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幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜  作者: 織子


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第2話ー再会

広間へ行くと、2人の子供が座っていた。弟のシオンと、姉のアリアナだ。


「ロワナ姉さま。どうしたの」

シオンが驚いた声を出した。ロワナが嫁ぐ時、シオンはアカデミーに居た。会うのは本当に久しぶりだ。

第一皇女のアリアナもまだ元気な姿だった。


家族に会えて嬉しいばかりだが、ロワナは心配になってきた。

(この夢、長すぎないかしら?私は死んだのよね····?)


「あら?お兄様は···」

ロワナが問うと、皇帝が不思議そうに言った。

「まだ寝ぼけているのかい?オーガストは今年からアカデミーに入ったろう?」


兄であるオーガストがアカデミーに入ったのは、ロワナが6歳の頃だ。ノクティスと出会った時期。


そう言えば、あの日の朝も4人で朝食をとった気がする。父は忙しいので一緒に朝食をとるのは珍しい。だからよく覚えていた。


(これは、もしかして)






❋❋❋❋❋❋❋❋


部屋に戻ると、すぐにエリシャに聞いた。

「エリシャ、今日は何か特別な予定がある?」

「あら、もう知っていたのですか?午後から公爵家のご子息達との交流会があります」


「なんてこと···!」

「ロワナ様?」


(ここまで来ると、夢ではないわ。これは、回帰という現象なのでは)

創世神である女神の気まぐれか恩賞か、稀にそういうことがあると伝記で読んだことがある。夢物語だと思っていたのに、自分の身に起きようとは。


(望んでもいないのに···!!)

ロワナは疲れたから目を閉じたのだ。あの10年を繰り返す気概などない。



「エリシャ、今日の交流会欠席することは出来ないかしら?」

エリシャは首を振った。

「なりません。今回の交流会は4大公爵家が全員参加されるとの事。余程でない限り、出席くださいませ」


余程でないことが起きたのだ。

(しまった。まず体調不良のふりをすればよかったわ) 


回帰したとして、自分に何が出来るだろう。

(とりあえず、ノクティスの運命を変えてあげたいわ)

嫁ぐまでの10年間。自分が好意を隠さなかったために起こった、忌まわしい事柄を起こさないために。





❋❋❋❋❋❋


午後、ロワナはドレスを着替え庭に出た。交流会は庭園で行うらしい。城門に次々と馬車が到着している。

「ロワナ様、やはり膝丈のドレスは着替えませんか?」

エリシャが耳元で言った。


子どもたちの交流会とはいえ、公式の場だ。6歳のロワナは膝下丈のドレスだと子供っぽく映るのかもしれない。だが、頑としてロワナはこのドレスを着た。動きやすいからだ。今日は動き易くなくては困る。


「私は姉さまを探してくるわ」

そう言い、エリシャを残してロワナは庭園に向かった。


皇城の庭園は広い。ロワナは隠れてやり過ごすつもりだった。とりあえず、ノクティスには絶対に会ってはならない。

「シオン!」

弟を見つけると、ロワナは手を引っ張った。

「ね、姉さまどうしたの?朝から変だよ」


淑女教育を受け始め、昨日までしずしずと歩いていた姉の変貌ぶりにシオンは目を見張る。


「ちょっと手伝ってくれないかしら?」

「何を?」

「木に登りたいのよ」


シオンは耳を疑った。



木に登るなどという世迷い言を手伝ってくれるのは、今はシオンしかいない。使用人は絶対に協力してくれないだろう。



シオンは言われるがまま、木に手を付き屈んだが、ほぼ半泣きだった。

歳が1つしか違わないので、体格はロワナとあまり変わらない。早く登って上げなければ可哀想だ。


もちろん、登らないという選択肢はない。


王国に嫁ぎ、時間を持て余していたロワナがハマったものが鍛錬だった。一国の皇女とは思えないほど、ロワナは剣も振れるし、身も軽い。


ロワナは塀を登る要領で、シオンを足蹴にし枝に登った。

足蹴にされたシオンは、見事に背より高い枝の上にいる姉を見て、感嘆の声を漏らした。

「姉上、すごいです」


にやりと笑い、ロワナはシオンに上着を渡す。背に足跡が着くため、上着を脱がしていたのだ。ぬかりはない。

「姉さまはここで用事があるの。シオンは交流会を楽しんでちょうだい。ここにいるのは秘密だからね」


シオンは目をキラキラさせ、頷いた。

「はい!姉さま」

姉の新たな一面に憧れを抱いたようだ。シオンは上着を着ると、人のいる場所へ戻って行った。


(よし。これでいいわ)

ロワナが隠れ場所に木の上を選んだのには、理由がある。ノクティスに会うわけにはいかないが、一目見たかったのだ。

ヴァルグレイス家の馬車が止まるのは、正門と違いいつも北門だ。ここを通らねば庭園に出れない。


(私が6歳ということは、ノクスは今10歳ね)

初めて会った時のノクスは、本当に可愛いかった。大人になったノクスは目つきが悪く、いつも冷たい目をしていたが、出会った頃のノクスの目は優しかった。




北門から声がする。馬車が着いたらしい。ロワナは見つからないよう少し上の枝まで登った。


しばらくすると、使用人と子供が3人歩いて来た。

ヴァルグレイス公爵家の令息3人。


ヴァルグレイスの人は皆、髪が紅い。ノクティスはその中でも暗めの赤銅色なので、すぐに分かった。


(懐かしい。子供の頃は、あの色を探して歩き回っていたわ)

ロワナが登った木を通り過ぎるまで、彼を見つめていた。高さがあるから、ノクティスの顔は見えない。


(仕方ないわ。元気な姿が見られただけで充分)


すると、ノクティスが急に振り返った。ロワナは思わず息を止める。警戒したように赤銅色の瞳を左右に走らせ、また兄たちの後ろに付いて行った。


(び、びっくりした。バレたのかと思ったわ)

しかし、違和感があった。ーーーなんというか、既にノクティスの目つきが悪かったような?


(子供の頃の事を、私が美化し過ぎたのかしら)

それでも、大好きだった赤銅色の髪と瞳が見られた喜びにロワナはしばらく浸っていた。


読んでいただきありがとうございます。

第3話は明日の昼に更新予定です。

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