第1話 破断になった結婚式
新連載です。
異世界恋愛は苦手な部類ですが、頑張りました(`・ω・´)ゞ
楽しんでいただけると幸いです。
(既に脱稿しているので、安心してお読み下さい)
――あの日は土砂降りの結婚式……になる予定だった。
胸の奥が、冷たい水に沈んでいくような感覚を、私はまだ忘れられない。
母と彼の両親と、決定的な場面を見るまでは……。
「もう直ぐ結婚式だっていうのに、他の女のキスマークなんてつけて結婚するの?」
「ははは、あの女の事だから軽く消してれば気づかないよ」
そんな声が新郎の控室から聞こえた。
思わずドアノブに伸ばした手が止まる……。
けれど次の瞬間、彼の父親がドアノブを回し中に押し入ると、そこには義妹と抱き合って熱いキスをする、私の夫となる筈だった人がいた。
「きゃあ!」
「な、なんで皆ここに……」
「お前は何をしているんだ!」
義父になる人の罵声が部屋に響き渡り、二人は慌てて離れたが、新郎の顔を義父になる人が殴りつけ、義母になる人は口を押さえて座り込んでしまった。
そう、今から結婚式……と言う時点で、あろうことか義妹と新郎の浮気現場を目撃してしまったのだ。
「あーあ……。折角楽しんでたのに~」
「楽しんでたって……。メアリー! 彼はナディアの――」
そう母が叫んだけれど、義妹のメアリーは悪びれる様子もなく言葉を続けた。けれどそれは、信じられない言葉だった。
「だって~? お姉ちゃんに内緒で彼とはずーっと付き合ってたわよ?」
「……え?」
「お姉ちゃんじゃつまらないんですって。結婚するまで体は綺麗なままでいたいからとか言って身持ちも硬くて古臭いって。
だからその辺りも含めて私がお姉ちゃんの婚約者さんを癒してあげてたんじゃない。なに? 私が悪いの?
だって、お姉ちゃんがちゃんと彼を満足させてあげてたら、こんな事にならなかったんでしょ?」
「メアリー! この結婚は遊びじゃないのよ!? 身持ちが固くなるのは我が家が代々老舗のドレス店だから、外聞きが悪くないようにって、私の方から厳しく伝えていたのよ!」
「ハッ? 古臭いドレス店がなんて?」
「メアリー!」
義妹のメアリーと、私の婚約者だったエドガーさんが長い事二股をしていた事にもショックだったけれど、これから結婚式だと言うのに、二人は恥じる様子もなかった。
私の家【フィズリー洋服店】。
古都から続く歴史ある店で、王族、貴族御用達のドレス・貴族の服店だ。
元は父のお店だったけれど、父が事故死してから母が頑張って経営していた。
けれど――数年前、親戚の人に無理やり勧められて母が結婚したのが今の義父で、その連れ子が義妹のメアリーだった。
そして、私と婚約していたエドガーさんは、我が家に婿養子に来る予定だった。
けれど……。
「あーあ、もうメアリーちゃんバレちゃったじゃん。ナディアはボーっとしてるから、このまま浮気関係続けようねって言ってたのにさ」
「ごめんねー? まさか呼びに来るとは思わなくて。来ても式場の人かなーって」
「どうすんのコレ。ま、結婚するしかないだろうけどさ! ははは!」
そう笑うエドガーさんだったけれど、私は首を横に振り、母も大きく溜息を吐いて彼のご両親に向き合った。
こうなっては、最早結婚なんて無理だと思ったから。
「悪いですけど、そちらの有責で結婚式は中止させて貰います」
「ええ、そうでしょうな……。愚息が申し訳ない……こんな恩知らずの恥知らずとは知らず」
「嗚呼……フィズリーさん本当にすみません! お宅に融資して貰ったからこそ我が家が持ち直したのに、それなのに恩を仇で返す真似をしてしまって……」
「うちの血の繋がらない愚かな娘も同罪ではありますから。でも、融資は停めさせて貰います」
エドガーさんのご家庭は、我がフィズリー家から融資して貰ったからこそ潰れなかった小さなドレス店だった。けれど彼のお兄さんが今必死になって建て直している最中で、その間のお金も工面していたのだけれど……もう、それもお終いね。
全ては義妹と彼の所為だけれど……。
「え? 結婚式中止するの? でも婚約は続けるんでしょ?」
「する筈無いでしょう。誰達の所為でこうなったと思っているの?」
「私の所為って言いたい訳!? お義母さんは何時もそう! 私ばかり悪者にして!」
「この場合、貴方達が悪く無かったら誰が悪いというの。浮気をするなんて最低だわ」
「そん、だって……」
母にそう言われ言い淀むメアリーに、私はそんなに浮気する程エドガーさんが良いのならと……沈む声で口を開いた。
「そんなにエドガーさんが気に入ったなら……貴女が結婚して差し上げたら……?」
そう私が告げると、義妹は私に灰皿を投げつけてきた。
「酷い……どうして私ばっかり責められるのよ!」
けれど、それは当たらず壁にぶつかって壊れた。
破片が床に散らばる音を聞きながら、私は不思議と何も感じなかった。
怒りも、悲しみも――ただ、ここまで来てしまったのだという、空っぽな実感だけが胸に残った。
その音を聞きつけて式場の人達が慌てて入って来たけれど、この場面を見て色々察したのか、困惑している人、そして頭を抱えている人と様々だった。
すると――。
「ナディアさんなら喜んで嫁に貰うが、メアリーさんは困ります……」
「ええ……メアリーさんは身持ちが軽そうで」
「な、エドガー君のお父さんとお母さんまで酷い!」
「……被害者面は相変わらず得意なのね」
そう私が言うと、駆け付けてきた女性にウエディングブーケを預けた。
その花束は……驚くほど軽かった。
本来なら一生を誓うはずだった重みが、最初からそこには無かったのだと思い知らされる。
胸が痛むより先に、ただ――何も残らなかった。
「何処に行くつもりよ! 結婚するわよね? してくれないと困るわ!」
「結婚していても浮気して遊ぶ約束をしていたのでしょう? どうぞお幸せに……」
「なっ!」
「ナディア待てよ!」
そう言ってエドガーさんが追いかけてこようとしたけれど、お義父さんになる筈だったファーネルさんに押さえつけられ、衣装はグシャグシャになっていた。
メアリーはなおも何か言いかけたが、誰も返事をしなかった。
――こうして私は婚約を破棄する事にして、結婚式もファーネルさん有責の元、なくなる事になった。
その間、義父はと言うと、祝いの酒を呑みすぎて新婦用の待合室で眠っていて、後から母に怒鳴られていたと聞いたわ。
私の結婚式だったその日は土砂降りの大雨の日。
でも、これで良かったのだとホッと安堵も出来て、それからの日々は、義妹はと言うと他の男性と遊び惚けてなにをしているのかも分からないし、義父は浮気相手の家に入り浸ったきり。
私と母がドレス店の仕事に邁進していたある日――。
「将来を見据えたお付き合いを、正式に申し込みたい」
「……え?」
そう口にしたのは、我が家に一張羅の洋服を作りに来た、今最も力ある商会で【ロガンド商会】の若き副会長だった。




