友達』も捕まっていて、屈強そうな男性は私を睨みつけながら私の名を呼んだ。
「ロガンド商会に関する悪評をばらまいたのは、お前で間違いないな?」
「……は? 何の話よ」
「貴様を侮辱罪で連行する。商会と副会長、そして婚約者への三件だ」
そう後ろで捕まっている『お友達』に聞いた男たちは、何度も首を縦に振っていて、「一体何なの?」と眉を寄せた。
「貴様を【侮辱罪】の罪で連れていく。無論『お友達』というお前の男たちも一緒にな」
「え? 侮辱罪……何のこと?」
「ロガンド商会へ流した噂、その副会長に流した噂、そして、その婚約者様に流した噂。みっつの侮辱罪がお前達にはロガンド商会から出ている。一年以下の留置刑が妥当だろうな」
「留置……刑?」
「連れていけ」
「いやああああああ!」
そう叫んだけれど屈強な男たちに掴まれて、私は囚人用の馬車にお友達たちと入れられ、留置所のある場所まで連れて行かれた。
その間は周囲から丸見えだし、「ウソ、あれって……」なんて声が聞こえて最悪だったわ。
確かに噂は流したわ。
それは事実よ。
でも、その噂を押しつぶすくらいロガンド商会の噂は大きかったわ。
コッチはちょっとした嫌味のつもりで流しただけなのに……。
それが侮辱罪ですって?
何かの間違いよ。私、そこまで酷いことしてないもの!
そう思っても、叫んでも聞いてもらえる事はなく、留置所に投げ込まれて私は頭を打った。痛かったけれど誰も心配なんてしてくれない。
小さな吹き曝しの窓に、丸見えのトイレらしきものは汚く、後は寝るだけの部屋だった……。
こんな所でいつまで過ごすの!?
お父様とお義母様に連絡しなきゃ!
すぐに出してもらうのよ! 今すぐに!
夜になると、壁の向こうから誰かの泣き声が聞こえた。
私は耳を塞いで、ただ膝を抱えた。
そう思ったけれど、三日経っても外に出る事が出来なくて……。
私の『お友達だった』人たちは出て行ってたけど、何度も顔を殴られていたわ。
ザマァ見ろ。
そう思ったけれど……私の迎えはなかなか来なかった。
ドレスはシワシワだし、ご飯は黒パンに水のみ……。
こんな所で私は後どれくらい過ごすの……?
何が侮辱罪よ……そっちだって私に対してこんなことして……許されると思うんじゃないわよ!
そう思いながら二週間が経過した頃――ようやくお父様が迎えに来てくれた。
「おおおお! メアリー! メアリー!」
「お、お父様ぁあああ!」
「こんなところに入れられて可哀そうに!保釈金は払ってきた! すぐ出してもらえるぞ!」
「ううう……本当?」
「本当だとも! もう手続きも終わったから後はあの古い家に帰るだけだ!」
「もうこんな所やだぁああああ!」
お友達たちは皆早めに親が迎えに来たのに、私にはなかなか来てくれなかった!
「連絡が遅れただけなんだ!」そう言ったお父様の目が、泳いだ。
……遅れた? 違う。
忘れていたのだ。私のことを。
「お父様が浮気相手の家に行って戻ってこないから、こんな事になったのね?」
「それは……まぁいいじゃないか。何とか保釈金は出してもらえたんだから」
「誰が?」
「そりゃあの古い店の婆がさ」
「ああ、お義母様、一応出してくれたのね。当たり前よね? 自分の不始末だもの」
「全くだ。金をせびってまた愛人の家に行くか」
「それがいいわ。私はどうしようかしら……」
そんな事を言いつつ馬車でみすぼらしい店に戻る。
ドアを開けた途端、私の体臭がむわっと広がった。
父は私を見もしないで、店で働く義母から金を受け取ると、さっさと外へ出て行った。愛人の家に行ったのね。
「店にそんな臭い姿で立たないで頂戴」
「……だって」
「だってもじゃないわ。さっさと家に戻って自分の事くらい自分でして頂戴」
「何よ! 全ては姉の所為なのに!」
「貴女、余程頭が可笑しいのね」
「ふざけないで!」
「まぁいいわ。貴女の頭が馬鹿で可笑しいは何時もの事だから。さっさと家に帰って頂戴。それが出来ないなら外に放り出すわよ」
「……っ! 分かったわよ」
そう言うと私は隣の古臭い家に戻り、必死にドレスを脱いでシャワーを浴びた。
2週間ぶりのシャワーだった。
身体は臭いし……本当に最悪な状態だったわ。
あーあ、お肌がボロボロ……。
しっかりとお風呂で体中を洗った後は着替えを済ませて魔導冷蔵庫から飲み物を取り出して飲んで、やっと自分の部屋に戻った。
こんな事になるなんて……本当にツイてない。
何が侮辱罪よ。
そんな事を思いながらベッドに横になり、私は久々のベッドでグッスリそのまま眠ってしまった。
その翌日――。
「え? エドガー様が私に会いたがってる?」
「外でお待ちよ。行ってらっしゃい」
「今更話す事なんて」
「店の外にずっといられると迷惑なのよ。さっさと行ってきて」
外に出ると、脂と汗の混ざった匂いが鼻を刺した。
立っていたのは、やつれたエドガーだった。
「……臭いわね。何か用?」
「何か用? じゃねぇだろ? あんなに愛し合っていた俺を簡単に捨てやがって」
「は? アンタの価値なんて姉の婚約者だったって事とぐらいで、それが無かったら無価値よ」
「お前……っ!」
「それより何の用よ。外にいられるとお義母様が困るんですって。早く要件を言って」
「そうだった。ナディアは何処にいる。お前住んでる家を知ってるんだろ?」
「そうだけど、馬車が勝手に行ったから知らないわ」
「くそ……。ナディアの所なら雇って貰えるかもしれなと思ったのに」
「貴族街の大きなお屋敷だったわ。一度行ってみたらどう?」
「貴族街なんてどこもデカい屋敷ばかりじゃないか」
「知らないわよ、運が良ければ会えるんじゃないの? じゃあね」
「あ、待てよ!」
そう言われたけど余りにも臭くて一緒に居たくなくてドアを閉めて鍵も掛けると、エドガー様はトボトボと歩いて去って行った。
何あれ、家から追い出された感じ?
馬鹿ね。でも私の所為じゃないわ。
「あーあ、朝から嫌なもの見た」
「……あんなに愛し合っているようにみえたけれどね」
「それは姉の婚約者だったから遊んでやってただけよ」
「最低ね」
「そうだわ……私もロガンド副会長の御屋敷で住み込みで働けばいいのよ! お義母様、紹介状書いてくれる?」
「貴女、今度やらかしたら断頭台で首が飛ぶわよ」
「またそうやって脅かして……。私程優秀な者はいないもの! ロガンド副会長様も私を選ぶに違いないわ!」
そう意気揚々と語ったけれど、お義母様は私の為に紹介状を書いてくれることは無くて、店で一悶着あったけど、外に追い出されてしまった。
まぁ、久しぶりの外の空気も味わわないとね。
でも、いい案だと思ったんだけどなぁ。
私がメイドとして働いたら、姉を扱き使ってやって、ロガンド副会長とロマンスを味わって、姉を婚約者の座から引き摺り落として私がその座に収まるの。
絶対素敵だわ!
その為には是非、エドガー様には姉の住んでる屋敷を探し当てて貰って、姉に少しでもダメージを与えて貰わないとね。
愛していた男が惨めになっていたらどんな気分になるかしら?
絶対に見つけ出させる。
姉の笑顔を、私の手で潰してやるんだから。
だって私は、姉なんかよりずっと価値がある。
選ばれるのは――最初から私のほうなんだから。




